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#書く術 note 第4回 直塚大成 エッセイNo.1 『流星群』

はじめまして。ご挨拶が遅れました。
出版社、SBクリエイティブで新書やビジネス書の編集をしております、小倉碧(おぐら・みどり)です。よろしくお願いします。

『書く術』製作委員会のメンバー、

著者の田中泰延さん
ライター、福島結実子さん
そして、わたくし小倉 碧

による、厳正なる審査のもと、晴れて本書の共著者として選ばれた直塚大成さん。

そんな直塚さんに加入頂き、書籍『書く術』の制作がスタート。
このプロジェクトを進める中で、直塚さん自身が書いた色々な文章を、こちらの『書く術』noteでも順次、発表していきたいと思います。

今回はその第一回です。
テーマは『流星群』。
「直塚さんの書きたいテーマを、自由に書いてみてください」
とお伝えしたところ、一番最初に直塚さんが書いてくださったのがこの原稿。

あの衝撃の『書く術』プロジェクト応募作、
『私と北条政子』を読んで、「直塚さんってこういう感じのものを書く人かな~」と思っている方は、今回、きっと驚くと思います。
この時とはだいぶ、毛色が違うので……!

私自身、編集者として本をつくる仕事をする中で、
文章を書く機会は非常に多いんですが、書くときに普段心がけているのは、

・「わかりにくい」文章を「噛み砕いて丁寧に言い換える」こと
・「説明不足」な文章を、「要素を補足して理解しやすくする」こと
・論旨を短く要約すること

だいたいこの3点じゃないかと思っています。

『流星群』は、この3点とは全く違う書き方がされていて、そのことにまず衝撃を受けました。
「自分の言いたいことをあえて、『皆まで言わない』ことで、余韻を残す」
結果として、
「直接的に言いたいことを全部言う、よりも言いたいことが鮮明に読み手に伝わる」
そういう文章の書き方もあるんだな、と学んだ次第です。
皆さんはどう感じるでしょうか?
是非、読んでみてください。



『流星群』

直塚大成

英国のトラス首相が在位45日で辞任した日は、オリオン座流星群が今年の夜空で最も輝く日でもあった。件の流星群とはオリオン座、とくに狩人オリオンの剣に近い点から放射状に広がる流星の軌道である。流星群は夜空一面に現れることから、観測に当たってこの点の位置を知る必要はない。特別な装置も必要なく、天候が許せば世界中のあらゆる地域から見ることができる。

というわけで、私も外に飛び出してみた。しかし我が家の周りは光が強かったためか、はたまた雲が空を覆っていたためか、近所をぬらりと歩いてみても、流星どころか星を観測することも叶わなかった。みなさまはどうだろうか。運良く流星を目にすることができただろうか。そんなことを知る由もなく自宅やオフィスにいた人もあろう。知っていても見られなかった人もあろう。しかし残念がることはない。11月の中旬にはしし座流星群がやってくる。どうしても同じオリオン座流星群を見たいのならば、来年まで健やかに過ごすのがよい。

なんにせよ空を眺めることや、空の美しさを語ることは自由である。オリオン座流星群の母天体はかの有名なハレー彗星。その軌道は年に2回、5月と10月に地球の軌道と交差していて、その軌道上に分布する彗星の塵が地球の大気に飛び込み、上空100km前後で発光して流れ星となる。10月がオリオン座流星群、5月がみずがめ座η(エータ)流星群と呼ばれている。起点となったオリオン座は冬を代表する星座であり、天文に疎い私もその姿を空に認めることができる。

私はかつて友人から「そんなことより空を見ようよ。今日はしし座流星群が来るんだよ」と言われたことがある。そいつの愚痴に真剣に答えていたのに「そんなこと」呼ばわりされたのは理不尽だと思うが、気に留めることもない日々のやりとりのなかで、今も忘れられないほど印象深い言葉だ。ついぞ彼女に好意を伝えられなかったことだけが悔やまれる。「そんなやつとは別れなよ」と言うのが正しかったのだろうか。しし座は未だ覚えられない。

NASAは流星群を見る少なくとも30分前には外に出て、夜空に目を慣らすことを推奨している。暗闇に慣れて目の感度が高まり、より細かい部分が見えるようになるまで約45分。携帯電話の明るい画面や街灯を見ると、そうした夜間視力が台無しになってしまうそうだ。そのため熱心な天文好きは今も山に貼り付き、オリオン座をじっと見つめていることだろう。当然のことだが、流星は観測できないかもしれない。用を足しているうちに見逃すこともあろう。しかし奇跡にも近い最上級の無料エンターテイメントを見過ごさないためには、何も見えない夜空を見続けることを止めてはならない。何も光らない暗い空を気長に楽しめる人でなくてはならない。

オリオン座の一等星ベテルギウス。最近ではこの星が近いうちに超新星爆発をするのではないかと言われている。近いうちとは、早くて10万年後のことなのだ。



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