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ウマ娘で学ぶ競馬史 #19 群雄割拠 (1999〜2000)

みなさん、ウマ娘やってます?
前回のウマ娘イベント、かなり良かったですね。

シチーさん、カレンチャン、ユキノのうまよんトリオ、そしてトウショウボーイの投書…投書ウボーイ…フフッ

トーセンジョーダンの育成シナリオといい、メジロラモーヌの件といい、ああいう「匂わせ」からの実装が現実になればアツいんですけどね。ノーザンファームの噂もありましたし、そろそろ重大発表してくれることを待つのみです。


前回はサイレンススズカ急逝の話をしました。
彼の遺したものはあまりにも大きく、競馬界全体に悲しいムードが漂っていましたが、その空気を変えたのは、他でもないあの馬でした。

我らが主人公の活躍を紐解いていきましょう。

↑前回

夜明け

1999年。
新春を告げる雨の中山に、武豊の姿は無かった。

アメリカジョッキークラブカップ。通称AJCC

スペシャルウィークに騎乗するのは、短期免許で日本で騎乗していたオリビエ・ペリエ。後の世界最強のジョッキーその人だった。
しかしペリエはスペに疑念を抱いていた。

というのも、ペリエが事前に調教で乗った時は調教過程が上手く進んでおらず、馬体が出来上がってない状態で、「本当にダービー馬か?」ってほどに動きが鈍かったそう。
そういった状況は紙面でも取り上げられたためか、当日は疑念の単勝2.0倍。

ところが走らせてみると大楽勝で3馬身差1着。
ダービー馬はやっぱりダービー馬だった。
急ピッチで馬体を仕上げた白井師の腕も、ダービーを勝たせて然るべきなものだったのであろう。


やがて雪が解け、草木が芽吹きはじめた阪神競馬場。
阪神大賞典。春の盾を狙う馬たちの前哨戦。
手綱を取ったのは武豊。白井師はようやく彼に任せられると判断したのか。あるいは、スペシャルウィークに武豊を委ねたのか。

大賞典から少し前、武豊は弥生賞にて圧倒的一番人気に答えられず2着に敗れていた。(次回解説します)
彼の心にはまだ、ぽっかりと穴が空いていた。

雨に濡れる重馬場の中、立ちはだかるのは現長距離チャンピオンのメジロブライト、そしてグランプリホースのシルクジャスティス。
この1戦で今後が決まる。ゲートが開いた。

強力な逃げ馬不在&重馬場で緩みまくるペース。もちろんブライトとジャスティスは後方待機のため、器用なスペは先行策で動向を伺う。

逃げ馬が垂れてきた瞬間に先頭に立つスペ。
そこからはもう持ち前の末脚で独壇場。
後ろから差を詰めてきたメジロブライトだが、あと1馬身が遠かった。

上がり37.5。重馬場3000mの先行馬としては破格の末脚でゴールイン。


そうして迎えた天皇賞(春)
ようやく見えた復活の兆し。
この期を逃せないスペシャルウィーク。陣営は完璧に仕上げてきた。
されど立ちはだかる強敵。前走からブライトとジャスティスが据え置きなのはもちろん、(ステゴは置いといて)マチカネフクキタルとセイウンスカイら菊花賞コンビがいる。

本当に勝てるのか。セイウンスカイに次ぐ2番人気。
しかし、タネ明かしはもう済んでいた。

武豊の最大の武器は何か。
冷静さ?戦略の引き出しの多さ?
それもそうだが、それらはこれの上に成り立っている。

機械のように正確な体内時計だ。

サイレンススズカの時もそうだったが、彼は何メートルを何秒で走るか決めたならほぼ正確に実行できる。
故にGIレースだと武豊の近くに有力馬が寄ってくる。
彼自身が時計だからだ。

セイウンスカイの武器は何か。横山典弘のペースの緩みを忘れさせる大逃げだ。しかし、武豊は忘れない。決してタイミングを間違えない。
その時点でもう勝負は決まっていた。


最後まで粘るセイウンスカイ。しかしスペシャルウィークはじわじわと差を詰めた。気性がよろしくないスカイはこう攻められると弱い。
後ろから強烈な脚で追い越すメジロブライト。本来ならブライトが勝者になってもおかしくない強さだ。
スペシャルウィークがただただ強かった。

