みてわかる電子回路「MOS型電界効果トランジスタ」

ここではMOS型電界効果トランジスタの動作原理を簡単に説明します。
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電界効果トランジスタとは?

電界効果トランジスタは3個の端子をもつデバイスで、2端子間に生じる電流量を残りの1端子に印加された電圧(したがって電界)が決定するものです。構造の違いにより、MOS型電界効果トランジスタ(MOSFET)と接合型電界効果トランジスタ(JFET)などがあります。身の回りの電子機器ではMOSFETが最も広く使用されていますが、特定用途ではJFETが用いられることもあります。MOSFETとバイポーラトランジスタ(BJT)は、電子回路で登場する主なトランジスタなので、これらを理解しておくことは大切ですね。

MOS型電界効果トランジスタ(MOSFET)

MOS型電界効果トランジスタ(MOSFET)には、電子が電流の担い手となるnチャネルMOSFET(NMOS)と、正孔が電流の担い手となるものがpチャネルMOSFET(PMOS)があります。いずれも、ソース、ドレイン、ゲート、基板(PMOSではウェル)とよばれる4つの端子を持ちます。このなかで重要な役割を果たすのは、ソース、ドレイン、そしてゲートであり、ソースドレイン間を流れる電流量を、ゲートソース間電圧が制御します。基板(またはウェル)を考慮しなければならない場合もありますが、このシリーズではそのようなケースはほとんど登場しないので、実質的には3端子デバイスだと考えていただいても結構です。

NMOSのデバイス構造

下図はNMOSの構造を示しており、左上が断面図、右下が上面図です。図中の記号はそれぞれ下記の意味を持ちます:
 (1) 基板(B): NMOSの土台となる場所で、中程度にドーピングされたP型シリコン。
 (2) ソース(S): 電流を担う粒子である電子の源(source)となる場所で、高濃度にドーピングされたN型シリコン。
 (3) ドレイン(D): 電子の排出口(drain)となる場所で、はやり高濃度にドーピングされたN型シリコン。
 (4) ゲート(G): 電子の流量を制御するための門(gate)となる場所で、高濃度にドーピングされたN型シリコンあるいは金属。
 (5) ゲート絶縁膜: ゲートとその他領域の間で電流が流れないようにするための絶縁層で、酸化シリコン(SiO2)などの半導体酸化物。

なお、ソース(S)と基板(B)、およびドレイン(D)と基板(B)の間はPN接合になっており、空乏層が存在します。また、ゲート(G)とソース、ドレイン、基板の間はゲート絶縁膜により絶縁されており電流が生じませんが、絶縁膜がもつ電気容量を通して静電的な結合は保たれています。

NMOSの各端子に電圧を印可すると?

それでは、このNMOSのドレインのみに正電圧を印加したときを考えてみましょう。つまり基板、ソース、ゲートを接地し、ドレインに正の電圧を印加します。すると基板ドレイン間のPN接合が逆バイアスとなり、空乏層が広がりますが、特に目立った電流は生じません。

次に、基板、ソース、ドレインを接地し、ゲートに正の電圧を印加します。すると基板の主な自由粒子である正孔がゲートの正の電位を感じ、絶縁膜基板界面から遠ざかっていきます。そして正孔がいなくなった領域には、負に帯電したイオン化不純物原子(ボロン原子)がむき出しになります。このため、絶縁膜基板界面付近には、PN接合の空乏層のような領域が形成されます。

さらにゲートに印加して正電圧を大きくしていくと、P型半導体の基板中にわずかに存在する電子が絶縁膜基板界面に引き寄せられて集まります。やがてそこに集結した電子の密度は非常に高くなり、電子が自由に行き来する通り道が形成されます。このように、P型半導体中では本来ごく少数しか存在しない粒子(NMOSでは電子)が、ゲートの正電位によって集結して高密度になった領域を「反転層」とよびます。この反転層が形成されると、ソース→反転層→ドレインと沿った電子の通り道ができあがりますよね。MOSFETでは、ソースとドレインの間を結ぶ反転層のことを「チャネル(channel)」と呼びます。「通り道」という意味ですね。

結局のところNMOSがONしている状態は?

それでは、ゲートにもドレインにも正電圧を印可したらどうなるでしょうか?ゲートの正電圧で形成されたチャネルによって、ソース→チャネル→ドレインにそって電子が高密度に存在する領域が繋がっている状態ですよね。ドレインの正電圧はこの通り道の両端に電位差を生じさせるため、ここに電流が生じます。このように、ゲートに正電圧を印加していない時はソースドレイン間に電流が発生することはありませんが、ゲートに正電圧を印加することでチャネルが形成されると、ソースドレイン間に自由に電流が流れることができます。
これがNMOSが動作しONしている状態ということになります。