みてわかる電子回路「PN接合に電圧を印加する」

PN接合の両端に電圧が印可されると何が起こるのでしょうか?それを解説していきましょう。
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両端に電圧が印可されていないPN接合

PN接合の両端に電極を接続し、それらを導線で短絡しても、PN接合の様子は一切変化しません。これらの電極間での電位差はゼロであり、したがって電流が生じることもありません。では内部電界による電位差はどこにいったのでしょうか?内部電界があるにもかかわらずN型半導体とP型半導体に接続された金属の間で電位差がゼロとなるのは、すこし変な気がするかもしれませんよね。詳細は省略しますが、実は半導体に金属電極を接合すると、その接合面にも新たに内部電界が自然発生します。そして、このような内部電界は金属/N型半導体間でも金属/P型半導体間でも生じます。これらの金属半導体界面での内部電界がちょうどPN接合に自然発生する内部電界と打ち消しあうため、両端の電極間に電位差が発生することはなく、導線で短絡しても電流は発生しないと考えてよいでしょう。

PN接合に電圧を印可する

では、このPN接合の両端に電圧を印加してみましょう。N型半導体に接続された電極とP型半導体に接続された電極との間に電圧を印加することで、この素子全体に電位差が発生します。詳細は省略しますが、金属とN型(あるいはP型)半導体との接合面に生じる内部電界は、このような外部からの電圧印加によってほとんど変化しません。このため全ての電位差はPN接合の空乏層(したがって内部電界)の変化として現れます。

順方向バイアスでのPN接合

PN接合の両端において、N型半導体に対してP型半導体に正の電圧を印加することを「順方向バイアスをかける」といいます。このとき、外部から印加された電位差は空乏層に集中し、P→Nの向きに新たな電界を生じます。この電界はもともと空乏層に自然発生していたN→P向きの内部電界を弱めることになります。

すると、N型半導体中の自由電子がP型半導体中に拡散しようとする勢いを抑止していた内部電界が弱まるため、その分だけN型半導体中の自由電子がP型半導体中に拡散によって注入されます。同様に、P型半導体中の正孔がN型半導体中に拡散しようとする勢いを抑止していた内部電界が弱まり、その分だけP型半導体中の正孔がN型半導体中に拡散によって注入されます。以上のような自由電子および正孔の移動は電流となって素子外部へと流れだして、結果的に回路全体に電流が生じます。

この時の空乏層の様子はどうなっているでしょうか?順方向バイアスを印加したときは、空乏層の幅はバイアス印加前に比べて減少します。これは、バイアス印加することで内部電界が弱まり、自由電子および正孔が拡散しようとする勢いに負け、それにより自由電子と正孔が「押し込んでくる」からです。

順方向バイアスでの電流

以上のような機序により、PN接合の両端には自由電子および正孔の拡散による電流がP→Nの向きに発生します。このときの電流の外部電圧$${V}$$ [V] に対する依存性は、下のスライド中の式によって与えられます。ただし$${q}$$は素電荷量、 $${k_{\rm{B}}}$$ [J/K] はボルツマン定数、$${T}$$ [K] は絶対温度、そして $${I_{\rm{S}}}$$ [A] は不純物濃度やデバイス断面積などのみによって表される定数です。

逆方向バイアスでのPN接合

PN接合の両端において、N型半導体に対してP型半導体に負の電圧を印加することを「逆方向バイアスを印加する」といいます。このとき、外部から印加された電位差は空乏層に集中し、N→Pの向きに新たな電界を生じます。この電界はもともと空乏層に自然発生していたN→P向きの内部電界を強めることになります。

これにより、N型半導体中の自由電子がP型半導体中に拡散しようとする勢いを抑止していた内部電界がさらに強まり、N型半導体中の自由電子はなおさらP型半導体中に拡散しにくくなります。同様に、P型半導体中の正孔がN型半導体中に拡散しようとする勢いを抑止していた内部電界が強まり、P型半導体中の正孔はなおさらN型半導体中に拡散しにくくなります。このため、自由電子および正孔の流れはなく、回路にはほとんど電流が生じません。

この時の空乏層をみると、逆方向バイアスを印加したときは、空乏層の幅はバイアス印加前に比べて増加します。これは、バイアス印加することで内部電界が強まり、自由電子および正孔が拡散しようとする勢いをさらに抑止し、それにより自由電子と正孔を「押し返す」からです。

以上のような機序により、PN接合の両端には電流がほとんど発生しません。

逆方向バイアスされたPN接合での降伏

ただし、逆方向バイアス電圧がある程度以上に大きくなると、拡散とは全く別の新たな電流が発生します。このような現象はPN接合の「降伏」とよばれ、「アバランシェ降伏」と「ツェナー降伏」の二種類があります。いずれもN→Pの向きに電流が発生し、その電流はある決まった逆方向電圧 $${V_{\rm{BD}}}$$ [V] において急激に発生するのが特徴です。

アバランシェ降伏では、空乏層中にほんの少数存在する自由電子が強力な内部電界で加速されて、雪崩のように新たな自由電子と正孔を次々発生させます。強力な電界で加速された電子が、半導体結晶の共有結合に衝突し、その価電子を自由電子へと変えます(インパクトイオン化)。いわば、加速された電子がもつ運動エネルギーによって、別の価電子を吹き飛ばすようなものですね。新しく生まれた自由電子は内部電界で加速され、新たに別の価電子を自由電子へと変えます。これが雪崩のように起きることで、一気に大量の自由電子がP→Nの向きに流れます。またこれと並行して、自由電子の発生によって残された正孔はN→Pの向きに流れ、電流に寄与します。

ツェナー降伏では、共有結合を形成している価電子が内部電界によって「ちぎりとられる」ことで自由電子となります(注)。このような価電子から自由電子への変化は空乏層内の至る所で発生し、自由電子はP→Nの向きに流れます。これと並行して、残された正孔はN→Pの向きに流れ、電流に寄与します。

(注) 厳密には、価電子がバンドギャップをトンネル効果により通り抜け伝導帯中に出てきて自由電子となります。

PN接合ダイオードの電流電圧特性と空乏層の様子

以上のPN接合の電流電圧特性と空乏層の様子をまとめると図のようになります。なおここでは V > 0 が順方向バイアス、V < 0 が逆方向バイアスを表しています。