武豊復活のGI制覇。スペシャルウィークにとってはGI2勝目。これで世代2番手は決まった。


そう。これだけ強くてもエルコンドルパサーには負けていた。エルコンドルは欧州に渡った。
せめて国内最強を証明するためには、もう負けられなかった。



不退転

そして、3番手はここにいた。

安田記念
ステップレースの京王杯で快勝したグラスワンダー。
1400mGIIだ。とても有馬1着の後に挑むレースではないのだが、能力の高さで押し切った。
もちろん本番も堂々の1番人気。2番人気はキングヘイロー、3番人気はシーキングザパールと続いた。

2021年現在でいうメイケイエールのように、結果が善戦か大敗しかなく難がある馬は負けても人気になりがち。両方を兼ね備えたキンへはやはり大人気だ。


グラスワンダーは単勝1.3倍。もはや負けは許されないくらいの圧倒的人気。
そういう時に限って波乱が起こるのが世の常。

やや後方から競馬を進め、真っ先に先頭に立つキングヘイローをかわすグラスワンダー。この時点で後続からは数馬身離れていた。
遠くから抜群の手応えで馬体をあわせてきたその馬を相手にするほどの脚は、残されていなかった。


裂空の聖騎士

エアジハード

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父 サクラユタカオー 母父 ロイヤルスキー

12戦7勝[7-2-1-2]

主な勝ち鞍 春秋マイル制覇 富士S(GIII)

主な産駒 ショウワモダン

98世代

昨年の富士S(当時はGIII)にて勝利した際、エアジハードの調教師で元メジロティターン主戦騎手の伊藤師は「タイキシャトルの後継者になれる」とこの馬をかなり高く評価していた。

勝ってもおかしくない馬ではあったが、グラスワンダー相手に完勝。この結果に場内はどよめく。


実はグラスワンダー、スタート後に香港からの招待馬の騎手がアクシデントで落馬しかけたのを避けた際に手綱が動いてしまい、脚を使ってしまった。
序盤に動いたのでラストで苦しくなり、悔しい結果に終わった。




宝塚記念
グラスワンダーは不調だった。
異常気象だった夏の暑さに負け体調を崩しており、「ギリギリ間に合った」ような感じだった。


1番人気はスペシャルウィーク
2番人気はグラスワンダー
3番人気は99世代の皐月賞2着馬オースミブライト
4番人気はGII目黒記念勝ち馬でブライトの天皇賞3着など結果を残している古豪、ローゼンカバリー
5番人気はキングヘイロー、6番人気はまだGIIだった鳴尾記念の勝ち馬スエヒロコマンダー、7番人気はいつものステイゴールド、8番人気はマチカネフクキタルと続いた。


日経新春杯でメジロブライトのクビ差2着に入り、マチカネフクキタルを京都記念で破ったGI馬候補筆頭エモシオンは屈腱炎で離脱。
こうなると完全にグラスとスペの決戦ムードだ。
グラスは不調。スペシャルウィークが勝って当然の雰囲気。


「私の夢はサイレンススズカです」

杉本清

昨年の宝塚記念が最初で最後のGI勝利となったスズカ。もしもここにいたら。そう思ったファンも少なくなかっただろう。
思いを馳せる名実況も飛び出す中、幕が上がるは天王山。国内最強を決める春のグランプリが始まった。

競馬には「手前」という概念がある。
自転車に喩えよう。

自転車で疾走する時、どちらの脚からペダルを漕ぐかは人によって変わる。
数km移動する場合は、立ち漕ぎの場合は右脚が疲れてきたら左脚の踏み込みに体重をかけて、左脚が〜という感じで楽をしつつ走っていく。
全力疾走中に右折または左折をする時、あまり減速せずに丁度よく重心をかけて突破できる方が利き足(?)なのだと思う。(※良い子はマネしないように)

「手前」はこれと似ていて、競走馬にも利き脚がある。一方の後脚で踏み出していたのでは疲れるので、何度か踏み込む脚、要するに手前を替えながらレースを進める。


その点、グラスワンダーは右手前と左手前で全く伸びが違った。なんなら走り方も違った。
これは後のドリームジャーニーやエフフォーリアも同様だ。
グラスワンダーの場合はより根深く、左回りの場合はスムーズな手前替えができていなかった。なので左回りGIは全敗している。


