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「自治体民営化のゆくえ」を読んで

 1990年代後半からPFI法や指定管理者制度、地方独立行政法人法など、公共サービスのアウトソーシング化・民営化が進んできた。
 本書の「自治体民営化のゆくえ」は、公共から民間へのアウトソーシング化を進めるに当たっての問題・課題を具体的な事例を踏まえながら紹介している本となる。

 官民連携を取組むコンサルタントの視点から本書を読み解いていきたいと思う。

1.本書で掲げる行政サービスのアウトソーシング化の問題・課題点

 本書の中でも、特にPFIに係る問題・課題点を抽出していきたい。PFIとは、調査~設計~整備~管理運営を1つのパッケージとして民間の資金を使いながら発注する方式であり、一括発注することで、効果的・効率的に公共施設等を整備することができ、行政負担の軽減に繫がると言われている。

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図 従来方式とPFI事業の違い(出典:民間資金等活用推進機構)

 本書では、PFI事業には以下の5つの問題・課題があると記載されている。

①事業者の破綻リスクがある
②事故等の損失の負担の問題が生じる
③経費削減は必ずしも実現しない
④長期間にわたる利権をめぐり行政と大企業の癒着が図られる
⑤担当事業者の下請けが安さを競わされ、頻繁な交代や担い手の非正規化が生じる

2.本書での問題・課題の考察

 上記で挙げた5つの問題・課題について考えていきたい。4つ目は行政担当者が変化することは明らかなので、割愛する。

①事業者の破綻リスクがある

 PFI事業のために設立されたSPC(Special Purpose Company)が経営破綻すること、具体的には「タラソ福岡」を事例に挙げて、問題であると記載している。破綻した要因としては、「需要変動リスク」を事業者はあまく見積もっており、アレンジャーとなった金融機関のモニタリングがされていなかったことであると思われる。
 今日のPFIでは、行政と金融機関は直接契約「ダイレクト・アグリーメント」を行い、金融機関は事業が安定性がよろしくない場合には、行政とSPCの間に介入する「ステップイン」を行いながら事業の安定性を取り持つといった「プロジェクトファイナンス」の利点を活かした経営を行っているので、適切なリスク分担とモニタリング機能が働けばこのような事態には起こりうる可能性は低いと思われる。

②事故等の損失の負担の問題が生じる

 PFIは性能発注ではなく、仕様発注であるため、民間事業者に委ねている部分が多く、自治体は事故等の損失の責任を負う必要があること、具体的には「スポパーク松森」を事例に挙げて問題であると記載している。事故の原因としては、不十分な検査で手抜き工事を見抜けなかったことであると記載されている。
 見抜けなかった要因として、公共施設を発注する公共担当者が建設の専門家ではなかったことが大きいと思われる。公共施設は多様な分野に分かれることから所管課が多岐にわたり、PFIの発注もコンサルタント等のアドバイザリー任せであることが多く、コンサルタントは事業者契約後は関わることが少なくなることから、自治体判断での検査のみであったことからこのような事態に陥ったと思われる。庁内の建設担当や外部のアドバイザリーと建設段階も連携しながら推進していくことが重要である。

③経費削減は必ずしも実現しない

 PFIでは、調査設計~管理運営までを一括して発注できるためスケールメリットが生じ、行政が整備~管理運営するよりも民間が実施した方が安くできるということはないこともあると、高知県医療センターを事例に挙げて問題であると記載している。
 確かに、管理運営面は①で述べたように需要リスクを甘く見積もっていれば、提案段階において〇〇%削減できると謳っていても、達成できないことがある。がVFM(行政直営とPFIの経費の差)だけをみると、多くの事例において、VFMが出ていることが明らかになっていることから、PFIの問題というよりは、提案者の需要変動リスクの問題であると言える。

⑤担当事業者の下請けが安さを競わされ、頻繁な交代や担い手の非正規化が生じる

 官民連携で利益を上げようとすると、必然的に現場での処遇は大きく引きさがされ、非正規労働者が拡大していることが問題となっていると記載している。PFIの委託先は大手グループでも実際の管理作業は下請け事業者が安く使われるという事例があるという。
 確かに、これは実際に起こりうることであると思われるが、これはPFI事業の問題という訳ではなく、公共事業全体の問題であると思われる。この対処方法として、選定基準の1つに正規雇用を掲げることや、最低賃金確約書を民間に提出させるなどの手法があり得る。

3.感想

 本書の記載していることは確かに事例を踏まえて正しいことであるが、PFI法の制定から20年間以上が経過した令和の時代においては、対処方法は明確化されている、ということが自明であると思われる。
 しかし、過去の公募要項のコピーを繰り返し、対策が出来ていない自治体も多いという意味ではレビューする必要がある。
コロナウィルスといったパンデミックも官と民が連携した事業「官民連携事業」に与える影響は大きいので、考え直すきっかけになった。



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