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UT-Basecamp3期振り返り記事(前編)

2023年4月。UT-BASEが主催する自主ゼミ、UT-Basecampが再始動した。
以来、「最先端の教養を、最高峰の講師と。」をキャッチコピーに、文理を問わず次世代を担うための教養を身につけるべく、約20名のゼミ生たちが1セメスター間共に学んできた。
課題図書を通じてゼミ生たちが考えたこととは?
各界のトップランナーとの白熱したディスカッションの内容とは?
その全貌を、2回にわたる振り返りレポートでご紹介!
今回は前編(「大学論」「特権と社会的マイノリティ」「動物倫理」)をお届けします!


1. ゼミについて

UT-Basecampでは、欧米の大学で一般的な多読・多議論の授業スタイルを採用。各回に課題図書が設定され、ゼミ生はそれを読んだ上で論点や感想、関連資料などを予習課題として提出する。そして、学生のみでのディスカッション回で綿密な事前準備をした後、講師の方にご登壇いただく本番回を迎える。

2. 「大学論」回

講師

苅谷剛彦先生(オックスフォード大学 社会学科 及び 現代日本研究所 教授)


課題図書

苅谷剛彦、吉見俊哉『大学はもう死んでいる?トップユニバーシティからの問題提起』


設定された問い

【問1】東大とはどのような場所なのでしょうか、次の3つの視点から考えてみましょう

  • 歴史的な観点→文献で勉強

  • 現状の社会的な観点→文献で勉強

  • どのような場所であるべきかという観点

【問2】あなたが求める東大像と現状の東大とで乖離はあるでしょうか。あなたが求める東大像と合致している部分も併せて教えてください。

【問3】あなたが考える大学の使命とは何ですか?学生としてそれに貢献するため・それを達成するために、いかなる行動(UT-Basecamp内外で別々に考える)を取ることができると思いますか?1で何かが乖離していると答えた場合、それに対して何ができるかも合わせて書いてください。


ゼミ生からの質問(抜粋)

・文系も役に立つことを主張すべきだということを本で主張されていたが、どういう形にせよ「役に立つべき」という意識を学問をする上で大学生が強くもっているべきか。

・入学時は学力レベルに日本と海外では差を感じない、とおっしゃっていたが、海外の学生は内からくるエリート意識を持ち、日本は社会からくるエリート意識を持っているという違いがあると考える。苅谷先生はこれら二つの種類のエリート意識の功罪についてどう考えていらっしゃるか。
・日本では青田刈り・新卒一括採用の風習があり、うまく大学で学んだことを活用できていない。大学と社会との現行の接続のあり方について苅谷先生はどう考えられているのか。


学んだこと

現状の日本の大学が抱える問題点や、大学と社会の関係について研究されてきた苅谷先生を講師に招き、このゼミ初回として、大学の意義やこのゼミの意義などについて考え直した。ゼミ生は、課題図書を通して日本の大学と欧米の大学の質的な違いを知り、日本の大学が持つ背景の中でこの環境を最大限活用したり、さらに良くしていく方法を模索した。


3. 「特権と社会的マイノリティ」回

講師

出口真紀子先生(上智大学 外国語学部 英語学科 教授)

課題図書

岩渕功一編著『多様性との対話ーダイバーシティ推進が見えなくするもの』


参考図書

・ダイアン・グッドマン著、出口真紀子監訳『真のダイバーシティをめざして 特権に無自覚なマジョリティのための社会的公正教育』上智大学出版 
・アリシア・ガーザ著、出口真紀子共訳・はしがき『世界を動かす変革の力 ブラック・ライブズ・マター共同代表からのメッセージ』明石書店
・ロビン・ディアンジェロ著、出口真紀子解説『ナイス・レイシズム なぜリベラルなあなたが差別をするのか』明石書店
・キム・ジヘ著『差別はたいてい悪意のない人がする 見えない排除に気づくための10章』大月書店
・村本大輔著『おれは無関心なあなたを傷つけたい』ダイヤモンド社
・清田隆之著『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』晶文社


設定された問い

【問1】あるマジョリティ性について、その特権により、気づかずに通り過ぎることができる困難を挙げてください。また、あるマイノリティ性を持つゆえに直面する困難を挙げてください。

【問2】自らのマジョリティ性/マイノリティ性を考慮し、あなたが東京大学にいることが何を意味するか(あなたが学歴特権を持つ意味)を捉え直してください。

【問3】「多様性/ダイバーシティ」という言葉がつるつるした(内実を伴わない、表面上の、綺麗事な)ものである時と、「きちんとした」(内実を伴った、本質的な)ものだと考えられるときの違いは何でしょうか?