故に右回りGIこそ彼にとっての本領発揮の舞台。
とはいえ敵は手強い。

徹底マークのプロ、的場均。
彼が鞍上でなければ勝てないレースだった。
標的はただ一頭、同期のダービー馬。

有力馬をマークし、仕掛けるタイミング。そしてその位置取り。少し後ろから圧をかけ続け早めに先頭に立たせ、末脚が鈍ってきたところを後ろから差す。
右回りで、小回りで、馬場が荒れているという宝塚記念の特徴をフルに活かしたいぶし銀の騎乗だった。


雌雄は決したのか。内国産馬は外国産馬に勝てないのか。セイウンスカイの不調も相まって、そんな空気が漂いだした。

ダメ押しするように、世代最強の外国産馬は海の向こうで羽ばたいた。



イカロスの翅

イスパーン賞。5月のロンシャン競馬場からエルコンドルパサーの古馬戦は始まった。
本レースは1850mという微妙な距離で行われるGIであり、何よりエルコンドルパサーの大目標、凱旋門賞と同じ舞台である。

なんとここでエルは1番人気。2番人気のクロコルージュも🇫🇷ダービーと3歳限定凱旋門賞トライアル🇫🇷GIIニエル賞2着馬なのに、それを抑えて。相当高い評価を受けていたことがわかる。

しかし重馬場で行われたイスパーンは、ギリギリの所でクロコルージュに届かず3/4馬身差で2着となってしまった。



次戦は凱旋門賞と同距離のGI、サンクルー大賞
1番人気はオリビエ・ペリエを鞍上に4戦4勝で凱旋門賞を制覇したサガミックスとかいうやばい馬。(ちなみに弟のサガシティは武豊鞍上で凱旋門賞出て3着だった。どっから得たんだその騎乗機会とコネ)

さすがにサガミックスには負けるものの2番人気のエル。ここでようやく本領発揮。

牡馬は斤量61kgという過酷な斤量を背負いながらも、良馬場の利か末脚炸裂。2馬身半付けてGI3勝目となった。

サガミさんは凱旋門賞で燃え尽きたのか、前走のガネー賞と同様4着となった。以降も輝けず引退。



季節は変わり9月。凱旋門賞を挑むからには、このレースも使っておきたい。
フォワ賞
GIIのくせに1着賞金は日本円で600万くらいしかない、非常にしょっぱいレース。(今もそう)
でもロンシャンのコースを身体に覚えさせるにはフォワに挑むしかないのだ。

エルコンドルパサーとクロコルージュが出るから他の馬は軒並み回避。唯一回避しなかったのは牝馬のくせに🇩🇪ダービー馬で🇺🇸BCターフ2着のボルジアだけ。
つまり3頭立て。走りさえすれば最低でも数十万は入るレースになった。そう考えてもやっぱしょっぱい。

結果は接戦の末に勝利。馬場が良かったのか、はたまた距離か。クロコルージュは3着に敗れた。

エルコンドルパサーに風が吹く。ようやく奇跡が見えてきた。



迎えた凱旋門賞の日。
多くの名馬たちがロンシャンに集った。

凱旋門賞当日は凱旋門賞しかないわけではない。
凱旋門賞以外にも色々とGIが開催される。
むしろ1つのGIだけで一日が終わる日本が異常。
ジャパンカップの日にも何かしら行われるべきだ。


そんなわけで日本からも2頭の馬が遠征に来ていた。

アベイ・ド・ロンシャン賞
芝1000m直線GIという日本では見られない条件。
わざわざこれを獲りにくるのは、そう。
いつもの森厩舎である。

もちろん御歳10歳のドージマムテキを帯同馬に、“ある馬”が武豊と共に、したたかに勝利を狙っていた。


この日のロンシャンは過去に類を見ないほどの不良馬場となっており、普通の馬には走るのすら厳しいコンディションとなっていた。こんなパワーの要る馬場での激走は期待できない。

過去に似たような馬場を経験していない限りは。

4番人気の大逆襲。名に恥じぬ勝利となった。

猛進王

アグネスワールド

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外国産馬🇺🇸

父 ダンジグ 母父 シアトルスルー 半兄 ヒシアケボノ

20戦8勝[8-6-1-5]

