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UT-Basecamp3期振り返り記事(後編)

2023年4月。UT-BASEが主催する自主ゼミ、UT-Basecampが再始動した。
以来、「最先端の教養を、最高峰の講師と。」をキャッチコピーに、文理を問わず次世代を担うための教養を身につけるべく、約20名のゼミ生たちが1セメスター間共に学んできた。
課題図書を通じてゼミ生たちが考えたこととは?
各界のトップランナーとの白熱したディスカッションの内容とは?
その全貌を、2回にわたる振り返りレポートでご紹介!
今回は後編(「ポスト資本主義」「公共訴訟」「人工知能と脳科学の融合」)をお届けします!


6. 「ポスト資本主義」回

講師

中野佳裕先生(立教大学 21世紀デザイン研究科 特任准教授)


課題図書

中野佳裕著『カタツムリの知恵と脱成長:貧しさと豊かさについての変奏曲』


参考図書

・セルジュ・ラトゥーシュ著、中野佳裕訳『脱成長』白水社クセジュ
・中野佳裕著 「人新世とAIの時代における脱成長」総合人間学会編『総合人間学16 人新世とAIの時代における人間と社会を問う』 本の泉社 等


設定された問い

【問1】私たちが今生きる経済システム(資本主義システム(≒消費社会)、GDPという指標の使用など)の利点と欠点を挙げてみてください。(利点と欠点を最低二つ)

【問2】自分の今までの生活を振り返ってみて、身の丈にあった生活をしたり、倫理観を持った消費活動をしていると思いますか。できている場合、周りの人はあなたと同じような生活をできていると思いますか。できていない場合、なぜ倫理観に基づいた消費活動をすることができていないのでしょうか。(広く社会全体の経済活動においても、環境問題など過剰生産・過剰消費の弊害が見られるようになってきています。社会というスケールでも同じ問いを考えてみてください)

【問3】あなたの住む地域でトランジション・タウン運動が起こったらあなたは積極的に関与しようと思いますか。もし参加したくないと考える場合は、なぜそのように考えるのか、理由を教えてください。


ゼミ生からの質問(抜粋)

・今の社会では資本主義によって欲求が生み出されている。そのようなシステムがある中でスローライフは幸せな社会を作ることができるのか。幸せの価値観の押し付けではないか。

・ソーシャルビジネス(単に経済的な利益を追求するだけでなく、社会や環境の改善に貢献することを目的とする)は確かにその主目的を達成できてはいないが、これが成り立つとするならば脱成長ではなく、ソーシャルビジネスを推進してみるという手法ではどうなのか。

・先生にとって資本主義は悪なのか?資本主義だからこそ文明が成長してきた面も否定はできない上、コモンズに持ち込めるような良いところもあるのではないか。


学んだこと

現代社会は地球温暖化や環境破壊、ひいては都市と地方の間にある地域間格差など様々な問題を抱えている。それらの問題は資本主義という既存のシステムが原因となっているしている部分が大きいのではないか。だとすれば、我々が利益をもまた享受している資本主義の代替案は何なのか。

以上のことを問題意識として共有し行った予習回では、中野先生がご自身のご著書で何回も言及されていた「コモンズ」や「共通善」という概念についての確認を行うとともに、現在私たちが生きる資本主義社会に根本的な変化をもたらすことは可能なのかという議論も行った。い、課題図書で紹介されていた概念を具体的なレベルにまで落とし込み、個人がどのように現在の大量消費社会に向き合っていくべきかに焦点を当てていた印象があった。

しかし、中野先生をお招きした講師回でゼミ生は経済活動のあり方を概念として捉えることを学ぶ機会を得る。グローバリズムや欧米による開発主義を疑問視する中で派生した「脱成長」という概念は、成長し続けることを志向する資本主義とは異なる「可能性」として生み出されたことを学んだ。また、講師回では資本主義を批判するだけではなく、資本主義はもともと人と人の間にある将来に対する信用を築くシステムであることを再確認し、ソーシャルビジネスという領域が再びこの信用を生み出す可能性として注目され得るという可能性を見出すこともできた。

7. 「公共訴訟」回

講師

谷口太規先生(NPO法人CALL4代表理事)

課題図書

CALL4記事、在外国民審査訴訟裁判資料、その他法学論文3点


設定された問い

【問1】
なぜ日本においては声を上げることが忌避され、叩かれ、困難になっているのでしょうか。また、訴訟を通じて声を上げることが困難な要因の内、大きな障壁になっていると考えるものを具体的に教えて下さい。