ゼミ生からの質問(抜粋)

・自分が不利な状況に置かれていることを受け入れているマイノリティ(その事実に自覚的である場合でもない場合でも)に対して特権を持っている側が格差を是正しようとすることは望ましいことなのか。

・あるマイノリティ性を持っていないゆえに、100%の共感ができないとしたら、「共感なき(100%ないとは限らないけど中途半端な)連帯」としてのアライはその名にふさわしいのか、何をもとに連帯を構築すればいいのか。

・格差を是正するためのアクションの原動力は、マジョリティの上から目線になっている気がする。しかし、この原動力では止まってしまうのではないか。格差の是正やそのための改革が今後正しい方向で続いていく原動力は?差別を生んでしまう社会構造を変えるときに特権を持っている人が特権を手放さなければいけない。デメリットがない状態で格差の解消は可能?

学んだこと

あるマジョリティ集団に属していれば労無くして優位性を得ることができ、別の集団に属していれば理由なく劣位に置かれてしまう。この構造的な不平等を解消するために出口先生が挙げるキーワードが「特権」だ。社会的マジョリティが「特権」に無自覚だからこそ、「いい人」たちによって構造的な不平等が再生産されるのだ。
この概念を予習で学び、自身の特権性に気付かされた後、出口先生とのディスカッションに臨んだ。ディスカッションでは、自分たちがマジョリティとして何ができるかを中心に出口先生に疑問をぶつけた。マジョリティとして何かをしようとした時、それはエゴになってしまうのではないか。マイノリティが経験する不公正を完全には理解・共感できない中で、自分たちは本当に正しく行動できるのか。
このような疑問や不安に対し、出口先生はまずは自分のマイノリティ性に向き合い、自分の痛みをケアすることを勧めてくれた。マイノリティとマジョリティのパワーバランスに自覚的でありつつも、誰もがマジョリティ性もマイノリティ性も併せ持つことに注目することで、マジョリティとマイノリティを分断しないことの大切さを学んだ。
自分自身のアイデンティティがまだ発達途中であり、今回学んだことの実践もままならない中ではあるがだが、これからの自分に何ができ、何をすべきかを考察する指針が得られた、みのりの多い回だった。


4. 「動物倫理」回

講師

田上孝一先生(立正大学人文科学研究所研究員)


課題図書

田上孝一『はじめての動物倫理学』


ゼミ生からの質問(抜粋)

・動物倫理学はどんな世界を目指しているのか?どこまでの権利を動物に想定しているのか、生存権以外にどんなものを想定しているのか?

・動物が主体であるとの主張は、いかにして可能なのか?


学んだこと

私たちは動物とどのような関係を結ぶべきなのか。ヴィーガニズムの普及や環境破壊、食糧難、代替技術の発展が進む中、マルクス研究者の田上氏をお招きして動物倫理学を学んだ。

動物倫理学は大学で扱われることも少ないためか、予習の段階では「(動物倫理の主張は)考えていたよりも理論的な背景に裏打ちされているものだと知った」などの感想がゼミ生から聞かれた。

先生をお迎えして開いた講師回では、ゼミ生同士のディスカッションでは触れられなかった点、本を読んでも尚私たちが「当たり前」だと思っていることに実は種差別的な思考潜んでいることが炙り出され、ゼミが白熱した。そこから動物にどこまでの権利を認めるか、人間の権利と衝突した場合はどうするのかとゼミ生の質問が加速。最終的には動物と限界事例の人間の境界を考えながら、権利と義務を引き離して考える事の重要性を学んだ。

また田上先生はご自身の専門分野(マルクス研究)の知見から、生産技術の発展によってヴィーガニズムの実践が可能になったことが重要だと指摘された。最先端の教養を志向する本ゼミとの親和性を改めて感じた。

5. 中間発表会

中間発表会では最終発表会に向けてゼミ生が興味をもっていることを自由に発表し合った。

以下、中間発表の例
・ことばのポリティックス
・トレンドガチャへの抵抗
・「アイデンティティ」について

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