みてわかる電子回路「半導体にとっての不純物の役割」

ここでは、半導体に不純物が導入されることによりその性質がどのように変わるかを見ていきましょう。
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半導体結晶の不純物

例えばシリコン結晶では、各シリコン原子がもつ4個の価電子が、隣接する別のシリコン原子の価電子と対になることで整然と結合しています。ここにシリコンとは異なる原子が混ざると、この結晶の電気的性質が変化します。このような混ざりものは「不純物原子」とよばれ、電子デバイスで用いられる半導体結晶では、電気的性質を制御するために不純物が意図的に導入されます。

リン原子

まず不純物原子の一つであるリン(P)原子を考えてみましょう。リンの原子番号は15でありシリコンより1だけ多くなっています。このためリン原子は計5個の価電子が一番外側の軌道にいます。このリンがシリコン結晶中に混入すると、5個の価電子のうち4個は隣接するシリコン原子との結合に費やされます。しかし価電子が1個あまり、この電子はどの原子とも結合せず、ブラブラしています。

N型半導体

このように余分な価電子をもつ不純物原子を含む半導体結晶のことを「N型半導体」といいます。このブラブラした余分な価電子は、隣接する価電子と対となるわけでもなく不安定です。その結果、簡単にリン原子から離れ、結晶の網の目の間をスルスルと動く自由電子になります。つまりN型半導体では、不純物原子が余分にもつ価電子が自由電子となるため、不純物を含まない場合に比べて多くの自由電子が存在するんですね。負電荷 -e [C] をもつ電子が余分に導入された半導体であるため、「負」を表す英語Negativeの頭文字をとって「N型半導体」と呼ばれるのだと考えると覚えやすいかもしれません。

電気的に見たN型半導体

まず不純物原子のもつ余分な価電子が自由電子となる以前の様子を考えてみましょう。リン原子の原子核は+15e [C] の電荷をもち、10個の電子が内殻電子として原子核を取り囲んでいます。4個の価電子は隣接するシリコン原子と共有結合を形成していますが、残り1個の価電子はリン原子の近くにとどまっています。このため電気的バランスが保たれており、電気的には中性です。

次に不純物原子のもつ余分な価電子が自由電子となった後の様子はどうでしょうか?余分な価電子がフラフラと移動してリン原子から離れていき、-e [C] の自由電子となります。残されたリン原子の周辺では電気的バランスが崩れており、+e [C] で帯電しているように見えるでしょう。この状態を「不純物原子がイオン化している」といいます。このイオン化したリン原子は隣接するシリコン原子と強力に結合しているため、自由に動くことなく固定されています。

ボロン原子

もう一つの代表的な不純物原子であるホウ素: ボロン(B)原子を考えましょう。ボロンの原子番号は5であり、価電子の数は計3個です。このボロンがシリコン結晶中に導入されると、隣接する4個のシリコン原子と共有結合を形成するためには、価電子が一つ不足しています。この不足した価電子の穴に隣接する別の価電子が移動することで、あたかも穴が自由に動き回るように見えます。

P型半導体

この穴は正孔にほかならず、価電子が不足した不純物原子を含む半導体結晶のことを「P型半導体」といいます。不純物原子の混入によって生じた価電子の穴は正孔として振舞い、結晶の網に沿ってボコボコと移動します。このため、P型半導体では、不純物原子が余分に正孔をもたらすことになり、不純物を含まない場合に比べて多くの正孔が存在します。正電荷 +e [C] をもつ正孔が余分に導入された半導体であるため、「正」を表す英語Positiveの頭文字をとって「P型半導体」と呼ばれるのだと覚えておきましょう。

電気的に見たP型半導体

まず不純物原子がもたらす価電子の不足が正孔として自由に動き回る前の様子を考えましょう。このときボロン原子の原子核は+5e [C] の電荷をもち、2個の電子が内殻電子として原子核を取り囲んでいます。3 個の価電子は隣接するシリコン原子と共有結合を形成しており、電気的バランスが保たれているため、電気的に中性です。

次に不純物原子がもたらす価電子の不足が正孔として自由に動き回ったあとの様子はどうでしょうか?価電子不足による穴が正孔としてボコボコと移動してボロン原子から離れていき、+e [C] の自由に動く正孔となります。残されたボロン原子の周辺では電気的バランスが崩れており、-e [C] で帯電しているように見えるでしょう。この状態もやはり「不純物原子がイオン化している」といいます。ボロン原子は隣接するシリコン原子と強力に結合しているため、自由に動くことなく固定されています。

真性半導体と不純物半導体

以上のように、不純物を含むN型半導体とP型半導体は、まとめて「不純物半導体」と呼ばれ、不純物を含まない半導体は「真性半導体」と呼ばれます。電子デバイスで用いられる半導体結晶は多くの場合不純物半導体です。

まとめると、

真性半導体では、
・価電子が隣接する原子との共有結合を形成しています。
・室温程度の高温では、このような価電子の一部が自由電子として自由に移動し、残された穴が正孔として自由に移動しています。

N型半導体では、
・価電子を余分に持つ不純物電子が結晶中に導入されています。
・この価電子は負に帯電した自由電子として自由に移動し、残された原子は正に帯電したイオン化不純物原子としてその場にとどまります。

P型半導体では
・価電子が不足した不純物電子が結晶中に導入されています。
・この価電子不足による穴は正に帯電した正孔として自由に移動し、残された原子は負に帯電したイオン化不純物原子としてその場にとどまります。

ここで一つ注意が必要です。N型半導体およびP型半導体は、不純物半導体によって余分に導入された自由電子あるいは正孔を持っています。ですが実はそれらと並行して、真性半導体と同様に熱エネルギーによって自然発生した自由電子と正孔も存在しています。忘れがちなので念のため。