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関係者と連帯責任

先日の読売新聞(2021年7月13日付夕刊)に、「英米の五輪スタッフ逮捕 コカイン使用容疑」とあった。

これだけを見たら逮捕されたのは英国・米国のコーチ陣か五輪委員(JOCの英米版)の誰かだと思ってしまうが、実際に逮捕されたのは「大会用仮設電源の設置管理を委託契約しているアグレコ・イベント・サービス・ジャパン株式会社(以下、アグレコ社)の社員」で、米国と英国籍を持つ電気技師らしい。

これって五輪関係者なのだろうか?ただ単に「オリンピック関連の仕事を請け負った会社の社員」が逮捕されただけじゃないの?

「五輪スタッフ逮捕!」としたほうがインパクトがある、見出しには字数制限があって「輪現場の請負会社の社員逮捕!」とは書けない・・といったメディア特有の事情もあるだろうが、記事には大会組織委員会のコメントを載せている。

「事実であれば、決してあってはならず、大会をも傷つけるもので、誠に遺憾」

これは「残念だ」と言っているだけで、謝罪しているわけではない。当然といえば当然で、読売新聞が大会組織委員会のコメントを載せる意味がわからない。記者としては「五輪スタッフが逮捕されたんだから、大会組織委員会のコメントを」と安直に考えたのだろうが・・・


じゃあ読売新聞の記者が取材時に使ってるハイヤーの運転手が勤務時間外に何らかの容疑で逮捕された場合、読売新聞はコメントを発表するのか?新聞印刷用の紙やインク、社内で使用しているPCを納入している会社の社員が逮捕された場合、読売新聞はコメントを発表するのか?仮に読売新聞の購読者が逮捕されたとして、朝日新聞の記者がコメントを求めた場合に読売新聞側は「弊社読者が逮捕され、誠に遺憾です」と正式に発表するのか?


そもそも委託契約している会社の社員は「五輪スタッフ」なのか?ならばオリンピックスタジアム(新国立競技場)の建設に関わった作業員はすべて「元五輪スタッフ」になってしまう。その「元五輪スタッフ」が事件や事故を起こすたびに読売新聞は大会組織委員会にコメントを求め、大会組織委員会は「遺憾」のコメントを出さなければいけないのか?

たとえ関係者や社員の犯罪であっても、その犯罪が「業務に関係あるもの」以外ならば無視していいような気がする。現役の警察官が罪を犯した場合、警察幹部が勢ぞろいして頭を下げるシーンが恒例となっているが、この犯罪が「警察官としての権力を悪用した」ものならいざ知らず、「非番の時にスーパーで万引き」ならば幹部は一切無視していいと思う。いや、逆にコメントを求めるメディアに対しては「えっ?それコメントする必要あるの?個人の犯罪であって、組織とは関係ありませんよね」でいいと思う。

「万引きするような人間を警察官として採用するな」という非難の声が上がるかもしれないが、採用したのはその幹部ではない。「監督不行き届きだ」と言われるかもしれないが、監督しているのは「職務中」であって非番の時の行動まで管理しているわけではない。「国民がそれを求めている」のであれば、「国民の考え」を改める必要があると思う。

おそらく多くの人にとってこれは「暴論」であろう。義務教育の過程で「連帯責任」なるものを植え付けられてきた日本人にとって、「己に非がなくとも連帯して他人の責任を負う」ことは美徳なのだから・・・

令和時代の義務教育ではどうなっているのだろう。昭和と同じく、「連帯責任」の考えがはびこっているのだろうか。

トラブル時の常套句「責任者を出せ!」。職務中ならば責任者は存在するが、私生活において責任者は存在しない。個人が起こした行動は、個人が全責任を負わなければならない。職務中においても使用者責任であって、連帯責任ではない。それは世界中、どこでも同じはずである。まさか日本では「所属する組織の長・上司」は、職務を離れた社員の私生活においても連帯して責任を取らなければいけないのか?そのために企業は「法律を守りましょう」「交通ルールを守りましょう」といったバカげた研修を行わなければならないのか?

「連帯責任」と「警察官・教育者は聖人君子たれ」。この2つを日本人の常識から消し去れば、日本企業の生産性は上がり、冤罪やいじめが減るような気がする。



追加>

「現職警察官が犯罪を犯したのであれば、それが私生活におけるものであっても警察幹部が国民に頭を下げるのが当たり前。それが日本人として常識。日本に住んでいるのなら、日本のルールに従え」

といった趣旨のお言葉をいただいたが、その「常識」とはあなたが「昭和の時代に叩き込まれた単なる習慣」ではありませんか?その「常識」は日本国内では通用しても、日本以外では通用しない可能性もあります。理解されないだけでなく、馬鹿にされ、逆に非難されることもあり得ます。

それに「常識」は時代によって変わります。子供たちに「うさぎ跳び」を強要したり、「運動中には水を飲むな」といった間違った「常識」を押し付けないよう、お気を付けください。「肩が痛い」というピッチャーに「原因は練習不足。もっと投げ込め」といった根性論はもはや犯罪です。

日本に住んでいるので日本のルールには従いますが、わけのわからない出所不明・根拠不明な「常識」にはこれからも疑問を投げかけたいと思います。


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