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「ヒルが木から落ちてくる」は、本当の話だった。しかし、それは東南アジアに生息するヒルのこと。日本のヤマビルについては、単なる噂話と言い切ってしまうだけの根拠が見当たらない。

最近、常識を覆すことで注目を浴びたい人が多いのか、「あなたが持っている知識は間違いでした」、みたいな話をよく見聞きするようになった気がする。それが疎ましい権威に対する攻撃だったなら賞賛もしようが、注目を浴びるための煽りが含まれていたり、反論のための反証であることが疑われるときには、吐き気がしてくる。

ヤマビルの噂の真相

さて、ヤマビルの話だが、次のような記事がある。

「ヒルは木から落ちてくる」というウワサの真相を探る

という見出しがある。噂の元を調べたら、1900年に泉鏡花が記した「高野聖」にたどり着いたらしい。

ならば、高野聖を読まないと、、、と思ったが、大人の方のヤマビル研究会さんが要点を抜き出してくれていた。

これによると、高野聖には「頭上から落ちてくる」と書いてあるらしい。

ま、小説なので、、、

さて、噂の真相は一旦脇に置いといて、こどもヤマビル研究会が行った実験にケチをつけたいと思う。

ヤマビルというものは、吸血を目的としてターゲットを探して遠くまで移動することは、まず考えられない。ヤマビルが興味を示すターゲットは、およそ2メートル以内のものだけである。それよりも遠くのターゲットには反応しない。

それを踏まえた上で、木の下にビニールシートを敷いた例の実験を見てみると、まったくナンセンスであることがわかるだろう。ヤマビルは、そこらの落ち葉の下なんかに隠れているのだろう。見た感じ、うようよいるだろう。そんなヤマビルが、ビニールシートに座ったターゲットに気づくとどうするか。きっと、最短コースでターゲットに向かう。そしてビニールシートに阻まれて、それ以上、先に進めなくなる。そのとき、人間だったら別ルートを探すこともあるだろう。しかし、ヤマビルは、そんな思考を持たない生き物のはず。感覚器官が捉えたターゲットへの最短距離を進むことしかできないのだ。ターゲットに向かう途中、もしも木の幹の方向に強い刺激を感じたら木にも上るかもしれないが、大抵は地面を這ってほぼまっすぐに突き進むのである。遠回りになるけど、木の上から行こうなどとは考えないのである。そもそも、考えないのがヤマビルではないか。

木から落ちてこないことを科学的な根拠をもって否定している文献なりなんなりは、ネット検索した限りでは見つからない。もっとも、検索のしかたに問題があるのかもしれないし、ヤマビルなどというニッチな研究の成果がネットに転がっているなどという可能性がないのかもしれない。

噂の真相〜自分の場合

自分の場合は、最初に聞いたのは、テレビだったと思う。確か、ジャングルを探検するシーンで「吸血ヒルが上から降ってくる」と言っていたと思う。確かめようと思ってネットで検索したが、残念ながらそのような話は見つからなかった。

一方で、それとは別に、よく山に入っている人から聞かされることがある。それは本人の体験のこともあれば伝聞のこともあるのだが、どちらも実体験を元に語られているように感じた。高野聖の記述を元に広まった感じがしないのだ。泉鏡花が書いたということは、それよりも前から、山に入る人たちのあいだでは、上から落ちてくるといったことが、実体験を折り混ぜながら語られていたのではないだろうか。

ただし、実体験に基づく証言があったとしても、勘違いだった可能性を否定できない。ヤマビルの性質を踏まえると、上から落ちてくるとは考えにくいのである。ヤマビルは、木の上に登ってターゲットを待つなどということは考えないだろう。偶然木に上ることがあったとしても人よりも高いところまで上ったりはしないだろう。だから、上から落ちてくるというのは、単なる勘違いなのかもしれないと思うのだ。上から落ちてくるという予備知識をもって山に入り、首筋あたりにヒルがついているのを見たら、上から落ちてきたと思い込むということは十分考えられることだ。

確率的観点からも、落ちるのは考えにくい。ターゲットに取り付こうとして高いところから落下したとして、どれくらい成功するだろうか。高さがあればそれだけ成功確率は低下するだろう。そして、ターゲットまでの距離が2メートル以上ある場合には、落ちることも無いはずだ。

