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許容錯乱円と最小錯乱円

写真のぼけ具合に関係する用語で、許容錯乱円というものがある。
「誤解を解く」とか言って「ぼけ」のことを解説した記事を読んだ。補足として、許容錯乱円について述べていたが、どうも内容が怪しかったので、調べてみた。

怪しかった点は、許容錯乱円の説明と、「エアリーディスク径」という耳慣れない用語に言及したことの2点である。

調べた結果、次のことがわかった。

1.許容錯乱円は、ピントがあっているように見える限界を円で表現したものである。
問題の記事で許容錯乱円として説明しているのは、最小錯乱円である。ま、最小錯乱円の解説としても誤っていると思われる。
許容錯乱円というのは、あくまでも人間が鑑賞するときにピントが合って見えるかどうかを評価する指標である。カメラやレンズの性能とは切り離して考えるべきものである。
2.許容錯乱円には、写真業界の定義と画像処理業界の定義との2種類がある。
エアリーディスク径は画像処理業界での最小錯乱円の定義に関するものであって、写真業界には全然関係ない。
画像処理業界の、許容錯乱円や被写界深度は、写真業界のそれとは違うので、混同しないようにしたいものである。

最小錯乱円について、自分は、許容錯乱円と混同して記憶していた。今回、その意味を調べて、違うものであることを理解した。
最小錯乱円は、レンズに関するものだった。
許容錯乱円は、写真の鑑賞に関係するものだった。


2024.04.26 追記
「エアリーディスク径は…、写真業界には全然関係ない。」と述べたのは、間違いだった。

エアリーディスクは光学現象である。よって、画像処理業界に限った話ではなく写真業界にも深く関係する現象である。


許容錯乱円とは

許容錯乱円とは、写真を鑑賞するときにボケて見えるかピントがあって見えるかといったことに関係する用語なり数値である。
写真用語事典によると、角度で2〜3分までの大きさならボケを認識できないとのこと。また、写真はその対角線の長さの距離から見るのが自然という考え方があるそうだ。
そうすると、大きな写真ほど離れて見ることになるので、大伸ばしにしてボケが大きくなっても、認識できないということだ。

人間が見て、ぼけているかピントが合っているかという話。
写真の大きさ、写真までの距離、それから写真を鑑賞する人の視力にも依存する。

しかし、それでは人それぞれに勝手なことを言って、比較できない。そこで、何らかの基準が必要になってくる。

許容錯乱円を定義するための、一定の基準が存在していた。
ただ、何らかの公的な規格ではないのかもしれない。

視力1.0の人が、どれくらいの大きさのプリントをどれくらい離れて見たときに、ボケて見えるかピントがあって見えるか、その境界が許容錯乱円である。
大きな写真は、それだけ離れて観るので、許容錯乱円は、鑑賞サイズに依存しないものと考えている。

ある基準のもとに計算すると、35ミリ判のフィルム面上では、0.0333ミリとなると言う。(日本カメラ社 写真用語事典より)
プリントしたりモニターに表示したりした写真の許容錯乱円は、0.0333ミリを35ミリ判の大きさで割って、写真の表示サイズをかければ求めることができるだろう。
それで合ってる?

最小錯乱円とは

最小錯乱円とは、レンズの性能に関する用語なり数値である。
レンズには収差がある。よって、点光源からの光が焦点を結んだとしても、点ではなくある程度の広がりが生じてしまう。その最小を最小錯乱円という。
写真用語事典には、球面収差の最小錯乱円と非点収差の最小錯乱円との2種類が説明されていた。
自分は、許容錯乱円のことを最小錯乱円だと思っていた。

