みてわかる電子回路「負帰還回路」

ここではアナログ回路で頻繁に登場する「負帰還」についての解説をします。
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負帰還とは?

入力と出力の関係を定めるものがあったとき、出力の一部が入力に反映されることを「帰還(Feed back)」といいます。たとえば教室の先生がマイクを通して話す声の大きさを学生の意見に基づいて調節する、といった場面は、このような帰還の一つの例ですね。

ここで、出力の増加(あるいは減少)が入力に反映されたとき、帰還したシグナルが入力と同じ増減を示すような帰還を「正帰還」といいます。
たとえば、教室の先生がマイクを通して話す声の大きさを学生が「大きい」と伝えたとき、先生がマイク音量をなおさら大きくするような場面は正帰還であるといえるでしょう。
また逆に、先生がマイクを通して話す声の大きさを学生が「小さい」と伝えたとき、先生がマイク音量をなおさら小さくする場面も正帰還といえます。
このように正帰還では、ちょっとした変化が帰還により強化されるため、極端な結果に至るという特徴があります。

一方、出力の増加(あるいは減少)が入力に反映されたとき、帰還したシグナルが入力と逆の増減を示すような帰還を「負帰還」といいます。
たとえば、教室の先生がマイクを通して話す声の大きさを学生が「大きい(小さい)」と返したとき、先生がマイク音量を小さく(大きく)するような場面ですね。この場合は、帰還により変化が抑制されるため、全体が安定化する特徴があります。

負帰還での信号の流れ

負帰還での信号の流れは、ブロック図を用いて下記スライド中の模式図のように表されます。

まず全体に対する入力は $${ X }$$ で表され、出力は $${ Y }$$ と書かれています。
そして、この図の中で $${ A }$$ と書かれた箱で表される要素は、この要素の入口(左側)に入力した信号の $${ A }$$ 倍をこの要素の出口(右側)に出力することにより、入力信号を増幅します。この $${ A }$$ は「開ループ増幅率(Open-loop gain)」とよばれ、帰還しない時の増幅率を表します。

つぎに $${ \beta }$$ と書かれた箱で表される要素は、この要素の入口(右側)に入力した信号の $${ \beta }$$ 倍をこの要素の出口(左側)に出力することで、出力 $${ Y }$$ の一部を入力側に帰還する働きを持ちます。この $${ \beta }$$ は「帰還率(Feedback transfer function)」とよばれ、出力が入力に反映される度合いを表します。

最後に$${ \Sigma }$$記号で書かれた丸い要素は、$${ + }$$入力から$${ - }$$入力を差し引いたものを出口(右側)に出力するため、二つの信号の差をとる役割を持ちます。

なお、$${ A }$$ と $${ \beta }$$ の積は「ループ利得(Loop gain)」とよばれ、ループを一周めぐって再び戻ってきたときの倍率を表します。また $${ 1+\beta A }$$ は「帰還量」と呼ばれ、帰還システム全体の特徴量のなかに頻繁に現れます。
そしてこの負帰還システム全体の増幅率 $${ G }$$ は「閉ループ増幅率(Closed-loop gain)」とよばれ、次式のように表されます:
$${ G = \frac{A}{1+\beta A} }$$

負帰還が作用する回路を構成することで、次に挙げるような様々な利点が得られます。
(1)全体の増幅率が変動しにくい
(2)周波数特性が改善する
(3)入出力インピーダンスを変化させられる
(4)非線形性が抑制される

ここからはこれらについて電圧信号を取り扱う差動増幅回路を例にとり一つずつ見ていきましょう。

負帰還の利点その1:全体の増幅率が変動しにくい

まず下のスライド中の回路を見てください。
ここで $${ A }$$ と書かれた箱はプラス入力端子とマイナス入力端子の電圧の差を $${ A }$$ 倍に増幅して出力するもので「差動増幅回路」と呼ばれます。
この回路では、出力電圧が抵抗 $${ R_1 }$$ と $${ R_2 }$$ により分割されたものがマイナス入力端子に戻っているので、帰還率が
$${ \beta = \frac{R_1}{R_1+R_2} }$$
の負帰還が生じています。
このため、この回路全体の増幅率は$${ G = A/(1+\beta A) }$$となります。

