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妻の事。
妻の事を少し話そうと思う。
2年半くらい前の事。
2020年の夏。
俺のアルコール依存はピークだった。
2週間くらい毎日飲み続けて、飲み続けて。
身体が動けなくなるまで飲み続けて。
限界が来るまで飲み続ける。
内臓の痛みや、吐き気や発汗、幻覚は飲むとおさまる。
調子良くなると誰かに電話しては憂さ晴らししたり、当たったり、昔話をしつこくしたり(多分)
その電話する人の一人だった妻は、いつも心配してくれた。
朝でも昼でも夜でも電話に出てくれた。
仕事中の時はさすがに出れないのはわかってるくせに、俺は何度も何度も電話した。
病気だよ。まさに。
飲んでる時は調子良いから明るい話をする。
離脱症状が起きてからは絶望的な話をする。
『死にたい』『殺してくれ』『もう死ぬから』『今すぐ首を斬りたい』『巨人に一瞬にして潰されたい』
酒に支配されたクズな俺の言葉を一度たりともシカトしなかった。
ずっと味方だった。
否定しなかった。
俺の事が心配で、会いに来てくれたり、俺が酔って呼び出したり。
それでも彼女はすぐに来てくれた。
近くのコンビニの駐車場で車を止めて、ただ黙って一緒にいてくれた。
酔ってる時は会えるのが嬉しかった。
酔っ払って色々な曲を聞かせた。
彼女も黙って聞いてくれた。
酒が抜けて吐き気がくると、俺は彼女に別れを告げコンビニで酒を買って帰っていく。
どうしようもない奴だったよ。
金が無い時は酒すらせびってね。
頼むからコンビニで買ってきてくれって。
何分考えたかは覚えてないけど、沈黙の後に、酒を買ってきてくれた事もあった。
彼女は共依存してる事は気付いてはいたと思うけど、それでも俺に会いにきてくれた。
『病院行こう』
彼女が俺に何度も病院をすすめてきた。
それが本当に嫌だった。
敵に見えたよ。急に。
仲間とも疎遠だったし、家族から見放された俺は頼れるのは彼女しかいなかった。
だから俺も言うことを聞くしかなかった。
俺よりもずっと依存症の事を勉強し始めた。
たくさんの資料や当事者やその家族の体験談など。
俺に見せてきたが、俺は読みたくもなかった。
持ち金全て酒に使って携帯代も酒に使って。
もう携帯止まるって時も、どうせ彼女が貸してくれるだろうって。
携帯止まったら向こうも心配するからな。
それは貸してくれるだろうって。
講演でも話したけど、とんでもない妄想をするのが依存症です。
目の前に払わないといけない家賃や光熱費や諸々のお金も酒に変わってしまう。
『きっと誰かが貸してくれる』
そんな仲間いないのに。
『あ、1.000円だけ残してパチンコ行こう。きっとあたる』
パチンコなんて嫌いなのに。
『コンビニのトイレにお金落ちてるかも。大丈夫だ。ラッキーな事がおこる』
あるわけない。
そして彼女も携帯代は貸してくれなかった。
もうダメだと。本当に俺を救おうと決めて共依存から断ち切ったんだと思う。
共依存とは依存症当事者の支援をしてしまう事。
金銭的支援、生活支援、住居支援など。
当事者がお酒にたどり着いてしまえる状況を知らず知らず与えてしまう事。
きっと本人は心配で心配で、優しく手を差し伸べてくれてただけなんだろうけど。
そして俺は彼女の覚悟が少し分かったんだ。
どんどん彼女も疲れていってね。
会う度に疲弊してるのがわかった。
もう俺の事を考えて考えて悩んで悩んで。
それでも俺から離れる事はなかった。
ある日、全然電話に出てくれない日があって。
俺がまた嘘ついて酒を飲んでたから。
多分それに気づいたんだろう。
電話しても、電話してもずっと出てくれない。
1日連絡取れなくて、俺が気絶して目が覚めて携帯を見たらLINEが入っていて。
『もう嘘つかれるのに疲れました。あなたの事を考えたくない』
だったかな。確かそんな内容のLINEがきていた。
もう終わったなって。
俺は終わった。
もう終わりだよ。って。
死のう。本当に死のう。
って。
でも彼女はそこでも諦めないでくれた。
『病院行こう。あなたは病気です』
もう一回強く病院をすすめてくれた。
俺も本当に腹を括ったよ。
『俺は病気だ。アルコール中毒だ。依存症だ』って初めてそこで認める事が出来た。
そして2020年10月15日に断酒治療を始めて2年になる。
どうしようもないやつだったよ。
今でもどうしようもないやつだよ。
音楽なんてやる資格もないのかもしれないし、ましてや再婚して新しい家族がいる事すら、そんな資格もないのかもしれない。
でもどんな人間だろうが、生きていかなきゃならない。
明日は必ずやってくるし、前を見なきゃならない。
死を選べなかった根性無しの俺も、今では少しは誰かに勇気や元気をあげれてるのかもしれない。
そして妻や息子にとっては世界で一人の存在なのは間違い事実だ。
だから、これからも絶対に飲まない。
負けない。
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