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ひめもすオーケストラ 〜日々奏でる少女たち、再び頂点めざして

この季節になると楽天チケットからTOKYO IDOL FESTIVAL (以下:TIF)の全国選抜ライブのおすすめメールが届く。日本最大級の夏のアイドルフェスティバル、TIFに選ばれなかったアイドルで、出場を希望するグループもしくはソロアイドルがいくつかの地域にブロック分けされ、その中で出場権をファン投票、ステージ審査で争うものだ。

この知らせがくると2年前のあのステージを思い出さずにはいられない。
2022年7月3日、新宿Renyで行われた全国選抜セカンドチャレンジ。
あの日、すべてがひめもすオーケストラのためにあった。イベントが始まった瞬間から最後まで、まるで神様に導かれるように。

新宿RenyのあるiLAND HALL

2022年の全国選抜LIVEに私の推しのグループが出場し、このイベントに熱狂した。LIVEの前哨戦、SHOWROOM審査は推しにとってはオーディションでもあったので手慣れたもの。次のLIVE審査のため5月5日、新宿Renyに向かった。

まだプレデビューしかしていない私の推しグループは鍛えたダンスだけが武器、まだ楽曲を歌いこなすところまでいっていなかった。なんとか本番で、と祈るばかりだったが、やはり実力以上のものは出なかった。対するライバルは?と、目を向けたところ、ひめもすオーケストラ(以下:ひめオケ)というグループを目にした。

名前はなんとなく聞いたことがあるような。初めて見るステージはいわゆる王道な、可愛く、楽しく、元気なステージをする印象。それにしてもかなり曲が難しい。「はちゃめちゃ交響曲」なるタイトルがつく曲があるように、激しい。これをあのフリをしながら歌うのはかなり困難。一人を除いてメンバーはsustainがかかる声を持っていない。それでみんな元気いっぱいサビを歌うので案の定、ユニゾンが揃わない。どうしても「荒削り」と感じてしまう。

しかし、その「荒削り」の瞳の奥には「元気」を通り越して「必死さ」が伝わって来る。MCを聞くと前年の落選を受けての2度目のチャレンジだと。雪辱戦、今風で言うところのリベンジ・コンクール(正しい英語かどうか知りませんが。なんでもかんでも”復讐”とはぶっそうな)。なるほど、右往左往の私の推しとは背負っているものが違う。熱演からその意気込みは伝わってきた。

結果発表となり、やはり私の推しグループは落選。ひめオケは次点、各地区の次点と審査員推薦で争うセカンドチャレンジ(敗者復活戦)に回った。このブロックを勝ち抜き出場権を得たのは点染テンセイ少女。(句点を含めてグループ名。以下:テンテン)。テンテンも前年の落選からのチャレンジだと。リベンジ同士の一騎打ち(グループ同士で一騎打ちとは言わないか?)だったらしい。ステージを振り返るとテンテンはスキがなかった。10人という大所帯だったが、その利点を活かしてカラフルな衣装で広いRenyのステージを彩った。そしてその人数が足枷となることなく、ダンスも揃えるべきところは揃い、歌唱もユニゾンの響きが滑らかだった。
蓋を開けてみるとパフォランどおりの小細工のない結果。推しが落選したのは残念だったが、ある意味、この選考に感心した。

甲子園の地区大会のように、一足早く夏が終わった私の推しは、また対バンから足場を固める日々に戻った。新宿Key Studio での対バンで推しの特典会に出向いたあと、ふととなりの特典会ブースに目をやると、2か月後にセカンドチャレンジ(敗者復活戦)を控えたひめオケの面々。われわれより早くライブ、特典会をやって終わりかけ。あらかた列は途切れていた。ビラ配りをしていた百瀬せいなさんが不敵な笑みをたたえて、私の視線を察知し、捕獲しに来た。
私の推しグループが全国選抜LIVEで一緒だったので、そこのオタクにも認知されている公算大、と踏んでの行動(だと思った)。彼女、頭が良い。私も「ブロック代表として敗者復活戦、(私の)推しグループの分も頑張ってね」とエールを送りたかったので願ったりかなったりだった。

と、軽いあいさつで終わるはずが、なぜかその日はめずらしく3現場回し。そのすべてでひめオケがかぶっているという偶然もあり、2現場目からはステージものぞいた。やはりまだ夏が終わっていないだけあり、通常営業の対バンでも熱が入っている。そしてなにより、前回の選抜LIVEより洗練されていた。しっかりと課題克服に向かっているのがわかった。
それを百瀬さんに伝え、推しにもしたことがない3回しをした。

そして7月3日のセカンドチャレンジ。なんと、落選した私の推しも審査員推薦で再び参加することになった。まだデビューしていないのに参加するだけでも驚きだったのに、推薦を受けるとは!
プレデビューのときから、要領を得ないスタッフで「この事務所大丈夫かな〜」と思っていたら案の定、ダメダメな運営だったが、TIFにコネでもあるのか?なにはともあれ、このときばかりは感心した。ということで、再びひめオケとはライバルとして同じ新宿Renyで相対することになった。

