みてわかる電子回路「スイッチングレギュレータ」

ここでは、スイッチングレギュレータの基本的な動作原理について理解するため、降圧型スイッチングレギュレータについて解説します。
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スイッチングレギュレータとは?

スイッチングレギュレータはDC-DC変換回路の一種です。入力した直流電圧をスイッチのON/OFFによって一定パターンの矩形波にし、これを平滑回路に通すことで、再び直流電圧に戻します。一見すると遠回りしているように見えますが、電力消費の小さなスイッチやインダクタやキャパシタといった素子のみによって構成されているため、電源回路内部での電力消費を抑えることができます。
(DC-DC変換回路全般についてはこちらをご参考ください)

スイッチングレギュレータの種類

スイッチングレギュレータには、下のスライドに示されたような様々な種類のものがありますが、ここでは主に、最も基本的な「降圧型」スイッチングレギュレータについて詳しく説明します。ここで学ぶ基本的な考え方は、他の型のスイッチングレギュレータの動作を理解するうえでも役に立つと思います。

降圧型スイッチングレギュレータの概略

降圧型スイッチングレギュレータの回路図は、下記スライド中央上部のようなものです。

ここではまず、スイッチが周期的にON/OFFすることで、本来直流的な入力電圧が矩形波へと変えられます。次にそれがインダクタを通してキャパシタに注ぎ込まれ、ここで平滑された電圧が負荷に供給されます。

この間に、ダイオード上部での電圧 $${ V_{\rm{D}} }$$ [V] は下のスライド中の左下図のように変化し、その間にインダクタを通して流れる電流 $${ I_{\rm{I}} }$$ [A] は、スライド中の中央下図のように三角波的に増減を繰り返します。そして出力電圧 $${ V_{\rm{OUT}} }$$ [V] はキャパシタにより平滑されるため、スライド中の右下図のようにほぼ一定値となります。
なお厳密には $${ V_{\rm{OUT}} }$$ にはスイッチングにより若干の変動(リプルという)が生じますが、ここでは電流の増減に比べると比較的軽微であると仮定して話を進めていくこととします。

まず、降圧型スイッチングレギュレータの動作を考察する前準備として、この回路を二つに分離して考えることとしましょう。本講義では左側を「電流源部分」とよび、右側を「平滑部分」とよぶこととします。
電流源部分は、スイッチのON/OFFの様子や出力電圧によって出力が変動するような電流源であると見なします。いっぽう平滑部分は、流れ込んだ電流の一部をキャパシタに蓄積することで出力電圧を平滑化し安定させるものとしてとらえます。

最初はこれらの動作を別々に独立して考えていきますが、後でこれらを組み合わせた時の挙動を考えます。

電流源部分の動作

まず電流源部分から考えていきます。

下のスライドに示されていますが、電流源部分の左側は入力端子であり、直流電圧 $${ V_{\rm{IN}} }$$ が入力しています。この電流源部分の右端は本来のところ平滑部分につながっているため、そこでの電圧 $${ V_{\rm{OUT}} }$$ は複雑に変化していきますが、議論を簡単にするために当面はここが一定電圧に固定されているとみなしておきましょう。
なお、ここでは $${ V_{\rm{OUT}} }$$ は $${ V_{\rm{IN}} }$$ より常に小さいものとします:
$${ V_{\rm{IN}} > V_{\rm{OUT}} }$$
また、ダイオードの挙動は最も単純化したモデルで考えることとします。すなわち順方向バイアスでは導通し、逆方向バイアスでは遮断しているものとみなします。

まずスイッチがONしているときから考えましょう。
このときダイオード両端には電位差 $${ V_{\rm{IN}} }$$ が生じますが、ダイオードは逆バイアス状態であるため切断状態となり電流は発生しません。一方インダクタ両端には $${ V_{\rm{IN}} }$$ および $${ V_{\rm{OUT}} }$$ が生じているため、
$${  L\frac{dI_{\rm{I}}}{dt} = V_{\rm{IN}} - V_{\rm{OUT}}>0 }$$
を満たしながら、インダクタに生じる電流 $${ I_{\rm{I}} }$$ は線形に増加していきます。

つぎに、スイッチONでインダクタに電流が流れている状態からスイッチをOFFすると、インダクタに電流を供給していた $${ V_{\rm{IN}} }$$ との接続が絶たれます。すると、この瞬間だけインダクタの電流が急激に減少傾向となるため、$${ L \frac{dI}{dt} }$$ で表される負の電位差がインダクタ両端に発生することになります。このときインダクタ右端の電圧は $${ V_{\rm{OUT}} }$$ で固定されているため、結果的にインダクタ左端の電圧が急激に低下することになりますよね。このような急激な電圧低下はダイオードがONして導通状態となった時点で直ちにストップし、そのあとはインダクタ左端の電圧は接地ゼロで固定された状態を保ったまま落ち着きます。いったんこのような安定的な状態になると、
$${  L\frac{dI_{\rm{I}}}{dt} = - V_{\rm{OUT}} <0 }$$
が満たされており、インダクタに生じる電流 $${ I_{\rm{I}} }$$ はこの式に従って線形に減少していきます。

以上のような考察から、インダクタを通して生じる電流 $${ I_{\rm{I}} }$$ は下のスライド中に示されているようにスイッチのON/OFFによって三角波的な増減を繰り返すことになります。

さてここで、右端の電圧 $${ V_{\rm{OUT}} }$$ が以上のような挙動にどのような影響を及ぼすかを考えてみましょう。

あらためて、スイッチON時のインダクタの電流量増加率およびOFF時の減少率は下のスライド中の式のようになります。この式から、 $${ V_{\rm{OUT}} }$$ が小さい値であればスイッチON時の電流増加量が大きくOFF時の電流減少量が小さいため、電流は増減しながらも平均的に見ると素早く増加していきます。一方、 $${ V_{\rm{OUT}} }$$ がもう少し大きな値であれば、スイッチON時の電流増加量とOFF時の減少量が近くなるため、電流の平均的な増加は比較的緩やかになります。

