PPP推薦図「公共調達における事業手法の選択基準:VFM」を読んで

 地域を活性化する手法の1つとして「官民連携」が多くの地域で活用されている中、公共と民間の事業費の差として表現されるVFM(Value For Money)に着目しPPPを解説した本である。

1.本書の目的

 内閣府によればVFMとは「PFI事業における最も価値の高いサービス(Value)を供給するという考え方の1つで、支払い(Money)に対して最も価値の高いサービス(Value)を供給するという考え方」である。

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 図 VFMの概念(出典:内閣府)

 本書は、このVFMに着目し、①VFMの考え方、②VFMの価値の阻害要因、③VFMの価値の高め方、④VFMの算出方法、⑤リスクの定量化方法について解説した本である。

2.VFMの考え方

 VFMは、民間に委託することが適切であるかどうかを判断する基準であり、公共が実施する場合(PSC)と民間が実施する場合(PFI-LCC)を比較し、PSC>PFI-LCCであれば、「VFMがある」と評価される。

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図 VFMの計算方法(出典:内閣府)

 VFMを算出するためには、概略設計成果や類似施設の実績、歩掛、現施設の運営管理費を参考に算出することが一般的である。その際に重要となる指標が「削減率」と「リスク」である。

 削減率は、サウディング等を通じた民間事業者との対話の中で決定していくものであり、VFMマニュアルによれば設計・整備・管理運営段階で一律的に10%としていることも多い。

 民間に移転するリスクは、定量化しPFI-LCCに含むことが望ましいが、定量化して含んでいる事例はほとんどなく、手法を確立されていない。よくある手法としては、保険料を積算した値をリスク調整費とすることである。

3.VFMの価値の阻害要因

 VFMの価値の高め方として、PFI手法の原点ともいえるが、7つの源泉があるという。①性能発注、②一括発注、③複数年契約、④包括契約、⑤リスク対応、⑥競争、⑦モニタリングである。

これらを阻害する要因は、以下のとおりである。
・過度な要求水準・モニタリングに伴う選択肢(工夫の余地)の縮小
・外部環境の変化に伴う柔軟性の欠如(協議可能な契約書にする)
・不適切な業務範囲の設定(事業者で調整できないリスクの内包)
・情報開示の不徹底(勝ち組コンソーシアム)
・不適切なリスク分担(リスク調整費の増加)

4.VFMの価値の高め方

 VFMの算出方法(事業の質の高め方)は各段階により異なり、それぞれの段階に応じた手法がある。

【企画構想~基本計画段階】
 上流段階から民間事業者のノウハウを活用できるような民間の提案を受け入れることが可能な体制・仕組みづくりを整えることが重要である。その例として、以下の手法が考えられる。

・官民連携による整備の可能性のあるショートリスト・ロングリストの公表
・公共施設等総合管理計画や長寿命化計画から対象となる事業の情報の公表

【可能性調査~事業者提案段階】

・情報を対外的に広く公表する
・民間事業者と個別対話の実施(官民の意見の擦り合わせ、要求水準理解)
・個別対話を通じたインセンティブ付与(民間ノウハウの扱いは慎重に)

【審査~事業者選定段階】

・審査委員会を設置し、各段階において協議を重ね、事業の理解を深める
・審査前に事前に各自で自己採点をして素点をつけてもらう
・ニーズの変化に対応できるような契約書の構成が必要(協議の上)

【モニタリング段階】

・建設コストが増加した場合には、維持管理運営段階での実施項目を削減
・議論の結果、提案書と異なる仕様を採用することになった場合は、実施設
 計図書等に一部反映しないという記録をつけておく
・公民からの提案により提案書の内容を変更する場合には「増減表」で管理
 し入札金額の範囲内で収めるようにする
・維持管理段階の初動期は十分な体制が出来ていないことから、外部コンサ 
 ルタントにモニタリングを発注

【その他】

・要求水準にないサービス向上分を適切にVFMに付加し評価
・リスク項目の洗い出す
・リスクワークショップや全体協議会の開催
・網羅的に管理する事業者の配置(代表企業が多い)

5.リスクの定量化方法

 VFMを算出する際には、官から民に移転するリスクは適切に定量化して、PFI-LCCに含むことが望ましい。その方法としては、①リスクの認識、②リスクの計測、③リスク対応手段の検討、④リスク評価の4つの段階で検討。その中でも②の手法を以下に示す。

 リスクの計測には、リスクの発生確率や影響度に関して、「大中小」と基準訳をして、その基準ごとに設定した金額を算出し、それを事業期間で積算したものをリスク費として算出する。
 その際には、リスクワークショップが手法として重要である。
▼(参考)
http://www.jsce.or.jp/committee/cmc/infra-pfi/pdf/facilitatormaualcover.pdf

6.感想

 本書は、VFMを算定するための手順を示した国交省が公開しているようなマニュアルではないが、VFMの留意点を詳細に記載した図書であり、PPPに取組まれている方には是非おススメする。
 VFMはPPP事業として実施する上での1つの指標として用いられることが多いが、本書では、事業計画段階だけでなく、事業者が選定し、その事業者が計画通り、計画以上に事業を遂行するための指標としてもVFMを用いるべきと考えられているような図書だと感じた。

 また、単にリスク分担表として官民のリスクを整理するだけでなく、リスクを定量化してVFMに加算することが重要であると思われるが、その手法については本書でも探り探りの状況であり、官民の両軸で健全な事業を遂行するためには、今後「リスクの定量化手法」が重要になってくると思われる。
 

 

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