量子コンピューティング基礎講座「量子コンピューターの方式」

量子コンピューターは量子力学で表される現象で動作するコンピューターですが、実は大きく二つの異なる方式に分けることができます。ここではこれらの方式の違いについて簡単に解説していきたいと思います。
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ゲート方式とアニーリング方式

まず一つ目の方式は「量子ゲート方式」と呼ばれるものです。
この方式では、最初に情報の担い手である「量子ビット」と呼ばれる量子的な粒子(や状態)を複数用意して、ここに「ゲート」と呼ばれる変化を作用させることにより、その状態をいろいろと変えていきます。
そして最終的な状態に対して読み取りを行い、計算結果を取得します。

もう一つの方式は「量子アニーリング方式」と呼ばれるものです。
こちらでは、最初に用意された量子ビットを少しだけエネルギーの高い状態におきます。そしてここからゆっくり時間をかけて徐々にエネルギーの低い状態に落ち着くまでじっと待ち、やがて最後の状態に対して読み取りを行えば、その結果が計算結果である、といった方式です。

このようにして二つの方式がありますが、量子ゲート方式に関しては、古典コンピューターにできる計算は全部これで行うことができるといわれています。
それに加えて、量子力学的な効果があるからこそできて古典コンピューターにはできない計算が可能になったり、古典コンピューターではとても時間のかかる計算が量子ゲート方式のコンピューターでは非常に早くできたり、といった可能性が期待されています。

一方で量子アニーリング方式では、多くの場合「組合わせ最適化問題」という問題を解くことに用いられます。

現時点ではこれら二つの方式それぞれに長所短所があり、解きたい問題によって、あるいはハードウェアの入手可能性に応じて使い分けるというような現状ではないでしょうか。

いろいろな「量子」や「アニーリング」が混在

なお、この量子アニーリング方式というものと似た言葉で「疑似量子アニーリング」というものもあります。
これは、量子アニーリング方式で起こっている現象を、古典コンピューターによって再現をしたものです。
疑似量子アニーリングでは、実際に量子的粒子の量子力学的現象を用いるのではなく、量子的な現象にヒントを得た計算原理を古典コンピューターで再現しており、FPGA・ASIC・GPUといった古典ハードウェアを使って計算を行います。

さらに、このような疑似量子アニーリング計算に特化した古典ハードウェアを使うのではなく、量子ではない一般的なアニーリング現象を完全にソフトウェア上で再現する「アニーリング」もあります。
この場合は、皆さんの手元にあるPCのような汎用の古典コンピューターにパッケージをインストールすることで計算ができますが、ここでは「量子」的な要素が含まれているとは限りません。

このようにして、一言で「量子コンピューター」「アニーリング」といっても、複数の方式、複数の概念、いろいろな言葉が混在して使われる場合があります。これらのワードを耳にしたときは、どの方式のどのタイプのものについて述べているのかを頭の中で整理しながら聞いていくことが重要ですね。

ちなみにこの本講座では、量子ゲート方式の量子コンピューターを中心に解説をしていく予定です。

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