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「女が男の友達になる順序は決まっている。まず最初が親友、次が恋人、最後にやっとただの友だちになる。」は誤訳?

という名言があるとされている。

しかもチェーホフの名言ということになっている。

https://x.com/DoujiMishima/status/1611539725604753409?s=20

本当か?

調べたところ、これはワーニャ伯父さんのセリフらしい。
え?マジ?

というわけで手持ちの本(kindle)で確かめてみると。

女性が男性の親友になるのには、順序がある。
まず最初にお友達、次に愛人、そしてようやく親友ってわけだ。

光文社 古典新訳文庫 浦雅春 訳

たしかにそれっぽい台詞があるが、友達と親友の順番が逆だ。
一例ではアレなので、他の訳も調べてみる。

アーストロフ ばかに沈んでるじゃないか。教授が気の毒だとでも言うのかい?
ワーニャ ほっといてくれ。
アーストロフ それとも、教授夫人に恋患《こいわずら》いかね。
ワーニャ あの人は僕の親友だ。
アーストロフ おや、もう?
ワーニャ その「もう」というのは、どういう意味だ。
アーストロフ 女が男の親友になるまでには、こういう手順がいるものだ。——はじめは友達、それから恋人、さてその先が親友。

青空文庫より引用 神西清 訳

俗説では、親友→恋人→友達 だが、
和訳版では 友達→恋人→親友 である。

ロシア語版(原文)ではどうなのか。

Астров. Что ты сегодня такой печальный? Профессора жаль, что ли?Войницкий. Оставь меня.
Астров. А то, может быть, в профессоршу влюблен?
Войницкий. Она мой друг.
Астров. Уже?
Войницкий. Что значит это «уже»?
Астров. Женщина может быть другом мужчины лишь в такой последовательности: сначала приятель, потом любовница, а затем уж друг.
Войницкий. Пошляческая философия.

https://ilibrary.ru/text/972/p.2/index.html より引用した該当部分

こちらのやりとりの該当部分をDeepLにかけてみると

女性が男性の友人になれるのは、まず仲間、次に恋人、そして友人という順序に限られる。

DeepLによる翻訳

となった。
和訳の表現が異なるが、とにかく

まずは「приятель」(プリヤーテリ)
次に「любовница」(リュボーヴニツァ)
そして「друг」(ドルーク)の順番に関係が変わる
と書かれているらしい。

こちらの記事には「приятель」(プリヤーテリ)「друг」(ドルーク)のニュアンスの違いが母語話者によって書かれているので参考にした。

社会的な人間関係というと、「ドルーク」「プリヤーテリ」という言葉を使い分けるのをよく耳にする。しかし、どちらも他人と一緒に時間を過ごし、経験を分かち合う関係ではありますが、両者には大きな違いがあります。この記事では「ドルーク」と「プリヤーテリ」はどう違うのか、そしてなぜこの違いが重要なのかを見ていこう。

https://raznoved.com/obshchestvo/chem-otlichaetsja-drug-ot-prijatelja-kratko.html

ドルーク
ドルークとは、困ったときでも心を打ち明け、信頼し、頼ることができる人のことだ。

ドルークには共通の趣味や価値観があるが、本当に違うのは、何があってもあなたの側にいてくれることだ。ドルークとは、つらいときにはあなたを支え、楽しいときには一緒に喜んでくれる頼れる人たちです。ドルークとはかけがえのない贈り物であり、生涯続く関係なのだ。

https://raznoved.com/obshchestvo/chem-otlichaetsja-drug-ot-prijatelja-kratko.html

プリヤーテリ
仲間とは、一緒に楽しい時間を過ごす人のこと。プリヤーテリとは、バーで遊んだり、コンサートに行ったり、スポーツをしたりする。二人は共通の趣味を持ち、一緒に時間を過ごすのが好きですが、二人の関係は主に楽しさに基づいています。

プリヤーテリは必ずしも、危機の際に頼ったり、精神的な支えを求めたりできる相手ではない。だからといってプリヤーテリドルークになれないわけではないが、その関係は本質的に異なる。

https://raznoved.com/obshchestvo/chem-otlichaetsja-drug-ot-prijatelja-kratko.html

というわけで、
ドルークは日本語だと「親友」
プリヤーテリは日本語だと「友達」
くらいの意味に相当するだろう。
訳語はどうあれ、親密度は
ドルーク > プリヤーテリ
で間違いない。

というわけで、俗説の名言
「女が男の友達になる順序は決まっている。まず最初が親友、次が恋人、最後にやっとただの友だちになるということだ」
は明らかな誤訳だと分かった。

では、なぜ。

正確な訳出である
友達→恋人→親友
ではなく、
親友→恋人→友達
の方が世の中に溢れてしまうのはなぜだろう。

わからない。

馬鹿の考えることはわからない。

補足

夏目漱石が言ったことになっているアレも俗説だし、自分で出典の文献を知らない言葉を引用するのはやめよう。


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