オープニング、フジテレビ共催でテレビアナウンサーのMC。番組のような語りかけでイベントを盛り上げる。スターのようにステージ上で輝くアイドルたち。その中で、なにかひめオケだけ放っているものが感じられた。
出演順を決めるくじ引き。何番だったか忘れたが、理想の順番を引き当てた椿野さんの笑顔は無邪気だったが、私は特別な力を感じた。そして椿野さんとともに盛り上がるひめオケ民も一体感が他のグループのそれと違っていた。

LIVEがはじまるともはやひめオケと比べるべきグループ、アーティストはいなかった。「はちゃめちゃ」な熱量をそのままに見事に調和させていた。2か月前から特別スキルが上がったわけではない、楽曲も変わってはいない。しかし、ダンスのアクション一つ一つ、発せられる歌、奏でられるユニゾンに圧倒された。そう、圧倒され、魅了された。発する5人、その熱さをファンがフロアで増幅する。われわれの出る幕などまったくない、まるでワンマンライブをしているかのような空間だった。
くじ引きのときからすべてがひめオケのためにあった1日、すべてがひめオケのためのステージだった。数年に一度出逢えるかどうか、ステージの神様なのか、ステージの魔力なのか、神の祝福に輝くひめオケの姿を拝むしかなかった。

結果は言わずもがな。ひめオケとひめオケ民はTIF出場を決め、本懐を遂げた。

セカンドチャレンジを勝ち、TIF出場をきめたひめもすオーケストラ

しかし、彼女たちが新宿RenyでみせたライブはTIFなど問題にならないほど価値あるものだった。「ステージの神様」に愛でられるとき、それ以上をステージ芸術に求めることはない。それがあれば小さなライブハウスで、観客が一ケタでもゼロでもまったく構わない。武道館や横アリ、東京ドームよりはるかに価値ある瞬間だ。武道館やドームだからといってその後彼女たちになにも約束しない。しかし、神様に導かれたステージは、一生アーティストを、アーティストを辞めても、その後の人生に必ず活かされる。どんな境遇になっても、その生活の場で、あの調和を探し求めればいいと指し示してくれる。
ひめオケは、そんな奇跡をあらためて見せてくれたグループとして気になる存在となった。

落選した私の推しグループは、ファイナルチャレンジと銘打たれたSHOWROOM審査に出場。SHOWROOMなら推しにとっては独擅場、短時間の出場機会を得、かなり下駄を履かせた補欠として、ひめオケさんと同じ年のTIFに初出場できた。推しの晴れ舞台を目におさめつつ、新しい衣装で恐竜になった百瀬さんに会いにいき、あの日の健闘を称えた。

私の推しグループはTIF前に正式デビューとなったが、その年末にはほとんどのメンバーが契約延長されず、休眠状態となった。一方でひめオケさんもTIFメンバー2人が卒業し、昨年はほとんど3人で活動していた。一昨年の華々しさからすると、恐らく苦しい一年だったと思うが、それでもたまに顔を合わせたときには屈託のない笑顔でステージを見せてくれた。

そして今年になり、卒業メンバーを補充できそうな見通しだ。
「アイドルのなんたるか」を知りつくしているのに、かいがいしく”研修生(こんなに違和感のある研修生初めて。はじめに地方長官を諸葛孔明にやらせたようなもの)”からやってくれて、昨今正式メンバーになった鳴瀬りくさん。
「アイドル経験ない」が”うそだろ!“と叫びたくなるくらいエレメントが完璧な奏ありあさん。そのもそのはず、クラシックを極めた人だった。
奏さんはまだ”研修生(この制度、あんまり感心しません)”だが、冒頭の写真のように、まるでずっと前からこの5人だったように感じるくらい違和感がない。

そして今年4月22日”にゃんにゃんフェスティバル”という対バンのトリでひめオケが5人で新宿Renyのステージに立った。(多分)苦しかった一年を乗り越えて、また、あの華々しいひめオケが帰ってくるという期待を膨らませながらメンバーの舞う姿を目に映した。
3人でもステキだったが、そのときの成長を加えて5人でまたあの”Renyの奇跡”を見せてほしい。ステージの幸せを噛みしめてほしい。


追記:実咲まゆさん

この記事を書いているときにショッキングな知らせが入ってしまった。
TIF出場メンバーでリーダーの実咲まゆさんが7月に卒業すると発表された。
セカンドチャレンジでMCのときにリーダーとして登壇する実咲さんの姿はまさにその日の主人公だった。見るからにリーダー。落ち着いた風貌、受け答え。彼女の軸がしっかりしたパフォーマンスは、他のメンバーが力任せにダンスしても散逸しないように収斂させる役割を担っていた。ステージコントロール、オーケストラのコンダクター、コンマスのようであった。激しい動きを是とするメンバーの中において「流麗」を極めた存在だった。かわいらしい顔立ち、エースカラーのピンクを背負うにふさわしいアイドルだった。
三人で支え合った苦しい時期をこれから回収するという時期に、とても残念でしかたがない。卒業までの姿を焼き付けたい。


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