【問2】
特に立法機関との関係で、司法が果たすべき役割は何でしょうか。課題論文を読んで批判的に考えたこともあれば共有してください。

【問3】
課題で取り上げた進行中の4つの訴訟から一つ選び、1&2で考えたことを踏まえながら「その問題を訴訟を通じて解決する意義」について考えてみましょう。


ゼミ生からの質問(抜粋)

・公共訴訟を応援したいと思ったときにどのような手段があるのか。

・国民の声が議会で取り上げられないから公共訴訟に頼るのはわかるが、本来国民の声を社会に反映させるのは国会の役割であるはず。司法が過度に立法・行政に干渉して、バランスが崩れてしまう可能性はないのか。それとも司法が強権化してもいいのか。CALL4は三権+市民をかかげているから三権分立から問い直した方がいいのか。

・公共訴訟の限界はどこにあるのか。


学んだこと

ここまでのゼミで学んだ様々な課題。しかしそれを解決したいと思えば思うほど変わらない現状に閉塞感を感じてしまう。そんな息苦しさを「共感」の力によって打破し、自分と社会を繋ぎ直すことを目指して私たちは潜在的な問題を社会問題化する手法を考えた。

予習回では「結婚の自由をすべての人に」訴訟や旧優生保護法訴訟などさまざまな公共訴訟の事例を読み解くことで、公共訴訟が可能にする、立法・司法・行政に続く第四のセクター:市民の力の大きさを知った。

講師回では一転、最前線で戦う先生から公共訴訟の難しさを学んだ。予習回で学んだよりも劣悪な入管の現状、公共訴訟における証拠収拾の困難さ、社会的関心の低さ。そして、それでも変わらないを変えるという谷口さんの強い思いにゼミ生は勇気づけられた。


8. 「人工知能と脳科学の融合」回

講師

紺野大地先生(医師・神経科学者)


課題図書

池谷裕二、紺野大地『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線』


設定された問い

【問1】
Kernel(脳の動きを記録できる非侵襲型デバイス)がビジネスに応用される具体例を一つ考えてみてください。

【問2】
「脳をコンピュータに再現できれば、そこには意識が宿るはずだ」という主張があります。その主張についてあなたなりに「意識」を定義した上で、その是非などについて論を展開してみてください。

【問3】
「脳の構造そのものには変化はないが、潜在的な進化の可能性を残している」という記述はどういうことでしょうか


ゼミ生からの質問(抜粋)

・人間の能力を拡張していった先には、人間の必要とされる能力が一元化(価値が一元化)し、人々の間にロールモデルのような生き方が想定されることにもなりかねない。すると、この技術の下で多様性はどのように確保されるのか?

・この研究だけに言えることではないかもしれないが、危険性のある結果を生み出すかもしれない研究の主体はどこにあるのか。誰がその研究を進めて、その相対化を行う人は誰なのか。

・「脳の構造そのものには変化はないが、潜在的な進化の可能性を残している」という記述はどういうことか。


学んだこと

人工知能と脳科学という最先端分野を融合的に研究することで期待される未来に衝撃を受けるとともに、「人工知能などのデバイスに意識が宿ると仮定した際に権利対象となりうるのか」などの問いについて議論し合った。自然科学的な知を、社会科学・人文科学的な知で相対化することの重要性について再認識するきっかけとなった。

先生の、「テクノロジーの発展により、脳の新しい力が開花するかもしれない」という言葉は非常に印象に残った。現在のテクノロジーは人間の生活を便利にするだけでなく、良くも悪くも思いもよらない結果を招く可能性があることを痛感した。

9. 最終発表会

最終発表会では、UT-Basecampでの経験を通じて自身が考察を深めた内容について形式を問わず成果物を作成し、それを共有した。
ゼミ生は皆、講師の方々の言葉の中で自分に響いた言葉を取り上げ、そこからさまざまに施策を深めており、どれも非常に興味深いものだった。

以下、最終発表の一部。
・司法は誰がためにある
・Basecamp以降の動物論探究
・『目的への抵抗』が持つ本当の意味

10. おわりに

「最先端の教養を、最高峰の講師と。」
このスローガンのもと、6つのテーマを1セメスターかけて扱い、学びを深めたゼミ生たち。
大学の講義では扱われない、新たな学びを得ることができたことだろう。また、その過程で、かけがえのない友を見つけた者もいたようだ。
学びのコミュニティとしてのUT-Basecampでは、独自の読書会や勉強会が創発する。UT-Basecampを経て成長したゼミ生各自が中心となり、人と知の輪が広がっていくことを願って止まない。


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