みてわかる電子回路「オペアンプ」

ここではアナログ回路のいろいろな場面で便利に活用される演算増幅器(オペアンプ)について解説していきましょう。
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オペアンプとは?

演算増幅器(Operational Amplifier: OpAmp, オペアンプ)とは、増幅率が非常に大きい差動増幅回路です。単一の素子を表しているのではなく、トランジスタや抵抗を組み合わせて作られた回路のかたまりを一つのブロックとして下図中の三角形の回路記号で表します。意外と見落としがちなのですが、この回路には暗黙のうちに接地と電源が接続されていることをお忘れなく。

みなさんが多くの場面で目にするオペアンプは2入力1出力ですが、用途によっては2入力2出力のものが用いられることもあります。この講義では1出力のものに限定して解説していきましょう。

オペアンプには二つの入力端子があり、この講義では「プラス入力端子」「マイナス入力端子」と呼ぶこととします。これらの入力電圧 $${ V_{\rm{IN+}} }$$, $${ V_{\rm{IN-}} }$$ と出力電圧 $${ V_{\rm{OUT}} }$$ の間には、図中下部に示されているような数式の関係があり、入力の差が増幅されて出力されるという性質を表しています。ここで $${ V_{\rm{OUT,CM}} }$$ はこのオペアンプ固有の電圧であり、二つの入力端子に等しい電圧が入力したときの出力値だと考えてください。そして $${ A }$$ はこの回路の増幅率で「開ループ利得」などとも呼ばれ、オペアンプでは非常に大きな値であるとされています。

理想的なオペアンプの条件

オペアンプを含む回路を考えるとき、多くの場面では理想的なオペアンプを想定します。ここで理想的なオペアンプとは、次の条件を満たすものです:

(1) 増幅率が無限大: 増幅率 $${ A }$$ が非常に大きくほぼ無限大であると見なせる。
(2) 増幅率が周波数に依存せず常に一定: 差動増幅率が入力端子の電圧信号の周波数に依存しない。
(3) 入力インピーダンスが無限大: 入力端子は絶縁されており電流の流入も流出もない。
(4) 出力インピーダンスがゼロ: 出力端子に大きな電流を出し入れしても出力電圧が変化することはない。
(5) 入力オフセット電圧がゼロ: 入力電圧の差に誤差が含が生じない。

ここからはこのような理想的なオペアンプを含む回路での考え方について学んでいただきたいと思います。

はじめてのオペアンプ回路

オペアンプを含む回路を習得するときの近道は「習うより慣れよう」です。まずはこの例題に取り組んでみてください。

問1では、オペアンプの二つの入力と出力の間に成り立つ関係式に $${ V_{\rm{X}} }$$ と $${ V_{\rm{Y}} }$$ を代入することで、

$${ V_{\rm{Y}} - V_{\rm{OUT,CM}} = A \left( V_{\rm{X}}-V_{\rm{Y}} \right) }$$

という関係式が得られるので、これを $${ V_{\rm{Y}} }$$ について解くと

$${ V_{\rm{Y}} = \frac{A}{1+A}V_{\rm{X}} + \frac{1}{1+A}V_{\rm{OUT,CM}} }$$

との解が得られます。

問2ではこの数式において $${ A }$$ を無限大であるとしたときの近似式を求めればよく、解は下式のようになります:

$${ V_{\rm{Y}} = V_{\rm{X}} }$$

お気づきでしょうか?

