2023年(4~6月)に読んで面白かった本


四半期ごとに書いていたが、4~6月が忙しくて書けなかった。

・「エジプト近現代史」

「エジプトは日本より半世紀前に近代化を始めたのに、未だに発展途上国のままであるのはなぜか?」に答えた本。
その原因はスエズ運河と綿花栽培である。
スエズ運河の設立はエジプトが労働力と資本を負担、エジプトの手持ちの資本だけだと資金不足だったので、英仏が資本を一部提供することで完成した。ところがどっこい、エジプトの資本調達は外債の発行で行われていた。高金利の外債の利子を払えなくなって、借金のかたに英仏がスエズ運河を差し押さえた。

米国の南北戦争によって綿花市場は高騰、これを機にエジプトは綿花のプランテーション栽培に着手した。エジプトが原料をヨーロッパへ輸出することで外貨を稼いだ。
しかし、南北戦争の終結で綿花市場は暴落した。この時すでにエジプトは自国だけで食料を賄えなくなっていた。綿花輸出で稼いだ外貨で食料を輸入していたのだ。やがて、借金で首が回らなくなってエジプトは英国の保護国になる。

エジプト近代史の分岐路は米国の南北戦争というのが面白い。

・「香川にモスクができるまで」

香川県にモスクを作る在日インドネシア人の奮闘記。外国人が寄付金を募ってモスクを建てたことに驚いた。モスクを建てるのを諦めなかったのも、資金を集められたのもすごい。

イスラームにおいてモスクの建設は善行ポイントがすごい貯まる行い。
文中で著者が「モスクを建ててもモスクができる頃には帰国してしまい、恩恵に授かれないけど大丈夫か?」と聞いていたが、モスクを建てること自体が善行ポイントマシマシだから本人がモスクを使うかどうかは関係ないのだ。

・「綿の帝国」

綿花もまた砂糖やコーヒーと同じ帝国主義の落とし子である。
この肌触りのいい衣服の原料となる植物は資本主義の中枢に組み込まれた。

かつて綿花は農民が自分たちの衣服を織るために自給で栽培していた。帝国主義が進むと、列強は第三世界の農民を綿花栽培に専業させるようになった。換金作物に全振りすると飢饉が起きた時に自分たちの食べるものすら手元にない。

綿花相場が少し下落しただけで、資金繰りが行き詰って借金地獄になる。こうして債務の奴隷になった農民は自由を失う。インドやウズベキスタンの綿花農家は100年前と何も変わっていない。国際市場に生活が左右される債務の奴隷だ。

・「東南アジアのイスラームを知るための64章」

東南アジアのイスラームは異教徒と一緒でも比較的仲良くしている。なぜ異教徒と一緒でも仲良くできるかは法律の作り方にある。たとえばシンガポールでは遺産相続の法律がムスリムと非ムスリムで異なる。どちらか片方の教えに寄せると揉めるから折衷案だと思われる。

メッカへ巡礼する時はムスリムの少ない国から行くと待ち時間が少ない。これは受け入れ国のサウジアラビアが国単位でメッカの巡礼者の枠を割り振っているからである。国民の90%がムスリムであるインドネシアではメッカ巡礼が10年待ちはザラである。
メッカへ巡礼したい人はムスリムが少数派の国から申し込むとお得。


・「イスラーム法とは何か?」

イスラーム法だけではなく、法学や近代国家の考え方についても書いてある。イスラーム法を理解するにはイスラームのことだけでなく、法律や近代国家についての知識も必要。

イスラーム法が適用されるのはイスラームの家(ダールル・イスラーム)の範囲の話であり、イスラームの家はカリフが統治している必要がある。

現代社会において、カリフ制を敷いている国家や地域は存在しないためイスラーム法に従う義理はない理屈になる。イスラーム過激派がカリフ制国家を立ち上げたがるのはイスラーム法を施行して、人々に従わせるにはカリフ制を採用している必要があるから。

まとめ

忙しいといっても、本はそこそこ読める。本を読む体力を残しておく程度の強度で働くのがちょうどいい。

最近はリクエストしなくても読みたい本が図書館に入荷されるようになった。





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