主な成績
🇫🇷アベイ・ド・ロンシャン賞 🇬🇧ジュライカップ
CBC賞(GII) 全日本3歳優駿(GII)
スプリンターズS2年連続2着

主な産駒
アグネスジェダイ

05世代

実はグラスワンダーと朝日杯で対決し4着に敗れたあと、全日本3歳優駿(当時は交流GII。今でいう全日本2歳優駿)に出向いて勝利し、その後泥だらけ不良馬場シンザン記念で2着になっていたアグネスワールド。

馬場の悪い芝でも戦えて、ダートもいける。
その上、北九州短距離S(オープン)では芝1200m日本レコードを記録し、その記録は2021年のスーパー高速馬場小倉競馬場にてプリモダルクが0.1秒更新し、CBC賞にてファストフォースがさらに0.4秒更新するまで22年間も破られなかった


なんでそんな規格外の馬がいるのに話題にならないの?もっとサクラバクシンオーやタイキシャトルみたくGIポンポン勝って伝説になるもんじゃないの?とお思いかと思うが、これには理由がある。

アグネスワールドは、コーナリングが下手だったのだ。


オープン戦なら多少コーナーで減速しても突っ走ればレコードだって出せるが、GIになると一瞬のロスが勝敗を分ける。


だったら海外の直線GI挑めばよくね?で本当に挑めちゃうのが森厩舎のフットワークの軽さ。
しかもそれで勝たせちゃうんだからすごい。

その後もアグネスワールドは勝利に向かって直進していくのだった…




(※ここからジャパンカップまでの流れは↓の記事の方が詳しく書いてるので良ければぜひ)

日本馬がGIを勝利し、流れに乗れるかエルコンドルパサーというところ。ついにその時が来た。

第78回凱旋門賞

当時の最強馬はGI6勝のデイラミ
次点で10戦8勝全連対、GI3勝エルコンドルパサー
そして今まで7戦6勝全連対、2ヶ国のダービーを制したモンジュー

この上位人気3頭は不動のものだったが、当日は極悪の不良馬場。良馬場が得意なデイラミは人気を落とし、重馬場で強いモンジューが1番人気に。
ダートで走れてるとはいえ、どの馬場が強いのかデータの少ないエルは2番人気となった。


この日まで、エルコンドルパサー陣営は必死に努力した。調教師は事ある事にフランスと日本を行き来し、馬の調整に務めた。相当な金がかかっただろうが、恐らくそれは馬主サイドが負担したのだろう。賭ける執念が違う。

スピードシンボリが挑んでから約30年。凱旋門賞の夢を現実にする時が来た。
しかし、想定外の自体が。

逃げる予定の馬が馬場が重すぎて走れず最後方へ。
それくらい絶望的な重さだった。

エルコンドルパサーは押し出されるように先頭へ。
スタートがめちゃくちゃ速い日本競馬に慣れていたぶん、テンでの動きが頭一つ抜けていたのだろう。

これは苦しい展開。割と器用とはいえ、この馬は逃げ切り勝ちを収めたことはほぼ無い。フォワ賞の3頭立ての時だけなので無いに等しい。
そんな状態で先頭で折り合いに専念する。

ちなみに、欧州には逃げという戦法はない。
何故なら、馬場とペースの特性上、逃げ馬は絶対に勝てないからである。

特殊な馬場とレースペースが形成する独自の戦略性。
この時点でエルコンドルパサーは詰んだ。かと思われた。


なんと直線で伸びたのだ。
後続を引き離したのだ。
もう勝利は目前。そう思った矢先。

アイツが来た。

無欠の城砦

Montjeu

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外国調教馬🇫🇷

父 サドラーズウェルズ 母父 トップヴィル

16戦11勝[11-2-0-3]

