みてわかる電子回路「自由電子と正孔」

ここでは半導体結晶中の自由電子と正孔の成り立ちを解説します。
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結晶中の自由電子

 半導体結晶中には、各原子の内部に閉じ込められた「内殻電子」と、表層で共有結合を形成している「価電子」が存在します。一見すると、電子は原子内に閉じ込められているか、原子間の結合を形成しており、結晶中を自由に動き回る余地はありません。ところが実は、これらの電子は常にゆらゆらと揺らいでいます。このような揺らぎは熱エネルギーによって生じるため、温度が高いほど揺らぎが大きく、逆に絶対零度では殆ど揺らぎがありません。
 室温では、これがなかなか結構揺らいでいて、価電子の一部は共有結合の網から飛び出してきます。このようにして飛び出した元気な電子は、共有結合の網の目をするすると抜けるように自由に移動することができるため、「自由電子」と呼ばれます。いっぽう内殻電子は価電子に比べてエネルギーが低く安定しているため、このように飛び出てくることはありません。

結晶中の正孔

 それでは、自由電子として結合の網から飛び出した後に残る「穴」はどうなるのでしょうか?このような穴の近くにいる価電子は、この穴にボコっと移動することができます。すると今度は、この価電子が元々いた場所に新しく穴ができます。これが続くと、あたかも穴が共有結合の網に沿って移動するように見えるでしょう。このような穴は「正孔」と呼ばれます。

低温でみた結晶の電気的な様子

 温度が非常に低いときは、価電子が共有結合の網から飛び出すことはなく、おとなしくしています。たとえばシリコン結晶の場合、原子核は+14e [C] で帯電しています。そしてシリコン原子核の近くには10個の内殻電子がおり、これらは-10e [C] の電荷をもっています。更にこの周りには4個の価電子がおり、これらは-4e [C] の電荷をもっています。このように、シリコンが共有結合によって結晶を作っていたとしても、このような電荷のバランスは保たれています。つまりシリコン結晶は、シリコン原子が単体で存在しているときと同様に電気的には中性のはずです。

室温でみた結晶の電気的な様子

 温度が室温程度に高いときは、価電子の一部が共有結合の網から飛び出しています。共有結合の網から飛び出した自由電子は -e [C] の電荷を持ち自由に動き回っています。いっぽうで、この自由電子が飛び出した後に残された正孔の周辺を見ると、電荷のバランスが崩れており +e [C] に帯電しているように見えます。このような穴に隣の価電子が移ると、この +e [C] に帯電した領域は横に移動します。あたかも正孔が +e [C] の電荷をもち自由に動ける粒子のように見えるでしょう。自由電子が生じてできた穴が正孔なので、自由電子の個数と正孔の個数は等しくなるはずですよね。このため、温度が室温程度に高くて自由電子と正孔が自由に動き回っているときでも、半導体結晶を遠目にみると電気的には中性のはずです。

正孔について注意してほしいこと

 正孔は、「+e [C] の電荷をもつ不思議な粒子」などではありません。正孔はあくまで、穴。実在の粒子ではなく、空白です。例えていうなら、水のなかにできた「泡」ですね。泡があたかも粒子のように移動しても、実際には水が移動しているんですよね。そして泡が浮き上がってくるのは、水が落ちていくからですよね。それと同じです。同様に、正孔があたかも粒子のように移動しても、実際には電子が移動しているだけです。