Aが非常に大きくなることで、入出力特性の式から $${ A }$$ と $${ V_{\rm{OUT,CM}} }$$ が消え去りましたね。回路全体の性質がオペアンプ固有の定数である $${ A }$$ と $${ V_{\rm{OUT,CM}} }$$ に依存しないということは、オペアンプの製造ばらつきや動作環境の変化に左右されず、常に一定に安定した回路動作が見込めるということです。これは実践において非常に大切なポイントであり、これこそがオペアンプがアナログ電子回路で重宝される一つの理由であるといえるでしょう。

仮想短絡

最後に問3を見てみましょう。この回路では、マイナス入力端子が $${ V_{\rm{Y}} }$$ なので、問2の解を見れば二つの入力端子の電圧が等しくなるのは自明です。

「ふーん。で、それが何なの?」と思ってしまいそうですが、実はオペアンプの中身を考えるとこの結果は必ずしも自明ではありません。なぜなら、オペアンプの二つの入力端子は電圧を感じ取る機能を持っているだけであり、内部で直接接続されているわけでも同電位になるべく設計されているのでもないからです。

ではなぜこのように二つの入力端子の電圧が同じになったかというと、「二つの入力端子の電圧が等しくなるように出力電圧が頑張ったから」です。もう少し厳密に言うと、出力電圧が上昇するとマイナス入力端子の電圧も上昇する、という接続になっており、回路全体が別の記事で解説する「負帰還(ネガティブフィードバック)」によって安定化するため、そのようになります。

ただし、マイナス入力端子に戻っていてもその間に挟まっている回路素子が抵抗やキャパシタのような単純なものでなかったりすると、このような安定化が生じないことがあるので注意が必要です。

さきほど取り組んだ例題では出力とマイナス入力端子が直接接続されており、「負帰還がかかっている」ことと「オペアンプの増幅率 $${ A }$$ が大きい」ということが相まって、その結果として出力電圧が「二つの入力端子の電圧が等しくなるように出力電圧が頑張った」ということになります。

このような現象を「仮想短絡」と呼びます。実際には短絡されていないのに、バーチャル(仮想的)にショート(短絡)されているかのように回路全体がふるまうため、このように呼ばれているのでしょう。この現象は、この例題に限ったことではなく、オペアンプを使用する他の回路でも同様にみられます。

なお、文献により「仮想接地」と表現される場合もありますが、基本的には同じ現象をあらわしています。

仮想短絡でオペアンプ回路を楽に解く

この「仮想短絡」現象が生じることを積極的に利用すると、オペアンプを含む回路の解析がとても簡単にできるようになります。つまり負帰還が成立する回路であれば、仮想短絡が成立することを前提として回路解析を行うことで、計算がグッと楽になるんですね。

それを次の例題を通して体感していただければと思います。

この例題では、出力電圧が抵抗を介してマイナス入力端子に負帰還しています。出力電圧が上昇するとマイナス入力端子の電圧も上昇するので、オペアンプの増幅率=開ループ利得が非常に大きいときには仮想短絡が生じるはずです。

このため、この回路でのマイナス入力端子の電圧は $${ V_{\rm{R}} }$$ となっているはずですよね。すると $${ V_{\rm{X}} }$$ → $${ R_1 }$$ → $${ R_2 }$$ → $${ V_{\rm{Y}} }$$ というラインに沿ってこの回路に流れる電流を考えると、次式が成立します:

$${ \frac{V_{\rm{X}} - V_{\rm{R}}}{R_1} = \frac{V_{\rm{R}} - V_{\rm{Y}}}{R_2} }$$

ただし、オペアンプの入力端子には電流が生じないという理想的なオペアンプの性質を利用しました。

この式を解くと次式が得られます:

$${ V_{\rm{Y}} - V_{\rm{R}} = -\frac{R_2}{R_1}\left(V_{\rm{X}} - V_{\rm{R}} \right) }$$

これは広く「反転増幅回路」として知られる回路です。
なお多くの文献では $${ V_{\rm{R}}=0 }$$ とした解説となっていますが、この講義ではより一般的に $${ V_{\rm{R}} }$$ がゼロではない時にも対応できるようにしました。

そのほかのオペアンプを用いた回路でも、まずは「仮想短絡が成立するかな?」という視点で回路を眺めてください。そしてそれが成立するのであれば、この例題と同じようにしてサッと答えを導き出すことができます。