主な勝ち鞍
🇫🇷凱旋門賞 🇬🇧KGVI&QES 🇮🇪愛ダービー
🇫🇷サンクルー大賞 🇫🇷ジョッケクルブ賞
🇮🇪タタソールズゴールドカップ

主な産駒
ハリケーンラン フェイムアンドグローリー
セントニコラスアビー キャメロット
母父としての主な産駒
パンサラッサ

99世代

最後までしがみついた栄光。
しかし世界の壁は厚かった。

最強の3歳馬、モンジュー。
凱旋門賞は3歳馬と古馬で斤量に約4kgも差がある。
不良馬場ならそれが余計に響く。

良馬場ならあるいは。稍重だったら。逃げ馬が機能していたら。そんなたらればを巡らせてしまうほど、エルコンドルパサーは強い走りをした。

3着クロコルージュに6馬身差を付ける激走。追える者はいなかった。


このレースでエルコンドルパサーは引退。日本で種牡馬となる。

彼は天に届くまでに至った。しかしあと一歩で蝋の翅は潰えてしまった。

この一戦のおかげで日本競馬は世界へ認知され、この一戦のせいで凱旋門賞は日本競馬の呪いになった。

大きな意味をもった一戦だった。



最強の名のもとに

天皇賞(秋)
日本最強馬がターフを去り、ついぞ雪辱を晴らせなかったスペシャルウィーク。
彼は4番人気になっていた。

前走、京都大賞典での謎の大敗。7着。
そして天皇賞本番では馬体重-16kg。
スペシャルは終わった。そう思われた。


1番人気はセイウンスカイ。札幌記念で久々に勝利したから人気が出た。しかし札幌記念はメンバーが薄かった。
6番人気までが単勝10倍以内に収まるというすごい票の割れ方。

密かにスペシャルウィークは闘志を燃やす。

セイウンスカイがめちゃくちゃゲートを嫌がり発走が遅れた。(上の動画はちゃんとレースの所から見られるようにしてます)

そして出遅れた。よくここから5着に持ってきたと思う。

スペシャルウィークは追込で豪脚を解放し、大外から差し切り。エルコンといい、この時代の馬は何でもできちゃうのだろうか。

サイレンススズカでも、メジロマックイーンでも勝てなかった秋の天皇賞。悲願が叶って武豊は安堵の表情。ようやく悲しみから抜け出した。

ちなみに馬体重は減ったのではなく、落とした。過去にGI勝った頃の体重に絞ったのだった。


2着は言わずとも分かるあの馬。強いのか弱いのかわからん。

そしてエアジハードは3着。前走がまぐれで無いことを証明すると同時に、マイラーという評価で終わらせない実力を見せた。



一方そのころ。
エリザベス女王杯

二冠牝馬2頭の対決が行われたが、エアグルーヴがいない戦場で、メジロドーベルに敵う馬はいなかった。

前年と同じくエガオヲミセテがしぶとく粘るも、外から突っ込んできたメジロドーベルとフサイチエアデールに差し切られる。

女王は今年もメジロドーベル。
牡馬のいるレースではへなちょこ。好走できたのは牡馬を見ずに先頭で逃げたオールカマーと、エアグルーヴ、エリモシックに囲まれた大阪杯。
ウマ娘の男性恐怖症属性は紛れもなく史実準拠。

牝馬限定GI5勝で引退。
ちなみに当時GIを5勝以上した馬は、シンボリルドルフ、ナリタブライアン、タイキシャトルの3頭しかいなかった。八大競走時代を含めてもシンザンくらいしかいない。
要するにドーベルは相当強いのだ。強いけど牡馬にはめっぽう弱かったのだ。



マイルチャンピオンシップ
グラスワンダー不在のレースではもちろんエアジハードが1番人気。

もちろん勝利。春秋マイル制覇の偉業を達成し、史上7頭目のマイルGI連覇となった。
が、5年前のノースフライト、3年前のトロットサンダー、1年前のタイキシャトルのせいで影が薄い。

2着には不屈の影キングヘイロー。ようやく活躍の兆しが見えてきた。


その後エアジハードは香港マイルではなく香港カップに出走登録。その際の香港名表記が「空中聖戰」っていうわかりやすすぎる名前だったためちょっとネタにされた。

しかしその後屈腱炎を発症し、出走することなく引退。種牡馬となった。この世代の強い馬は皆4歳で引退しがち。



ジャパンカップ

本来であればグラスワンダーVSスペシャルウィークになる予定が、左回りの苦手改善トレーニングが祟って筋肉痛で回避。
なのでもちろんスペシャルウィークが1番人気…かと思いきや、アイツが来た。

モンジュー

エルコンドルパサーを破った。その印象が色濃く残った観客はモンジューを支持した。
しかも鞍上はキネーン。ピルサドスキー♂で一度JCを制覇しているジョッキーだ。手強い。


だが、この日はスペシャルウィーク陣営も手応えを感じていた。
「ユタカ、ダービーの時と同じ体重や。よかったな」
白井師の言葉に豊は頷く。

ダービーの時と同じ、極限仕上げのスペシャルウィークが日本の夢を背負った。

豊はあえてモンジューにマークされる形をとった。
スペシャルウィークの強さは海外の騎手も知っている。キネーンならなおさら。
抜群に調子がいいスペシャルにモンジューがついて行く。そうなったら潰す方法は1つだけだ。

