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国産ブラウザ「Smooz」のPRは景品表示法に違反しているのではないか

はじめに

2020/12/21現在、国産ブラウザ「Smooz」が、ユーザーの閲覧情報を全て外部に送信していた、という事件が話題になっています。

続・続・国産ブラウザアプリSmoozはあなたの閲覧情報をすべて外部送信している

記事の概要としては、
・閲覧しているページのタイトル
・閲覧しているページの本文
・閲覧しているページの説明文
・ユーザーID
・閲覧しているページのURL
が「サービス利用データの提供」をオフにしていてもアスツール社のサーバーへと送信されている、というものでした。

アスツール株式会社のデータの取り扱いに対する姿勢がよくわかる案件でしょう。私自身Smoozのユーザーであるため、非常に怖いです。

ところで、2年前の話になりますが、同じ「Smooz」アプリで、別の事件がありました。景品表示法に関するお話です。

Smoozの事実と異なる「世界初」

2018年11月22日、スマホブラウザ「Smooz」の開発元であるアスツール株式会社は、PR TIMESに以下のようなプレスリリースを出し、同PRはニコニコニュースやCNET Japanなど多くの媒体に掲載されました。

世界初!スマホブラウザ『Smooz』がページ全体のスクリーンショットに対応

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また、同社は「Smooz」アプリのアップデート告知文でも同様の表現を使用しました。

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\新機能/
●スマホブラウザ単体としては世界初、ページ全体のスクリーンショット機能登場!Webサイトのメモやシェアにぜひご活用ください。

当時、同アップデートにより、「Smooz」はApp Storeの「注目のアップデート」にも掲載されました。

私は当時このアップデート文を読んで驚きました。「世界初」という根拠が明示されていなかったからです。スマホブラウザアプリについて詳しくない人であれば、「Smoozはすごい、他のブラウザよりも優れている」と思うことでしょう。しかし、これはそもそも事実なのでしょうか。また、調査時期も明記されていないのに、「世界初」という最上級の表現を使って広告を出しても良いのでしょうか。

先に結論からいうと、「世界初」という事実はありませんでした。虚偽の内容だったということになります。

景品表示法における不当表示

私はプレスリリースが出た当日に、検証を行いました。

まずプレスリリースの内容を確認しましょう。

世界初!スマホブラウザ『Smooz』がページ全体のスクリーンショットに対応
 アスツール株式会社(東京都渋谷区、代表取締役:加藤雄一)は、次世代スマホブラウザ『Smooz(スムーズ)』のiOS版向けの新バージョン (ver 1.57)の配信を本日より開始いたしました(*1)。 本バージョンは、モバイルブラウザとして世界で初めて(*2)、ページ全体のスクリーンショットに対応しました。
*1 Android版には今後順次展開予定。
*2 iOS向けブラウザ。自社調べ。App Storeで”ブラウザ”と検索した時の上位100件を調査

米印で注意書きが書かれています。自社調べ、調査時期不明で、「App Storeで”ブラウザ”と検索した時の上位100件を調査」したそうです。

プレスリリース当日に検索順位が大きく変わることは無いでしょうから、同日、私も実際にApp Storeで”ブラウザ”と検索し、上位100件に表示されるアプリで、ページ全体のスクリーンショット機能が存在するか調査しました。

すると、55番目に表示される株式会社NTTドコモのブラウザアプリ「dメニュー」にて、既に同様の機能が存在することがわかりました。ストアのアプリ概要にて

◇◆かんたん操作でスクショ撮影◆◇
スクショボタンをタップするだけで、難しい操作の必要なくスクリーンショットを撮影・保存することができます。
また、表示中のエリアだけでなく、ページ全体のスクリーンショットも撮影できます。

と明記されています。

すると、ここで浮かぶのは「本当にこの会社は調査を行なったのだろうか」という疑問です。ストアのページを開けば明らかに分かることです。思い込みで書かれたのでしょうか。存在するとしても、上位100件より下にあるに違いないと思われたのでしょうか。それとも、このアプリの存在を知っているにも関わらず、「世界初」という表現を用いて、他のアプリと比較して有利だと消費者に示したかったのでしょうか。何にせよ、この時点で有利性、優良性を誤認させる不当な表示であったことは明らかです。

