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ひとつの金属が生まれるはなし

タイガーアイが青から緑、緑から黄色、そして黄色から赤に発色する。

ぴかぴかのヘアピンが、風呂場に置き忘れただけで、赤い跡まで残してボロボロになってしまう。

これらの現象は金属のひとつ、鉄が酸素と手を繋ぐことによって引き起こされます。

いま私たちを照らしている太陽ができるずっとずっと以前、ビックバンで宇宙は生まれ、電子、中性子、陽子、電磁波などが発生しました。

陽子と中性子が結び付いて原子核となり、さらにその後、原子核は電子を引きつけ電子がその周りを回るようになります。この小さな回転するひとかたまりを、原子と呼びます。

まず最初に陽子がふたつのヘリウムと、陽子がひとつの水素だけが発生しました。そして無数の原子が駆け回り、寄り合い、おおきなガスのかたまりである恒星が誕生しました。

小さな原子は恒星の引力を受けて、ぶつかり合い原子核が引っ付いてしまいます。恒星が大きくなるほどに、原子を引きつける力は大きくなり、原子核の融合が繰り返され、そして最終的に陽子が26個集まり、鉄が生まれました。

こうしてうまれた鉄を、たくさん中心に集めた恒星は、高温・高圧に耐えられなくなり、超新星爆発をおこします。集まった原子たちは散り散りになりますが、そのうちまた別の恒星の引力により誘われ集い、そして大きくなり、また、爆発で解散するのです。

何度も離合集散をくりかえしていたある時、たくさんの水素とヘリウム、そして少しずつのその他の元素が集積して、太陽がうまれました。

産まれたばかりの太陽から発生した塵は、寄り合い、ぶつかり合いをくりかえしていましたが、しばらくすると太陽の周りを回る惑星になりました。

地球になる惑星は、太陽に近かい場所に居たため、重い元素が集まりやすい環境でした。そのため、惑星に小惑星がどんどんぶつかり、大きく育ちました。

集まった元素の素材は、集まったエネルギーと惑星のぶつかったエネルギーで高温・高圧になり、どろどろに溶けて原子核もまた融合と分裂を繰り返しながら、この星で安定して存在できるかたちを探り続けました。

そうして地球に集った元素たちは、星の表面をうすく覆う地殻、中をドロドロと駆け巡るマントル、中心でなお融合と分裂を繰り替えし続けるエネルギーの源の層に分かれてゆきました。

このときはまだ、地球を取り巻く空気に酸素分子は無く、水蒸気と窒素と二酸化炭素、それに火山ガスである塩酸と亜硫酸が漂っているばかりでした。

しばらくして、星の大きさが今の地球の大きさに落ち着く頃、小惑星の衝突が減り、空気が冷めてきました。そして水蒸気が雨となり、地表へ降り注ぎました。

雨は落ちると、高温の地表に触れた途端に、すぐに水蒸気となりました。そしてその水蒸気はまた雨雲となり、また雨となり、また蒸発し……。
熱い地表が雨を水蒸気に変えてしまわなくなるまで、雨雲は地球を包み、太陽光を遮り、惑星を冷やし続けました。

この雨は漂っていた塩酸と亜硫酸のガスを溶け込ませて地表に溜まったため、地表に出ていた金属元素を溶かし取り込み、海となりました。

酸素のない原始の海で、命が生まれました。そのひっそりと存在していた微生物は、海底から漏れ出す火山ガスで呼吸し、硫酸やその周りの化合物をエネルギー源として生きていました。

雨雲が晴れると、地球に光が満ちました。するとその太陽光をつかって光合成を行い、エネルギーを得ることのできるシアノバクテリアが誕生します。

シアノバクテリアは大いに栄え、光合成で膨大な酸素を生み出しました。

海の中に増えた酸素は、海水に溶け込んでいた金属と手を取り合い、酸化物となって海底に堆積してゆきました。

こうして、この惑星に多く含まれていた鉄は酸化鉄として海の底の地表に安定し、マントルの力に押されて海底から地上に持ち上げられ、山となったのです。

命は多様化し、シアノバクテリアの生産した酸素をエネルギー源にできる生物が産まれ、更に鉄を利用したタンパク質で、酸素呼吸をする動物が産まれました。

その動物から進化した生き物である私たち人間は、堆積した「今」から帳尻の合う逆算をすることで、こうやってこの星が生まれた経緯を想定しているのです。

私たちUPHYCAの巫女は、儀式でいくつかの鉄で出来た『うつわ』を用います。この『うつわ』は巫女、つまりあらゆるものを宿すいれもののシンボルです。
それは子宮であり、海であり、そして、地球でもあります。

火山の女神のおなかから産まれいでたおおきなうつわ、つまりこの地球という星の上で、わたしたちは肉体を保ち、育み、生活を営んでいるのです。

女神のおなかと、おおきなうつわと、体を巡る血潮におそろいの鉄。

おおきなうつわの一部が、人の手により女神のおなかの中にいた頃に戻り、掬い出され、形づくられます。まるで魔法のようにしてうまれた鉄の道具達。
彼らは今日も、私たちの日々に、魔法に、そっと寄り添っているのです。

イメル オ サポ CMYK
UPHYCA 創造の巫女 LAGABO 編


◼︎参考資料

http://www.ies.or.jp/publicity_j/publicity204.html
環境科学技術研究所 サイエンスノート
http://www.nssmc.com/company/nssmc/science/index.html
新日鉄住金 モノづくりの原点 科学の世界 15

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