早仕掛け。

かなり早めに進出を開始したスペシャルウィーク。
モンジューも慌てて追随するが、日本の馬場では推進力が違う。

能力の高さでなんとか伸びるも、日本総大将の影は遠かった。


肉を切らせて骨を断つ、と言うべきか。
完璧な戦略勝ち。日本の牙城は崩れなかった。

2、3、4着は全て外国馬。5着ラスカルスズカから4着モンジューは4馬身差。完全に頂上決戦だった。


馬場の利はあるとはいえ、スペシャルウィークは確かにモンジューを破った。世界一を破ったのだ。


菊花賞から直行での対決だったとはいえ、直接対決では勝てなかったエルコンドルパサー。
そんなエルコンドルパサーが国外で唯一勝てなかったモンジュー。それをスペシャルウィークは破った。
仇討ちとまではいかないが、意地とプライドを見せ付ける勝利だった。

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ウマ娘1期12話より

日本馬は強い。堂々としたレースっぷりでそれを証明したスペ。
それは外国馬に対する宣戦布告。そしてスペの意志を継ぐものが、やがて世界に名を馳せる。

日本競馬は、確かに世界に近付いていた。



有馬記念
スペシャルウィークはここで引退となった。
種牡馬的価値を考慮してのことである。
初年度産駒がパッとしなかったフジキセキ。彼ならサンデーサイレンスの後継者になれるかもしれないと思われてのことだったのだろう。(実際後継者に限りなく近いところまで行く)


前走の毎日王冠ですらハナ差辛勝だったグラスワンダーは有馬に直行。体重はめっちゃ増えたが、とはいえスペシャルウィークには何度も勝利している。1番人気に押し出された。

一方スペシャルウィークはここで勝てば史上初の秋古馬三冠。オグリキャップも、シンボリルドルフも、トウカイテイオーも、メジロマックイーンも届かなかった栄冠。果たして届くのか。

宝塚の時とは違う。スペシャルウィークがグラスワンダーを追う形。
抜群の手応えで差を詰めるが、グラスワンダーも執念で踏ん張る。
全く並んでゴールイン。
最後はやっぱり最強の2頭。


勢いではスペシャルウィークが勝っていたため、武豊は勝利を確信。ウイニングランまでした。したのだが…

長い長い写真判定の末、出た答えは…

勝者、グラスワンダー


これには豊も抗議し、実際に写真を見たのだが…
ゴール直前も、直後もスペシャルウィークの方が首を前に出しているのだが、ゴールの瞬間だけはグラスワンダーが前だった。

4cmの執念。それは何より大きなものだった。

3着には最強の新星が入り、名実ともに最強馬決定戦となった有馬記念。衝撃の展開で99年は幕を閉じた。


さて、そうなると難しくなってくるのが年度代表馬選考だ。
年度代表馬は基本的に有馬記念勝ってるかJC勝ってる馬が有利なのだが、グラスワンダーとスペシャルウィークは甲乙付け難い。ましてスペシャルウィークはモンジューを破っている。

泥沼化する選考の末、選ばれたのは…


エルコンドルパサーだった。


は?と思うだろう。なんせエルコンドルパサーの99年GI勝利数は1。サンクルー大賞のみ。サンクルー大賞自体はそこまでビッグタイトルでもない。


一方スペシャルウィークはGI3勝&天皇賞春秋制覇。グラスワンダーも春秋グランプリ。
そんな2頭には特別賞が与えられた。


これには思わず白井調教師も憤慨。
とある番組で師はこう語った。

エルコンドルはモンジューに負け、スペシャルはモンジューに勝った。
ホームとアウェーの違いこそあれこれは紛れもない事実。
にもかかわらず凱旋門賞2着をJCの優勝より上と判断した。
「自国の競馬より他国の競馬の方が上」と宣言してしまったようなもん。
そんな国が“国際GI”をうたったところで、世界の名馬が本気で勝負に来てくれると思うか。
JCに来る馬のレベルは確実に落ちる。悲しいことやとオレは思う。

白井寿昭

実際、様々な要因があるとはいえ、21世紀に突入してから外国産馬がJCに来ることはかなり減った。
JC史上最高のレースは99年のままだ。最近になってようやく20年が槍玉に出されることが多くなったが、そこまで長い年月を要した。(20年も日本馬最強決定戦だったけど)

