みてわかる電子回路「MOSFETの小信号等価回路」

ここではMOSFET(NMOS)の小信号等価回路がどのように表されるかを見ていきましょう。
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MOSFETを用いた小信号増幅

MOSFETは、電圧信号を電流信号へ変換する素子として用いることができます。例えば静特性のなかで $${ I_{\rm{D}} - V_{\rm{GS}} }$$ 特性を考えましょう。時間的に変化する電圧信号を $${ V_{\rm{GS}} }$$ に重ねると、それは電流信号として $${ I_{\rm{D}} }$$ の変化として現れます。このときの変換の比例係数は与えられた動作点での静特性の傾きであり相互コンダクタンス $${ g_{\rm{m}} [\Omega^{-1}] }$$ とよばれます。

このMOSFETの「小信号変換」機能を利用すれば、電圧信号を入力して電圧信号を出力する「交流電圧信号増幅器」を実現することができます。

ゲートソース間電圧 $${ V_{\rm{GS}} }$$ に電圧信号を入力すると、MOSFETによってドレイン電流 $${ I_{\rm{D}} }$$ に電流信号が現れます。この電流を抵抗に通すことで、電流変化が抵抗の両端での電位差に変換されるため、この電位差を出力として取り出すことで、電圧信号が出力されます。入力された電圧信号の振幅に対して出力された電圧信号の振幅が大きければ、電圧信号が増幅されたことになりますね。

ではこのMOSFETを小信号増幅器として見てみましょう。MOSFETでは、その動作状態を表す変数としてゲート電圧、ドレイン電圧、ドレイン電流の3つがあります。これらは互いに関係しているため、そのうちの2つを与えれば、残りの1つが決定されます。たとえば、ゲート電圧とドレイン電圧を与えれば、ドレイン電流が決定されるという具合です。このため、MOSFETは2変数を入力として残りの1変数を出力とする交流電圧信号増幅器(あるいは変換器)とみなすことができます。

MOSFETの小信号等価回路

MOSFETの小信号特性は、動作点における静特性の傾きによって表されます。まずゲート電圧を入力信号とみなしましょう。これはドレイン電圧を一定とすることにより、ドレインでの交流電圧信号の複素振幅 $${ V_{\rm{ds}} }$$ をゼロとすることを意味します。このとき $${ V_{\rm{GS}} }$$ [V] と $${ I_{\rm{D}} }$$ [A] の間には図のような静特性の関係が成り立ちます。交流信号の間の比例係数は静特性中の動作点における傾きによって決まり、相互コンダクタンス $${ g_{\rm{m}} }$$ に他なりません。この結果、ドレイン電流の交流信号とゲート電圧の交流信号の複素振幅の間には、下図中の式のような関係が成り立ちます。

つぎに、ドレイン電圧を入力信号とみなしましょう。これはゲート電圧を一定とすることにより、ゲートでの交流電圧信号の複素振幅 $${ V_{\rm{gs}} }$$ をゼロとすることを意味します。このとき $${ V_{\rm{DS}} }$$ [V] と $${ I_{\rm{D}} }$$ [A] の間には図のような静特性の関係が成り立ちます。交流信号の間の比例係数は静特性中の動作点における傾きによって決まり、その傾きの逆数をドレイン抵抗 $${ r_{\rm{d}} [\Omega] }$$ と呼ぶこととしましょう。これを用いると、ドレイン電流とドレイン電圧の交流信号の複素振幅の間には、下図中の式のような関係が成り立ちます。

一般的には、二つの入力 $${ V_{\rm{GS}} }$$ [V] および $${ V_{\rm{DS}} }$$ [V] は同時に変化することもありうるでしょう。すなわち、交流電圧信号 $${ V_{\rm{gs}} }$$ および $${ V_{\rm{ds}} }$$ が同時に入力することがあります。MOSFETは小振幅の交流信号に対しては線形な入出力特性を持つため、以上の入力信号と出力信号の関係を重ね合わせて、下図中の式のように一般的に書くことができます。

この数式を電気回路素子によって表現すると、MOSFETの小信号等価回路が得られます。

まずゲートソース間は、ゲート絶縁膜により絶縁されており、電流は全く生じないと考えて支障ありません。
このためゲートソース間の小信号等価回路は、図のようにソースともドレインとも分断された端子として表されます。ただし、この電圧はゲート絶縁膜の電気容量を通した静電的結合によってソースドレイン間電流に影響します。

次にソースドレイン間では、ここに流れる交流電流信号の複素振幅 $${ I_{\rm{d}} }$$ [A] が $${ V_{\rm{gs}} }$$ [V] に比例して発生する「電流源」により表現されます。また、数式中の $${ V_{\rm{ds}} }$$ [V] に比例する成分では、電圧が電流に比例して発生するため「抵抗」によって表現され、その抵抗値はドレイン抵抗で与えられます。

以上をまとめると、MOSFETが交流小信号に対して見せる入出力特性を回路素子の組み合わせによって表現すると、下図中の図のようなものになります。