ヤマビルの行動は意外に堅実に見える。ヤマビルを見ていると、前後にある吸盤のどちらか一方は、必ず何かを捉えている。尺取虫運動だ。落下するのを見たことはあるが、吸血が目的で落下することはないのではないかと思う。確実でないことでは動かないだろうと思うのだ。落ちるとしたら、危険を感じたときになるだろうか。

このように、ヤマビルの生態を根拠として上から落ちてくることを否定する記述は、他でも見つかると思う。それでは、落ちてきたという証言は、どう説明したら良いだろうか。

推測するに、肩から頭の高さの枝先にヤマビルがいて、風か何かで揺れるとか人が偶然触るとかして、ヤマビルの先っぽが触れた瞬間に乗り移ったのだろう。いつも触れていたら歩いて乗り移ったと思うかもしれないが、瞬間的に距離が縮まった場合には、触れる距離ではなかったからヤマビルが届くわけがないと思ってしまうだろう。その結果、落ちてきたと考えてしまうのではないだろうか。

山に行けば、斜面に斜めに生えている木もあるわけで、ヤマビルがそのような木を上ることは、否定できないと思っている。ターゲットの気配がたまたま木に沿って強くなることがあれば、上る可能性もあるだろう。

自分が述べていることは、あくまでも個人的な仮説である

こんな感じに仮説は立てられるのだが、落ちてきたという証言の真相がつかめない。

実際落ちるところを見た人がいるか、落ちてきたという証言が勘違いだったと証明しない限りは、確信できない気がするのだ。


山の方に鳥を撮影しに行くと、先輩に「ヒルがいるから注意するように」と言われたものだった。だったというか、今でもことあるごとに聞かされているかもしれない。ヤマビルと言っていたか、単にヒルと言っていたかは定かではない。初めて聞いたときは、自分はヤマビルを知らなかったので、水の中にいるチスイビルを想像したものだった。その後、実際にヤマビルに遭遇して初めて、ヤマビルという種類のヒルであると認識したのだった。

ヤマビルをヤマビルと言わずヒルと表現することはあると思う。また、木と聞いてどんな木を想像するかで印象が違ってくるのではないだろうか。

ヒルが出るような山道を想像できる人間なら、ヒルが木から落ちてくると聞いたときに、公園にあるような楠や欅といったしっかりとした幹を持つ樹木を思い浮かべたりはしないだろう。山には様々な木が生えている。背の高い木、低い木、太い木、細い木、まっすぐ伸びた木、斜めに立っている木、いろいろだ。ヒルが落ちてくることがあるとしたら、それはどんな木からだろうか。自分なら、ヒルと聞いたらに、低木や潅木を想像する。未だにヒルが木から落ちてくるのを目撃したことはないので、想像である。はるか上空から落ちてくるなんてことは、まず想像しない。頭のすぐ上あたりから落ちてくることを想像するだろう。

ヒルと言っても種類があるし、木と言ってもいろんな木がある。

「吸血ヒルが木から落ちてくる」であれば、正しい表現なのだ。何も間違ったことを言っていない。しかし、それが「ヤマビルが木から落ちてくる」になってしまった場合には、間違っていると認めざるをえない気がする。今持っている情報から判断して、吐き気を思い出しながらも、否定的にならざるをえないのだ。

ヒルが頭の上の木から落ちてくるみたいな話へのリンク

「ヤマビルの生息実態と対策」において

東南アジアでは樹上から落ちてくるが、

と言っている。普通に読めばヤマビルが主語であるかのように聞こえる。しかし、東南アジアのやつはヤマビルとは違う種類だろうから、樹上からヒルが落ちてくると言っているはず。東南アジアではヒルが樹上から落ちてくる、ということだ。

もう1件、

昆虫記者氏は実際に体験したようで

雨の後は、樹上から吸血ヒルが落ちてくることがあるから、上空にも注意せよと言われていたが、本当に落ちてきた。

と言っている。

東南アジアでは、落ちてくると考えて良さそうだ。

ジャンプするという話もある。


うーん、日本のヒルもジャンプするってか。

本当かな。

本当に?山深いところのやつはジャンプ力あるのかな。

今度ヤマビルを見たらよく観察することにしよう。

t.koba

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