最小錯乱円を説明する図

どうも、このレンズの収差による錯乱円と、遠くの被写体と近くの被写体での結像位置の違いからくるボケとを混同している節がある。

美観上のボケや被写界深度に関係するのは、焦点面からずれることによるボケである。

と理解した。

機材によって変わるかを考察した人

この人が間違いと言っているのは、画像処理業界(マシンビジョン業界)と混同している人のことである。画像処理業界の話を、写真業界に持ち込んだ人が間違っているのであって、大元の画像処理業界の説明を間違っているというこの人も間違っていると思うが、どうだろうか。
エアリーディスク径に言及する人がいるが、画像処理業界で使われるものであって、写真業界では使われない。

上の記事でエアリーディスク径に言及することにケチをつけているが、よその業界のことなので放っておけば良い。
エアリーディスク径のことは、自分には関係ないと思って調べなかった。


2024.04.26 追記

繰り返しになるが、エアリーディスクは光学現象であり、「写真業界では使われない」というのは嘘である。
この note を書いたときには「調べなかった」のだが、コメントをもらったので調べて、大体理解した。


さて、許容錯乱円径は機材によって変わるかの答えだが、センサーサイズによって変わるのであるからして、機材によって変わるとして良いと思う。
ただし、それも撮像面上で正規化した寸法の場合。
プリントなどで鑑賞する場合は、人間にとってどう見えるかなので、変わらないと思われる。
センサーが小さいほど、撮像サイズで正規化した許容錯乱円は小さくなるということ。

許容錯乱円としてCCD画素の大きさを用いるケース

許容錯乱円が、像面上におけるものとする解釈もあるようだ。CCDセンサーの場合、画素の大きさが用いられるといった解説も見られたが、画素ピッチとするのが妥当ではないかと思う。
しかし、これは写真界の話ではなく、画像処理業界での話だと思う。

ならば、許容錯乱円=画素サイズを用いるのも理解できる。画像処理の場合、画素にまたがってしまったらボケているとみなすというわけだ。

メーカーサイト

マシンビジョンにおける被写界深度と許容錯乱円径

https://www.toshiba-teli.co.jp/pdf/technology/technical/t0008_DOF_j.pdf

3ページで、写真業界とマシンビジョン業界を比較しながら説明している。


2024.04.26 追記

画素ピッチかエアリーディスク径の大きい方を許容錯乱円とするというマシンビジョン業界。
エアリーディスク径を許容錯乱円とした場合、被写界深度が平面になってしまうとコメントがあった。
辻褄合わせの解釈を試みる。相手の方がおかしいと思っても、その言い分を理解しようとする“努力は”必要だと思う。
マシンビジョン業界が言う「許容錯乱円」は「許容」ではないと思うので、用語の使い方が間違っていると考えたらよいのではないか。「許容」が違うなら「最小」かというと、それも違う。レンズの絞りを固定し特定のスペックを持つイメージセンサーを使用する場合の分解能、限界解像度のようなものであろう。「お客さん、このシステムではこれが限界です。これで許容してくれませんか。」の許容なのかなと思ったりする。「考え方が違うのではなく用語が間違っている」と解釈すれば良いのではないか。問題は、同じに見えても(というか全く同じ)定義が異なるよその業界の定義を、写真の話に持ち込む人々であろう。そして、その原因となったであろうマシンビジョン業界の人間にも罪があると思う。すでに広く使われている用語に違う定義を与えたという罪が。


結論

写真業界における許容錯乱円は、概ね 0.03 mm (35ミリ判のフィルム面上で)として良いようである。
画像処理業界(マシンビジョン業界)では、これとは異なる基準を持っている。レンズとカメラを合わせた限界解像度を問題にしていると思われる。
写真業界と画像処理業界で基準が異なることを理解せずに、ごちゃごちゃにした説明をする人がいるから、注意が必要だ。

ちなみに、自分が写真を整理するときの基準は、マシンビジョン業界のそれである。
100%とか200%とかに拡大表示して、ボケて見えたらゴミ箱行き。

<免罪符的なディスクレイマー>
調査が足りなくて間違ったことを書いたかもしれないので、もしも間違っていたら指摘してもらえると嬉しい。
t.koba

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