みてわかる電子回路「PN接合ダイオード」

ここではPN接合ダイオードの動作原理について説明します。
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まずN型半導体について思い出しておく

N型半導体では、負に帯電し自由に移動できる自由電子と、正に帯電し固定したイオン化不純物原子が含まれています。N型半導体が電子デバイス中で用いられるときは、熱エネルギーによって自然発生する自由電子の数に比べ、非常に多くの不純物原子が導入されます。このため、N型半導体中に存在する自由電子の殆どは不純物原子から与えられたものです。

正孔の数は自由電子の数に比べ無視できるほど小さいため、近似的に、自由電子の数と正に帯電したイオン化不純物原子の数が等しいと考えても差し支えないでしょう。この場合の自由電子のように不純物半導体中で大半の自由粒子を占めているものを「多数キャリア」といい、正孔のように少数の自由粒子であるものを「少数キャリア」といいます。

N型半導体中での主な電流の担い手は、自由に移動できる多数の自由電子です。ここで、イオン化不純物原子は結晶中にガッチリ固定されており移動できないことに注意してください。

そしてP型半導体について思い出しておく

P型半導体では、正に帯電し自由に移動できる正孔と、負に帯電し固定したイオン化不純物原子が含まれています。P型半導体が電子デバイス中で用いられるときは、熱エネルギーによって自然発生する正孔の数に比べ、非常に多くの不純物原子が導入されます。このため、P型半導体中に存在する正孔の殆どは不純物原子から与えられたものです。

自由電子の数は正孔の数に比べ無視できるほど小さいため、近似的に、正孔の数と負に帯電したイオン化不純物原子の数が等しいと考えても差し支えありません。この場合の正孔は多数キャリアであり、自由電子は少数キャリアです。P型半導体中での主な電流の担い手は、自由に移動できる多数の正孔となります。ここでも、イオン化不純物原子は結晶中にガッチリ固定されており移動できません。

さてそれではPN接合とは何か?

PN接合とは、P型半導体とN型半導体の接合部分のことをいいます。半導体結晶は、不純物原子の有無によって真性半導体と不純物半導体に分類されます。さらに不純物半導体は、N型半導体とP型半導体に分類されます。電子デバイス中でこれらがそれぞれ単独で使用されることは稀であり、ほとんどの場合、デバイス構造中にN型半導体とP型半導体の領域が共存しています。これらの接合界面を「PN接合」といいます。

PN接合ダイオードとは何が違うのか?

PN接合ダイオードとは、PN接合の特性を電子デバイスとして応用した「素子」を指す言葉だといえます。PN接合ダイオードは構造的にみると実は単なるPN接合に過ぎず、逆にPN接合があればそれはPN接合ダイオードという「素子」としてみなすことができます。PN接合ダイオードは電子デバイスとして電子回路の機能を実現するために用いられます。

ほぼ同じ構造を応用することで、発光ダイオード(Light Emitting Diode : LED)、フォトディテクタ、太陽光発電素子、など幅広いデバイスが実用化されていますね。

PN接合での粒子の拡散・再結合・濃度勾配

N型半導体とP型半導体を接触させたときを考えてみましょう。N型半導体中には多数の自由電子がありますが、P型半導体中にはごく少数しかいません。この濃度差のため、N型半導体中の自由電子はP型半導体中へ溢れ出します。この現象は電気的な作用で生じるのではなく、粒子が散らかろうとする性質によって生じます。たとえると、満員電車から流れ出てくる乗客や、巣から解き放たれたミツバチ、といったところでしょうか。同様に、P型半導体中には多数の正孔がありますが、N型半導体中にはごく少数しかいません。このためP型半導体中の正孔はN型半導体中に溢れ出します。以上のような現象は「拡散」と呼ばれます。

このようにして拡散した自由電子と正孔は、お互いにクーロン力による引力を及ぼしあい、接近していきます。そして最終的には正孔の穴に自由電子が収まり、自由電子と正孔は消滅してしまいます。このような現象は「再結合」とよばれます。

以上のような自由電子および正孔の拡散と再結合により、PN接合付近でのこれらの粒子の濃度には勾配が生じ、その勾配は時間の経過に従って拡がっていきます。もし仮に単なる粒子の拡散現象のみが生じるのであれば、このような拡散は濃度勾配がなくなるまで終わらないでしょう。しかしPN接合での自由電子および正孔に関しては、この拡散はある程度まで進行すると停止します。その機序を理解するためには、PN接合付近での電気的な様子を見る必要があります。

PN接合での電気的な様子

まずPN接合付近のN型半導体においては、もといた自由電子が拡散によってP型半導体中へ流出し消滅したため、負電荷の総量が減少しています。このため、PN接合付近のN型半導体領域においては、正に帯電したイオン化不純物の電荷が目立ち、全体的に正に帯電しています。いっぽうPN接合付近のP型半導体においては、もといた正孔が拡散によってN型半導体中へ流出し消滅したため、負電荷の総量が減少しています。このため、PN接合付近のP型半導体領域においては、負に帯電したイオン化不純物の電荷が目立ち、全体的に負に帯電しています。

以上のような電気的中性の崩れにより、PN接合に垂直でN→Pを向いた電界が自発的に発生します。この電界は「内部電界」といい、PN接合には常に存在するものです。

内部電解による拡散の停止

自由電子は負に帯電した粒子であるため、内部電界によるクーロン力をP→Nの向きに受けます。つまりN型半導体からP型半導体へ拡散する電子は、拡散するのとは逆向きにクーロン力を受けることになりますね。このような、粒子が拡散しようとする勢いと、電界から引き戻される勢いが釣り合うとき、自由電子の拡散は停止します。

いっぽう正孔は正に帯電した粒子であるため、内部電界によるクーロン力をN→Pの向きに受けます。このためP型半導体からN型半導体へ拡散する正孔は、拡散するのとは逆向きにクーロン力を受けるでしょう。粒子が拡散しようとする勢いと、電界から引き戻される勢いが釣り合うとき、正孔の拡散は停止します。

最終的なPN接合の様子

結局、PN接合では、N型半導体領域での自由電子数が減少しており、正に帯電した不純物イオンがむき出しになっています。また、P型半導体領域での正孔数が減少しており、負に帯電した不純物イオンがむき出しになっています。このように多数キャリアが存在せず不純物イオンがむき出しになっている領域は、キャリアが空っぽで乏しいという意味を込めて「空乏層」と呼ばれます。この空乏層中にはN→Pの向きに内部電界が発生しているため、自由電子および正孔の拡散はちょうどクーロン力による作用と釣り合った状況で停止して落ち着いています。