『物語・双子座流星群ドラゴン』
2022年12月14日の夜。
どきゅきゅーーーん!
双子座流星群の火球がひとつ、日本ののんきな一軒家を直撃した。
どっかーん、がらがら!
「わー!?なんだなんだ!?」
居間で録りためたサッカー中継を観ていたステテコ姿のお父さんは、そばにある座布団を頭に被りオロオロした。
どうやら、爆音は玄関前で起きたのか…!?
台所で洗い物をしていた母さんは大丈夫か!?子供部屋のタカシは!?
お父さん・木村タカイチは父親らしくあらねばと、座布団を被り、コタツで寝ていたタマ(茶トラ・8歳)も抱き、家族等の安否を確認した。
母さん(サナエ)とタカシは無事だ。よかった。
「あなた…何かしら…Jアラートは鳴らなかった…トラックでも突っ込んできたのかしら…」サナエはなぜか鍋つかみを手にはめ怖い顔をしている。動揺しているのだ。
タカシは「僕はベランダで双子座流星群を観測してて、光が飛んできたんだ…そしたらドカーン!って…」
家族とタマは訳もわからぬまま、ひとまず、大きな音が収まった玄関へ行ってみた。
意外にドアは壊れてもいない。
家族みんなで、おそるおそる玄関に出て、目の前のものをまじまじと見た。
それはゲームでよく見るモンスターっぽい生き物だった。
サナエが無言で気絶した。
それをしかと抱き止め、いろんなことがありすぎて脳はパニック寸前だ。しかし、愛する妻を支え、息子を守る!
それだけで中年男性は踏みとどまった。
翼のあるドラゴンが二頭。
白いのと黒いのが静かにこちらを見つめている。それらはサラブレッドほどの大きさで、本当によくできたCG…いや、存在感や息づかい、独特のミントっぽい体臭?が感じられ。ドラゴンは確かにいるとわかる。
「クルルルルル」
ドラゴンの一頭が怪獣っぽい声で鳴いて、のし!とタカイチたちへ歩み寄る。
なんだか絶体絶命!?
その時「にゃー」
タカシの胸でタマが鳴いた。
ドラゴンは黒く大きな瞳を猫へ向け、クルルにゃー、クルルルルルクルにゃーにゃー、と鳴き合い、会話の様な仕草をした。
「理解しました」
突然、ドラゴンが日本語をしゃべった。猫はそれを聞いて可愛く首を傾げた。
「地球のみなさん、こんばんは。ぼくたちは双子座流星群のドラゴンです。白いぼくはシロップ、となりの黒いのはクロップです」
めちゃくちゃ流暢な自己紹介をし、人間たちを見つめるドラゴン二頭。
「あ…ああ…、わ、私は…えっと、人間の、タカイチと申します。」
この頃になると、爆音を聞いて集まった近所の野次馬たちが二頭のドラゴンや木村家の人間たちを取り巻き、遠慮なくその姿を写真を撮りSNSにアップしている。
大変な騒ぎである。
双子座流星群が綺麗というニュースも書き消すほどの大スクープが日本の片田舎で暮らす平凡な一家を襲ったのである。
「みなさん、こんばんは」
ドラゴンのシロップとクロップは野次馬たちへも言った。
「我々は双子座流星群に乗って遊んでる最中、この家がたのしそうなのでホームステイにきました。邪魔するなら、地球破壊光線でみなさんやこの街や地球も滅亡させちゃおうかな」
ざわめく民衆。いや、いちばん震えているのは木村家の者たちだ。
「お父さん、お願いがあるんです」
シロップが家長のタカイチへ向く。
これが夢でありますようにとタカイチは頬をつねる。痛い。嫌だ、現実だ。
「お宅のカレーライスと、茶の間にあった回転焼きを食べてみたいんです」
ますますどよめく人間たち!
しかし、人間とは奇妙な生き物だ。
未知の生命体ドラゴンが二頭いるのに逃げる者がほとんどいない。それどころか皆スマホを手にし、ドラゴンや木村家の人間を撮り続けている。
タカイチなんかステテコ姿だ。
そうしてるうちにテレビ局の車もやってきて、お巡りさんも駆けつけてきた。
ドラゴンたちはそれらを見渡し、フム、と頷く。白・黒のドラゴンはカメラに向け大きな翼を広げ
『ギャオオオオオー!我らは偉大なる宇宙の神であるぞ!ひれ伏せ!人間どもよ!』と眼を光らせ空へ赤黒い炎を吐いた。
それにはさすがに逃げ出す人間や腰を抜かす者多数。阿鼻叫喚の片田舎!