ここで、スイッチON時の電流増加とOFF時の減少がちょうど等しくなるとき(つまりバランスしているとき)の $${ V_{\rm{OUT}} }$$ を求めておきましょう。

スイッチONの時間を $${ t_{\rm{ON}} }$$ としOFFの時間を $${ t_{\rm{OFF}} }$$ とすると、スイッチON時およびOFF時の電流変化量は下のスライド中の式で表されます。これらがちょうどバランスしているという関係式をたてて整理すると、次式が得られます:

$${ V_{\rm{OUT}} = \frac{ t_{\rm{ON}} }{ t_{\rm{ON}} + t_{\rm{OFF}} }V_{\rm{IN}} }$$

このような $${ V_{\rm{OUT}} }$$ であれば、インダクタに生じる電流はスイッチのON/OFFに応じて上下しながらも、その平均値は一定を保っており、回路は定常状態にあるといえます。

平滑部分の動作

つぎに平滑部分について考えていきましょう。

下のスライドに示されているように、この平滑部分では左端から入力電流 $${ I }$$ が注ぎ込まれると、その一部は負荷抵抗に流れて出力電流 $${ I_{\rm{OUT}} }$$ となりつつ、残りの電流はキャパシタの充電電流 $${ I_{\rm{C}} }$$ となって出力電圧をできるだけ緩やかに変化させる、といった役割を担います。

例えば、この回路に $${ t = 0 }$$ から一定の電流 $${ I_0 }$$ が流入し続けたときは、出力電圧 $${ V_{\rm{OUT}} }$$ はスライド中の下図のように緩やかに増加していき、最終的には一定値に落ち着いていきます。これは $${ t = 0 }$$ において電流が急に増加した効果をキャパシタが充電することで吸収したため、負荷 $${ R_{\rm{L}} }$$ が受け取る出力電流(したがって出力電圧)が緩やかに増加したものとみることができます。同様に、最初から一定の定常電流によってキャパシタが充電されており一定の出力電圧を保っている状態において、流入していた電流がふっと減少した時にも、キャパシタが放電することにより負荷が受け取る電圧の減少は緩やかになるでしょう。

このように、この回路では左端から流入してきた電流の変化が $${ V_{\rm{OUT}} }$$ に与える影響を緩慢にする効果を持っており、結果的に $${ V_{\rm{OUT}} }$$ を平滑にしていることがわかります。

電流源部分と平滑部分を合わせると

以上の考察から、電流源部分と平滑部分が合わさったときの挙動を推測することができます。

下のスライドに示されているように、まずスイッチONのときは、左端の入力端子からの電流 $${ I_{\rm{IN}} }$$ がインダクタの磁場エネルギーとキャパシタの静電エネルギーを増加させつつ、出力電流 $${ I_{\rm{OUT}} }$$ と出力電圧 $${ V_{\rm{OUT}} }$$ を生じます。ここではダイオードはOFFしています。いっぽうスイッチOFFのときは、左端の入力は切断されていますが、ダイオードがONしているため引き続きインダクタの余力により同じ向きに生じる電流を維持しています。ここではインダクタの磁場エネルギーとキャパシタの静電エネルギーを少しずつ消費しつつ、出力電流 $${ I_{\rm{OUT}} }$$ および出力電圧 $${ V_{\rm{OUT}} }$$ を維持しようとしています。

このようなスイッチのON/OFFを繰り返していくと、初期状態から定常状態に至るまでの回路の様子は次のようになるでしょう:
(a) 最初に出力電圧がほぼゼロで小さい値のとき…
電流源部分のインダクタに生じる電流は増減を繰り返しつつ急速に増加していく。それによって平滑部分のキャパシタが充電され、出力電圧はギザギザしながら増加していく。
(b) やがて出力電圧が増えていくと…
電流源部分でのインダクタに生じる電流は、平均的にみると増加が徐々に緩やかになる。それでもまだ平滑部分への電流注入は続くので、出力電圧は少しずつ増加し続ける。
(c) やがて定常状態では…
電流源部分でのインダクタに生じる電流は、スイッチON時の増加分とOFF時の減少分がちょうど等しくなり、平均的に見た電流量は一定値に達する。これにより平滑部分での出力電圧も平均的に見るとほぼ一定値に収束する(ただし微弱なリプルを含む)。

以上から、インダクタに生じる電流量 $${ I_{\rm{I}} }$$ と出力電圧 $${ V_{\rm{OUT}} }$$ は、スライド中の図のように変化していき、最終的には定常状態に達すると考えることができます。
定常状態に達したときの出力電圧は、電流限部分の解説のところでも示したように

$${ V_{\rm{OUT}} = \frac{ t_{\rm{ON}} }{ t_{\rm{ON}} + t_{\rm{OFF}} }V_{\rm{IN}} }$$

により与えらえます。

実際はフィードバックとパルス幅変調回路で自己安定化させる

実際のスイッチングレギュレータでは、出力電圧を読取り、それをあらかじめ与えられた基準電圧と比較し、それに応じてパルス幅を変える回路(パルス幅変調回路)を介して、スイッチのON/OFF比を制御します。これにより全体で負帰還が成立するように構成することで、出力電圧が所望の値に安定化します。言い換えると、こちらで与えた基準電圧に応じた出力電圧になるよう、負帰還によりスイッチングのON/OFF時間比を自ら調整してくれる、ということですね。