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高知県土佐市宇佐。高知市の南西、四国で言えば中央下段といったような位置に存在する、海沿いの小さな町だ。
一度通りかかっただけの場所だが、たぶん、県内でも有数の、マリンレジャーの名所だったのだろう。当地は、深く入り組んだ入り江の河口、その北側に存在する。この入り江は浦ノ内湾と呼ばれ、南側には、なんと表現したらいいのだろう、特徴的な形状の岬が突き出ている。景色は雄大で、海は青く輝き、それでいて波も穏やか。こういう場所では、何をしても心地が良い。海に浸かってもいいし、道を走ってもいい。ただ何もせず景色を眺めたり、風を感じたりしていても気持ちの良い時間を過ごせるのだから、お得である。
さて、四国と言えば八十八ヶ所の札所である。この近くにもそれがある。四国霊場三十六番札所「青龍寺」だ。この寺の立地は、けっこうややこしい。宇佐と寺院は、直線距離でいえば目と鼻の先のような位置にあるが、両者は入り江の河口によって隔てられている。何を隠そう、青龍寺は、岬の突端にそびえているのである。つまり、「厳密に」陸路をなぞるのであれば、全長10km余の入り江沿いを、わざわざぐるっと回り込んで、岬の最果てまで進む必要がある。ドラクエ1みたいだ。
「厳密に」と念押しをしたのは、現在では河口に橋が架かり、ごく簡単に両者を行き来できるためである。したがって、宇佐から青龍寺を目指すお遍路さんは、よほどの物好きか、お遍路原理主義者でもない限りは、その橋を利用し、海を眺め、口笛でも吹きながら青龍寺を参拝するのである。
そんな話を聞いたのは、宇佐の県道23号沿いにあるファミリーマートの駐車場だった。
ファミリーマート土佐市宇佐店は、観光地を感じさせるコンビニである。嘘だと思うなら、ストリートビューで調べてみてほしい。巨大な敷地と建物、瓦屋根、バリアフリーの入口などなど、いかにもである。観光シーズンにはレジャーの車でごった返すのだろう。ちょっとした道の駅みたいだった。
私は、そこで食事を取った。四国では、コンビニをよく利用していた。さっと購入して、すぐ食べられる特性が、急ぎの旅にマッチしていた。狂ったように食べまくっていたのは、つくね串である。つくね串は、その摂食過程において、ソースを架けたりフィルムを外したりする手順が存在しないため素早く食べられ、なおかつタレや脂分で手がべた付いたりするリスクが少ないため、快く食べられる。あと、エネルギー効率もいいような気がする。この際、ガンとかにも利くのではないか。すべての営業職のバイブル「THE営業道(書籍版)」では、常に動き続ける営業職にオススメのコンビニ食としておにぎりが推奨されていたが、以上のことから、私に言わせれば、おにぎりよりもつくね串のほうが推奨されるべきである。
「お四国さん!?」
そんな感じでファミリーマートから出て、出口前の階段を下ったその時、私を追いかけて、同じ出口から出てきた中年のオッチャンに、声をかけられた。店内で私を一目見て、旅をしていそうな気配を感じ取るなり、慌てて追いかけてきた様子だった。
「この近くで宿をやってるんですけど、私も昔、八十八ヶ所を回りましてね。お四国さんを見かけて、いてもたってもいられなくなってしまったんです。ああ、そうだ。梶ヶ浦の渡し舟には乗られましたか?」
「梶ヶ浦の渡し舟」というのは、高知市から宇佐に来る間、桂浜の北に存在する入り江で就航している渡船のことである。(現地で呼ばれていた名前をすっかり忘れてしまったので、GoogleMapで探して出てきた名前を使っているが、多分合っている。)実際、そういうものがあると聞いてわくわくしていたのだが、当地を通りがかってみると丁度運休日で、結局乗ることができなかった。残念。
「エ~ッ、それは間の悪い!」
その旨を告げたところ、オッチャンがまるで、自分のことのように残念がったので、ちょっとおかしかった。
「実はね、この浦ノ内湾にも渡し舟があって、入り江の奥までいけるんです。歩きのお四国さんは、船に乗るのは嫌がるかと思うんですけどね、実は、お大師さん(弘法大師)がここに来られた時、船で浦ノ内湾を越えられたんです。だから、たとえ歩きのお四国さんでも、お大師さんの足取りをなぞって、ここは、船で進むんですよ。」
「それはすごい。」
「でも、今日はもう船が無いし……。どうですか、私のところで一泊しませんか?お金がないなら、庭にテントを張って寝てくださってかまいません。お代は取りません。お接待ですよ。今から須崎を目指すんじゃあ、途中で日が暮れてしまいます。」
(……ん?)
なんていい人だろうと思った。思ったが、微妙におかしい。話が噛み合ってない。須崎市までは、ここから自転車なら数時間程度。今からだと、日は傾くかもしれないが、暮れるほどでは…………アッ!
「す、すみません、私、自転車なんです……。」
「あっ!」
いわゆる自転車乗りのような恰好をしていなかったので、そういう勘違いは良くされた。なんというか、色々気遣いして、思案もらった手前、申し訳ない気持ちだったが……。
「ああ、なんだ、なんだ、そうだったんですね!じゃあ、須崎までいけますね!」
そう言うオッチャンの顔は晴ればれとしていた。浦ノ内湾にさし込む初夏の日差しのように、気持ちの良い人物である。これが土佐の男か……。
そのあと、貴重なお話とお気遣いに謝辞を述べて、オッチャンと別れた。オッチャンからは、民宿の名前が記載された名刺をもらって、これは大事にしようと思い、しまっておいたはずなのだけど、自宅に帰ってから、いったいどこにしまい込んだか。まったく思い出せない。オッチャンの宿に、いつか、泊まれるといいな……。
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