その影響もあり、スペシャルウィークは顕彰馬になれず。エルコンドルパサーはもちろん顕彰馬。
もうちょいなんとかならんかったんですかね、と筆者も思う。



碧き閃光

最後に一つだけ、98世代最後の栄光について。


王道路線とマイルが激動する中、短距離界は空白期間にあった。短距離GI2勝馬が不在の時代が流れた。

スプリンターズステークス
ようやく時代が動く。

1番人気はロンシャン帰りのアグネスワールド。
そんなアグネスを差し切ったのは、5歳のベテラン馬だった。

黒鷹

ブラックホーク

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外国産馬🇬🇧

父 ヌレイエフ 母父 シルバーホーク

28戦9勝[9-8-6-5]

主な勝ち鞍 安田記念 スプリンターズS

97世代

この勝負服。見覚えがある人は多いはず。
今はソダシでおなじみ金子さんの勝負服。
実はこの勝負服史上初のGI馬がブラックホーク。
初期の頃はまともなネーミングセンスしてたんです。

アグネスワールドはクビ差で2着。やっぱり強い。


そして3着。
本来レース動画の直後は勝ち馬の解説をするのが筋だと思うが、ここでは3着の馬について語らせてほしい。

キングヘイロー。彼は不遇だった。
世代のレベルが高すぎたこと、鞍上が若手だったこと。

菊花賞トライアルの神戸新聞杯で乗り替わった岡部幸雄が言ったことには、「この馬はまるで教育されていない」と。

当然そんな状態で勝てるわけもなく、3歳時は未勝利で終える。
4歳になって鞍上を柴田善臣にした途端に重賞2連勝。
以降はGIで折り合いを付ける訓練をしつつ勝利の機会を伺っていた。

そのタイミングがマイルCSだった。
福永祐一に再び騎乗依頼。「勝て」ということは言われなくてもわかる。


しかしエアジハードが強すぎて2着。
ならば次走。スプリンターズS。
しかしここでも3着。マイルチャンピオンシップで先着したブラックホークに差し切られてのものだった。


翌年からはまた柴田善臣に乗り替わり。フェブラリーSを使ってみるものの、気性が災いして砂埃を受け付けずボロ負け。1番人気で負けた。



高松宮記念
前走がアレだったので4番人気に人気を落とす。もちろん鞍上は善臣さん。
上位人気はブラックホーク、アグネスワールド、そしてマイネルラヴだった。

福永もディヴァインライトで参戦し、勝利を狙っていた。

メジロダーリングがアグネスワールドに追い付かれ、勝ったかと思われたところで飛び出してきたのはディヴァインライト。


伏兵してやったかと思われたところで、外からもう一頭。緑のメンコ。
間違いない。あのキングヘイローだった。

わがままな性格ゆえなかなか勝てないしやる気も見せなかったが、本気になったキングの差し脚は、父にして世界最強馬、ダンシングブレーヴの凱旋門賞を彷彿とさせるものだった。

福永は語った。

一番いて欲しくない馬が前にいた

自分とキングで勝ちたかったこのGI。
この悔しさが福永祐一を強くした。
いずれ彼が武豊に次ぐ日本競馬の至宝になることを、この時代の人々は想像できただろうか。

武豊にとってのそれがスーパークリークであるように、そして横山典弘にとってのそれがメジロライアンであるように、福永祐一の原点はキングヘイローにあった。


ここから福永は悔しさをバネに輝きだす。
キングヘイローが晩成型であるように、福永も覚醒には十数年の年月を待たねばならない。

しかし、今の日本競馬はここから始まったと言っても過言ではない。
凱旋門賞に挑んだ馬、武豊の苦悩と最高の相棒、福永祐一とキングヘイロー。全てが地続き。



次回は最強馬の決戦の裏で起こっていた3歳世代の衝撃と、グラスワンダーのその後。そして和田竜二という男について。


叩かれて叩かれて、人も馬もつよくなる。


あとがき

ようやく98世代の大まかな説明が終わりました。
なんとなくで張っておいたエモシオンとディヴァインライトの伏線も回収できて満足。
更新頻度はバカみたいに落ちたけどね。

可能なら来週も投稿したいと考えているので、どうか応援よろしくお願いします。それでは。


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