また、アプリのアップデート文に関して、詳細を一切明らかにせず「世界初」と謳っています。このアップデート文は、顧客を誘引する手段として用いられる表示ですから、こちらも景品表示法における「表示」にあたると考えられます。

景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)では、以下に該当する表示を禁止しています。

一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの 

アスツール株式会社のプレスリリース及び「Smooz」のアップデート文は、事実に相違して同業他社より著しく優良または有利であることを示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあるため、同法律に違反していると考えられます。このプレスリリースは現在も引き続き掲載されており、取り下げられていません。

不当な比較広告

消費者庁は比較広告ガイドラインにて、比較広告に対する考え方を明らかにしています。

それによれば、比較広告が不当表示とならないようにするためには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。

(1)比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること
・実証が必要な事項の範囲は、比較広告で主張する事項の範囲です。
・実証は、確立された方法がある場合はその方法で、ない場合は社会通念上妥当と考えられる方法などによって、主張する事実が存在すると認識できる程度まで行われている必要があります。
・実証機関が広告主とは関係のない第三者である場合は、その調査は客観的なものと考えられます。

(2)実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること
・実証されている事実の範囲で引用する必要があります。調査結果の一部を引用する場合には、調査結果の趣旨に沿って引用する必要があります。
調査結果を引用して比較する場合には、一般消費者が調査結果を正確に認識できるようにするため、調査機関、調査時点、調査場所等の調査方法に関するデータを広告中に表示することが適当です

(3)比較の方法が公正であること
・特定の事項について比較し、それが商品・サービスの全体の機能、効用等に余り影響がないのに、あたかも全体の機能、効用等が優良であるかのように強調する場合、不当表示となるおそれがあります。
・社会通念上同等のものとして認識されていないものなどと比較し、あたかも同等のものとの比較であるかのように表示する場合、不当表示となるおそれがあります。
・表示を義務付けられており、又は通常表示されている事項であって、主張する長所と不離一体の関係にある短所について、これを表示せず、または明りょうに表示しない場合、商品全体の機能、効用等について一般消費者に誤認を与えるので、不当表示となるおそれがあります。

今回の事件では、アスツール株式会社が調査した時点が明らかではない上、調査時期に関わらずアップデート時点で公表したような事実は存在しませんでしたから、同表示は景品表示法における有利誤認、または優良誤認であり、不当表示にあたると考えられます。

不正競争防止法における誤認惹起行為

今回の事件は、不正競争防止法上も問題が起こる可能性があります。不正競争防止法では、差止請求権について以下のように書かれています。

第三条 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。第五条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。

また、同法では「不当競争」の一つとして以下を定義しています。

二十 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為

今回の事件では、アスツール株式会社の表示によって同業他社のソフトウェアの品質が不当に貶められたわけですから、品質を誤認させる行為であり、同法上の問題が発生する可能性があります。

PR TIMESの掲載基準を満たしていない可能性

先ほどから挙げているプレスリリースはPR TIMESにて掲載されていますが、同プレスリリースはPR TIMESのコンテンツ掲載基準を満たしていない可能性があります。

新規性の担保にあたり、調査リリース内で使われる各種データの調査期間・取得日をプレスリリース内へ明記いただいております。取得から1年以上経過している場合、新規情報が含まれないと判断しプレスリリースの配信を控えさせていただいております。

「調査リリース」が今回のプレスリリースを含むのかは不明ですが、調査結果をプレスリリース内に掲載しているのに、取得日が明記されていないことは、同掲載基準を満たしていない可能性があります。

おわりに

ルール上の問題について書きましたが、私はこの事件、そして外部送信事件が、同社の企業倫理も表しているのではないかと考えています。同業他社を貶めても構わない、ユーザに虚偽もしくは誤認させる情報を与えても構わない、という姿勢は超ユーザーファースト主義からはほど遠くかけ離れたものなのではないでしょうか。

お読みいただきありがとうございました。

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