母から、旦那へのメッセージ

旦那がアメリカへ帰る朝、母はまた薬のおかげで、半分夢の中にいたが、旦那が帰ることを伝えると、「そう…」と言った。

わかっているのか、わかっていないのか…。わかっていないなら、さみしさを感じないだろうし、もはやそれでいいのかもしれないと思っていた。

旦那は、寝ている母を何度もそっとハグして、額にキスをして、両手を握っていた。

そして、「またおかあさんのカレー食べたいから、作ってね」と言ってくれた。母という人をわかって、別れの言葉は最小限に、それでいて、ちゃんと母のことを大事に思って言ってくれる言葉だった。

人によっては、自分の死期の迫っていることを理解していて、本人から何らか、例えば、娘をよろしくね、みたいなことを言うかもしれないが、母はそういう人ではない。

旦那も、「あなたの娘は、僕がいるから大丈夫、心配しないでね」と、伝えようとしていたが、代わりに、また再会しようね、また一緒に過ごそうね、という意味合いを込めてくれたのは、嬉しかった。

そして、母は突然、旦那の手を握り返しながら、「大丈夫…、離れてても…」と言った。

その声は、小さいけど確かに母の声だったし、母が発した言葉だったけど、いつもの母ではなくて、なんだか遠い祖先の声のような、宇宙からの声のような、そんな尊い感じがして、一瞬私は言葉を失ってしまった。

旦那が、おかあさんは今なんて言ったの?ときくので、私は、ママはEven though we are far, we are ok. と言ってるよ、と通訳した。

そしてまた、私と旦那は涙が止まらなくなってしまい、家を出ようと、玄関先まで来ても二人とも泣きやめず、しばらく二人でハグし合ったまま、泣いた…。

訪問看護師に、母の見守りをお願いし、空港へ。

旦那は、次は日本にいつ戻ってくるかなぁー?さみしいだろうしなぁ。でも、また帰って来ようね、と私を気遣ってくれた。

空港で、しばしデート。日本にいる時の旦那は、アメリカにいる時の旦那と、どこか少し違う。旦那も、私のことをそう思っているかもしれない。

アメリカと日本は、何度行き来しても、どんなに頻繁に行き来しても、当たり前とはいえ、まったく違う街、空気、時間と異なる人たちがいるからか、毎回アメリカに帰ると、日本にいた時間が全部夢だったかのように感じたり、逆にアメリカににいることが、夢を見ているかのような錯覚を覚える。うまく言葉で表現できないけど…。

おそらく海外旅行や出張ならば、こんな感覚にはならないかもしれない。短期、長期に関わらず、そこで「生活をする」と、生活を戻した時に、今までのことが夢感覚になる。

ならば、宇宙飛行士は、宇宙での生活を終えて帰った時は、どんなだろう??

旦那は、アメリカに戻り、家に着いてから、同じことを言っていた。今もまだ、日本にいた時間が、夢だった気がすると…。

でも、私たちのiPhone には、母と3人で撮った写真とビデオがちゃんとある。

確かに、一緒に過ごした証が。いつまでも。

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