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オリンピック憲章 ~天下分け目の2004年~

知らなかった。「天下分け目の・・・」といえば、普通は 慶長5年(1600年)の関ヶ原の戦を思い浮かべるが、まさかオリンピック憲章にも「天下分け目」ともいえる大転換点があったとは・・・。

JOCのサイトによれば、

「オリンピック憲章とは、国際オリンピック委員会(IOC)によって採択されたオリンピズムの根本原則、規則、付属細則を成文化したもので、オリンピック競技大会の開催の条件を定めるもの」

とのこと。オリンピック憲章全文(英語&日本語)はJOCのサイトで読むことができる。


このオリンピック憲章の「開会式及び閉会式」の項目を見ていて、おもしろいことに気が付いた。2003年版(2003年7月14日から有効)では

・国家元首はIOCとOCOG(大会組織委員会)の出迎えを受ける
・選手団は、貴賓席のボックス前を通過する際、開催国の国家元首並びに IOC 会長に敬礼をする
・OCOG会長は開会式に祝辞で「私は国際オリンピック委員会会長、……氏にご挨拶をお願いするた め、お招きする栄誉を得ました」と言う


とあるが、2004年版(2004年9月1日から有効)からはすべて削除されている。

「IOCって何様のつもり?」

この項目を目にした時の正直な感想である。1つめに「国家元首は出迎えを受ける」とあるが、「IOCとOCOGが国家元首をお迎えする」ではないところが恐ろしい。翻訳ミスではない。原文(英語版)にも

The Head of State is received at the entrance of the stadium by
the President of the IOC and by the President of the OCOG

とある。オリンピック憲章なのに自分たちの行動を記すのではなく、「国家元首は我々の出迎えを受ける」と先方の行動を制している。せめて"is"ではなく”will be recieved"にすべきだったと思う。

そもそも国家元首の「開会式への強制出席」が理解できない。憲章の別の項で「開会の宣言は国家元首が行う」とIOC側が勝手に決めているが、「開催したければ国家元首に開会宣言させてください。それがダメなら候補地に立候補しないで」ということなのだろう。強制しなくても「御招待」すれば喜んで出席すると思うのだが・・・

2つめの「国家元首並びに IOC 会長に敬礼をする」についても、国家元首への敬礼は理解できる。「ホスト国がたとえ敵対国であっても、国家元首には敬意を表しましょう」まさにこれこそがそれがオリンピックの精神ともいえる。選手が「オリンピックをありがとう」とIOC会長に敬意を表すの自由だが、IOC側が選手に「会長に敬礼」を強制するのって、どこぞの反社会勢力かブラック企業か?

国によっては「一民間団体のトップを国家元首と同等に扱うことは出来ない。国賓並みのもてなしはするが、国賓ではないことを自覚せよ」となってもおかしくない。

3つめにしても同じ。親会社(IOC)の人間が子会社(JOC)の人間に謝辞を強制するのってどうなの?「いいか、公の場で俺のことを褒めたたえるんだぞ。文章はこっちで考える。そうだな・・・冒頭部分はこう言え。この度は弊社主催のスポーツ大会であるにもかかわらず、親会社である〇〇のXX会長にお越しいただき、感謝感激雨あられ・・・」


2003年から2004年の間にIOCで何があったのか?どのようなきっかけでこのような改革が行われたのか?もしかして弁護士でもある第9代IOC会長・バッハ氏の功績か・・・・と思って調べてみたら違いました。バッハ氏の会長就任は2013年9月。改革は第9代会長ジャック・ロゲ氏の就任期間中(2001~2013)に行われています。


2004年を境に大きく変わったオリンピック憲章。2004年にはアテネ大会が開催されたが、アテネ大会は8月29日に終了している。2004年版が有効となったのが2004年9月1日からだから、新しい憲章が適用されたのは2006年のトリノ大会(冬季)、2008年の北京大会(夏季)からとなる。


まさかトリノか北京の組織委員会からクレームでも来たのか?開催地に立候補した段階で「あのさぁ、IOCさん。憲章のこの部分、ちょっとだけ変えてもらえません?今のままだとうち親分(国家元首)のメンツが丸つぶれで・・・立候補したいんだけど、親分のGOサインがなければ・・・」

イタリアは過去にもオリンピックを2回開催(コルチナ・ダンペッツオ+ローマ)している。となるとあやしいのは初開催の中国????


果たして水面下での動きがあったのか。IOC側が忖度したのか。純粋に「時代は変わった」としてIOCが憲章を見直しただけなのか。真実はわからない。が、中国側は残念がっているに違いない。


どうして「選手団は、貴賓席のボックス前を通過する際、開催国の国家元首に敬礼をする」の一文を残してくれなかったの?仮想敵国の代表選手が中国共産党にひれ伏す最高のシーンを、世界中に生中継できるチャンスだったのに・・・と。


あれ、もしかしてこれって逆で、中国共産党に敬礼したくない国がIOCに圧力をかけたのか?

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