この増幅率 $${ G }$$ は、$${ A }$$ がある程度大きい値であれば $${ G=1/\beta = 1 + R_2/R_1 }$$ と近似することができます。つまり、回路固有の値である $${ A }$$ が製造ばらつきや温度変化などで変動しても、$${ A }$$ がある程度大きな値でありさえすれば、その値そのものは回路全体の増幅率に表れにくいと言えます。このように、負帰還をかけることで回路固有のパラメータが回路全体の性能に与える影響を上手に弱めることで、より安定した回路性能を実現することができます。

負帰還の利点その2:周波数特性が改善する

一般的に、増幅回路の増幅率 $${ A }$$ は入力する信号の周波数が大きくなると低下し、おおまかに近似すると
$${ A(f) = \frac{A_0}{1+j\left( f/f_c\right)} }$$
のように変化します(ただし $${ j }$$ は虚数単位)。
この周波数依存性を両対数プロットするとスライド下部の図中破線のようになり、カットオフ周波数 $${ f_c }$$ を超えると増幅率が低下します。このような増幅回路を用いて入力信号の波形を変えず振幅のみを増幅するためには、取り扱う信号が含むスペクトルの上限周波数よりも $${ f_c }$$ が大きな増幅回路にしなければなりません。

ここに負帰還をかけると、回路全体の増幅率 $${ G }$$ は
$${ G(f) = \frac{A_0}{1+\beta A_0} \frac{1}{1+j \left( \frac{f}{\left( 1+\beta A_0 \right) f_c} \right)} }$$
のようになり、その周波数依存性は図中の黒い実線のようになります。
この結果を見ると、負帰還をかけることで実効的なカットオフ周波数が $${ \left( 1+\beta A_0 \right) }$$ 倍に拡大しており、それだけ広い周波数帯で一定の増幅率となったことがわかりますね。
このように、負帰還をかけることで増幅率が一定であるような周波数範囲を拡大し、回路全体としての周波数特性が改善されます。

負帰還の利点その3:入出力インピーダンスを変化させることができる

差動増幅回路を小信号等価回路で表現すると、入力インピーダンス $${ Z_{\rm{in}} }$$, 出力インピーダンス $${ Z_{\rm{out}} }$$ を含む下記スライド中の図のようになります。
ここで抵抗 $${ R_1 }$$, $${ R_2 }$$ によって出力電圧を抵抗分割して負帰還をかけると、回路全体としての入力インピーダンスは $${ \left( 1+\beta A \right) }$$ 倍され、また出力インピーダンスは $${ 1/ \left( 1+\beta A \right) }$$ 倍されることを計算により導き出すことができます。
電圧を読み電圧を出力する増幅回路では、入力インピーダンスが高く出力インピーダンスが低いほうが好ましいため、負帰還をかけることでどちらの性能も改善したということになりますね。

この他にも、電圧入力&電流出力、電流入力&電圧出力、電流入力&電流出力、などの信号の組み合わせが考えられますが、そのいずれにおいても、負帰還によって入出力のインピーダンスを変化させることができます。

負帰還の利点その4:非線形性を抑制することができる

理想的な信号増幅回路では、小振幅の入力信号 $${ x }$$ と出力信号 $${ Y }$$ の間には $${ Y = A x }$$ という線形な関係が成り立ちます。しかしながら現実には、使用する信号の振幅の範囲内で厳密に直線であるとは言えず、多少なりとも曲線的になり、これを信号増幅回路の「非線形性」といいます。

このような非線形性により、増幅器の入出力特性は
$${ Y = A_1 x + A_2 x^2 }$$
といった非線形な関係を示すため、$${ x }$$ に正弦波が入力したときの出力信号には高調波成分が生じ、実際の信号波形をゆがめてしまいます。
このときのひずみ度合いは「全高調波歪(Total harmonic distortion):THD」により評価することができ、負帰還をかけない時はスライド中の左下式のように計算されます。

ところがここに負帰還をかけると、全高調波歪は $${ 1/ \left( 1+\beta A \right)^2 }$$ 倍されることから、増幅器が本来持つ非線形性を大幅に抑制することができます。このように、負帰還によって非線形性が抑制され、回路全体としてより線形性の高いものが得られます。

様々な場面で活用される負帰還回路

以上のように、負帰還回路では様々な利点があるため、アナログ回路では頻繁に活用されます。皆さんが別の機会に学習するオペアンプの性質も、このような負帰還の恩恵を受けている部分が大いにあるので、是非それを意識しながら関連づけてみてください。