ドラゴンたちは飄々と「ってな感じで、いいでしょうか?」とテレビカメラへガッツポーズをした。
震えながらもサムズアップするカメラマンへウインクし、ドラゴンたちは次にお巡りさんへ向いた。
「すみません、我々は本気だしたらみなさんを消せるんですが、木村さんに悪い思いをさせたくないのでしません。かといって、ぼくらは地球の兵器では滅ぼせないし、傷ひとつつけることは不可能です。どこかの政府や企業とどうこうもしません。他意はありません。」
シロップとクロップは人間たちをまじまじと見渡した。
「なので、ほっといてくれませんか、ねぇ」
おそらくドラゴンには何かしらの能力があるのだろう。
その場の人たちはドラゴンの言うことに納得したし、SNSやテレビで報道されたことも人間の認識から消えた。
ふと、クロップが上空へ糸状のビームを吐き、空で何かが爆発した。
ステルス兵器だったらしく、それ以降は空も静かになった。
ドラゴンにマインドコントロールされた民衆は「そうだ、サッカーワールドカップの録画を観よう」とそれぞれの家路へついた。
こうして木村家の玄関には、一家とドラゴンたちだけになった。
もうなにがなんだかわからないタカイチと目が覚めたサナエとタカシ。
落ち着いてるのはタマだけ。
猫とは人を癒すものである。
私も猫と暮らしたい。
閑話休題。
10分後。
居間にでかいドラゴン二頭がぎゅうぎゅうになって座っている。
とっても楽しそうに笑っている。
人間たちは疲労困憊。
ドラゴンたちの目の前にサナエ特製カレーライスと回転焼きが置かれた。
「ありがとうございます、いただきます」
シロップとクロップは手を合わせ、カレーを食べる。
「わ、おいしい!」
「お母さんこれ隠し味は?」
「はい、えっと水の代わりにトマト缶で作るんです」
「おー、ナイス!」
喜ぶ怪獣たち。
そして、回転焼きをほおばるクロップ「おお…これ、白いのなんですか?」
タカイチが応じる。「白餡です」
「ほー、白餡。地球にはおいしいものがたくさんあるんだなぁ」
先ほどの騒ぎが嘘の様に、茶の間で繰り広げられる突撃晩ごはん。
子供のタカシはドラゴンに慣れてきた。
「ねぇ、触っていい?」
「もちろん!」
「握手しよう」
シロップとクロップは微笑んで、タカシと触れあった。
細かい鱗がびっしりとある体だが、さわるとあったかい。
「ぼく、双子座流星群眺めてたんだよ」
「知ってる」
「君を見てたら、茶の間の回転焼きにも気がついちゃったんだよね」
吹き出すドラゴンに、タカシも笑ってしまった。
シロップの肩にタマが乗り丸くなる。
タカシとサナエは、息子の姿に感動したり、呆れたり。
夫婦は見つめあい、(なんだかどーでもいいよね)とこれまた笑ってしまった。
猫のタマはにゃーと鳴いた。
「緑茶もどうぞ、地球のお茶もおいしいですよ」
サナエが急須でお茶を淹れた。
団欒は穏やかに続いた。
☆☆☆☆☆
「なんだか長居しちゃってすみません」
玄関口でシロップとクロップは木村家のみんなへ頭を下げた。
「ぼくたちが伺ったことで、これからも迷惑がかからないよう、ぼくの鱗を置いときます、まあ、お守りです。絶対大丈夫なのでご安心ください」
シロップは自分の鱗をプチととると、タカシへ渡した。
その鱗はきらきら光り、やがて消えていった。木村家の空間にとけた様だ。
「星みたい」タカシが目を輝かせる。
「シロップ、クロップ、また遊びにきてよ!」
息子の発言にぎょっとする両親。
「うふふ、ありがとうございます」
喜ぶドラゴンたち。
「やっぱり木村家でよかった」
「そうだねぇ。またよければカレーライス食べに来ます」
ドラゴンたちが翼を広げ、光を放つ。
「また流星群と旅します」
「地球は楽しかった。ありがとう」
ぴかりん。
一瞬でドラゴンたちは消えた。
とても不思議な4時間だった。
町はドラゴンの力で普段通りのまま、家々の灯りが穏やかにひろがる。
まだ流星群が見える時間帯だ。
目が夜空に慣れると、ちら、ちら、と流れ星が見えた。
あのどれかがドラゴンなのだろうか。
「あ、洗濯が途中だった!」
サナエは家事へ戻り、タカイチはサッカーの録画を観ることにした。
☆☆☆☆☆
タカシは部屋に戻り、今夜のことを思い返して跳び跳ねた。
ドラゴンの力で、嬉しかったことを忘れちゃうかもしれない。
でも、ぼくは忘れないようにする!そう決意して握った拳
を開いたら。
白と黒の宝石がタカシの掌で美しく輝いていた。
(おしまい)
読んでくださりありがとうございました。
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