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やさしい嘘をついて|「キャッチミー開封ユーキャン RTA」を観て

鈴木あいれを「若手演出家」だと思ったことはない。ただ、アイデアマンだし優秀(そして精力的な)クリエイターだとは常々思っている。

なので、今回「若手演出家コンクール」で2位になったことは悔しくもあり、「べ、別に悔しくねえし・・・」な気分だ。

しかし、思うこと(そして提案)が主に2つある。
最終的にそれについて書ければいいなと思う。


前置き:
ゲームには目的はあるが重要ではない。

スーパーマリオブラザーズにおいてマリオの目的意識はピーチ姫を救うことにあるが、それは実はあってもなくてもいいストーリーだったりする。プレイヤーが一番充実感を得られるのは、マップの仕組みを攻略した瞬間であり、クッパを回避してマグマに落とした時である。

今回の若手演出家コンクールの審査会では、審査員からは口々に(面白さが絶賛されつつも)「ストーリーがない」「ドラマがない」「登場人物に目的がない」というフレーズが聞こえた。これは全くその通りだと思うが、「だからどうした」と正面から言えるのがコメディアスという団体の魅力であり、鈴木あいれの演劇界における異常性だろう。

中身はないけど面白い

中身はないけど面白い、というのはこういう作品を言う。しかも実に面白い。実に面白い分だけ、実に中身がない、と感じてしまう。それほど魅力的な作品だ。

https://www.hakusuisha.co.jp/news/n47204.html

これは何の文章かというと、第66回岸田國士戯曲賞選評におけるダウ90000『旅館じゃないんだからさ』に対する審査員(野田秀樹)のコメントである。

縁起でもないが、今回コメディアスの作品がコンクールに出品されると聞いたとき、この文言が脳裏をよぎった。

コメディアスの作品、特に「キャッチミー開封ユーキャン 」は異常なほどドラマがなく、物語が感情よりも物理法則によって制御される。だから、観ようによっては「中身がない」、作品だと思われること無理からぬことだと思う。
そして、もうひとつ同じ選評からこんな言葉も引用したい。

推せなかったのは、それが切実な作品ではないからではなく、あくまでも、その作品によって自分に変容がもたらされたように感じられなかったからである。切実な作品によってしか変容は引き起こせない、とは思わない(たとえば映画『パルプ・フィクション』は、その内容に切実なものはひとつとしてないとわたしは思うけれども、あの映画を見たあとのわたしは、見る前のわたしとは大きく大きく変わった)。

https://www.hakusuisha.co.jp/news/n47204.html
第66回岸田國士戯曲賞選評 岡田利規

岡田利規の言葉を借りれば、「変容がもたらされる作品」かどうかが作品の強度を測るのに重要だと思う。ではどうすれば「変容がもたらされる作品」になりうるのか。

思い出したのは「ロウソクの科学」という本だ。
これはマイケルファラデーが少年少女向けに実施した科学の講義をまとめたものだ。ロウソクを中心として「燃焼」「毛細管現象」「融解」などの物理・化学にまつわる現象を解説していく。

単に、現象を散発的に解説しているのではなくて、あくまで1本のロウソクにフォーカスしているのが秀逸なところだ。

「1本のロウソクの中に、宇宙を支配する法則が膨大に含まれている。日常の見過ごしてしまうような現象にも、たくさんの不思議な現象が隠れている。それを見つけ、思考するのが科学では重要だ。」

そんなメッセージを感じることが出来る。

ロウソクでさえこの複雑さが隠れているとしたら、人間には?宇宙には?
そんな好奇心を爆発させてくれる本だ。
(奇しくも、コメディアスの理念にも似ている)

そして、この本は以下のメッセージで締めくくられる。

ロウソクは燃焼して酸素と炭素が化合して熱を生み出す。
私たち人間は、呼吸によって酸素と炭素を化合させ、体温を生み出す。
人間とロウソクはとてもよく似ている。
みなさんは、ロウソクのように長く明るく光り、
世の中に貢献するような人間になってほしい。

これは嘘だ。だけど優しくて素敵な祈りが込められた嘘だ。

まったくの余談だが、ノーベル賞を受賞した吉野彰大隅良典は幼少期に「ロウソクの科学」を読んだことがきっかけで科学の道に進んだそうだ。

提案① 不純になれ

コメディアスはピュアで純度の高い物理コメディを展開してきた。
しかし、それゆえに物語や現象に意味づけがなされていない。

ロウソクが燃えるのは「僕たちの未来を明るく照らすため」ではないし、
「悔しさをバネに高く跳ぶ」ことはできない。
悔しさは弾性率を持っていないからだ。

でも、それらは祈りの込められた嘘(メタファー)だと思う。

窮屈な箱に閉じ込められた人々が、道具を使って、手探りで謎を解いていく過程に何かメタファーを入れることは、失うものもあるが得るものもあるのではないか。
もう一度、野田秀樹の選評を引用しよう。

転がしてきた人間関係に「破局」が起これば、この台本はどうなっただろう、などとついつい期待してしまう。

https://www.hakusuisha.co.jp/news/n47204.html  
第66回岸田國士戯曲賞選評

提案② SASUKEになれ

今まで2000文字かけて語ってきたことはいったん全部忘れてください。
SASUKEを目指しませんか。

重力を筋肉と判断力で制する。
これは日本のみならず、世界で共通のエンターテインメントです。
英語よりも普遍的な「言語」は物理現象です。

コメディアスの作品は本質的にノンバーバル(非言語)で地球の裏側でも問題なく笑えます。日本のこじんまりした賞を狙うのではなく、ブロードウェイを目指しませんか。

翻訳してライセンス化して海外の劇団に売りましょう。


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