みてわかる電子回路「CMOSインバータ回路」

ここではCMOS回路の中で最も簡単なCMOSインバータ回路について解説します。
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CMOSインバータ回路とは?

集積回路のなかのNMOSとPMOSは、下図のように同一基板上に共存する形で作製されます。回路中の端子電圧がグランド0Vから電源電圧 $${V_{\rm{DD}}}$$ [V] の間のどの電圧になっても、この集積回路中のPN接合は決して順方向バイアスされてはなりません。でなければPN接合に不要な大電流が生じて回路動作が妨げられるからです。このため、一般的には基板を0Vにしてウェルを電源電圧にしておくことが多いです(例外もありますがここでは触れないでおきましょう)。

さてここで、下図中のNMOSのソースをグランドに接続し、PMOSのソースを電源に接続しておきましょう。そのうえで、NMOSとPMOSのゲートを共通端子として入力に用い、ドレインを共通端子として出力に用いると、「CMOSインバータ」と呼ばれる回路が完成します。

CMOSインバータ回路の動作原理

それではいつものように、このCMOSインバータを、「二つの素子が直列接続された回路全体に直流電圧が印加されたもの」とみなして、その動作をグラフィカルに考えていきましょう。まずこの回路の $${V_{\rm{IN}}}$$ には、NMOSもPMOSも共に電流を生じるような電圧が印加されていたとします。つまり、NMOSとPMOSのしきい値電圧をそれぞれ $${V_{\rm{THN}}}$$、 $${V_{\rm{THP}}}$$ とすると、$${V_{\rm{THN}} < V_{\rm{IN}} < V_{\rm{DD}} - |V_{\rm{THP}}|}$$ のようなある電圧が $${V_{\rm{IN}}}$$ に印加されているという状況です。

ここでNMOSのみを取り出して、仮に $${V_{\rm{OUT}}}$$ が自由に変わってもよかったと考えて、その電流電圧特性を図示します。NMOS にとって $${V_{\rm{OUT}}}$$ はドレインソース間電圧なので、下図中のような静特性の形状が表れるでしょう。

次にPMOSのみを取り出して、仮に $${V_{\rm{OUT}}}$$ が自由に変わってよかったと見なしてその電流電圧特性を図示します。PMOS にとっても $${V_{\rm{OUT}}}$$ はドレインソース間電圧を変えるものなので、下図中のような静特性の形状が表れます。

実際にはNMOSとPMOSは接続されており、端子 $${V_{\rm{OUT}}}$$ では電流が外部に流出することも外部から流入することもないので、NMOSとPMOSに生じる電流量は一致しなければなりません。このような条件は下図中で二つの静特性が交わる交点の白丸で表現され、この交点の電圧が実際に実現する $${V_{\rm{OUT}}}$$ となります。

これら二つの静特性は $${V_{\rm{IN}}}$$ が変化することで上下に移動するので、それに従って交点も移動します。それを追跡すれば、$${V_{\rm{IN}}}$$ と $${V_{\rm{OUT}}}$$ の関係をイメージアップすることができるでしょう。

もし $${V_{\rm{IN}}}$$ が比較的小さいとき、NMOSとPMOSの静特性は下図のようになっているでしょう。このため交点の $${V_{\rm{OUT}}}$$ は高いところにあるはずです。特に$${V_{\rm{IN}} < V_{\rm{THN}}}$$ では $${V_{\rm{OUT}} = V_{\rm{DD}}}$$ となります。

逆に $${V_{\rm{IN}}}$$ が比較的大きいとき、NMOSとPMOSの静特性は下図のようになっているでしょう。このため交点の $${V_{\rm{OUT}}}$$ は低いところにあるはずです。特に$${V_{\rm{IN}} > V_{\rm{DD}} - |V_{\rm{THP}}|}$$ では $${V_{\rm{OUT}} = 0 \rm{V}}$$ となります。

以上から、$${V_{\rm{IN}}}$$ に対する $${V_{\rm{OUT}}}$$ の変化の様子は下図中のグラフのようになります。これがCMOSインバータの入出力特性ということになりますね。

MOSFETでは静特性が数式でばっちり表現されていて、しかも二次関数という計算で取り扱いやすいもので表されているので、この静特性を数式を用いてもっと定量的に計算することも可能です。

この静特性を見ると、$${V_{\rm{IN}}}$$ が高い(High)ときに $${V_{\rm{OUT}}}$$ が低く(Low)、$${V_{\rm{IN}}}$$ が低い(Low)ときに $${V_{\rm{OUT}}}$$ が高く(High)なります。これがちょうどデジタル回路での論理値を High (1) と Low (0) の間で反転させる操作に対応しているので、この回路はインバータ(inverter: 反転するもの)と名付けられています。
この回路ではHighとLowの入れ替わりの瞬間でのみ回路に電流が生じ、それ以外の情報保持中は電流が発生しないため、消費電力が非常に低く理想的なデジタル回路となります。これがCMOS回路が普及した理由の一つだと言われています。

チャネル長変調効果

ところで既に学んだように、NMOS静特性もPMOS静特性も飽和状態ではドレインソース間電圧に依存せず一定の電流が生じるのでした。もしちょうどNMOSとPMOSの静特性の交点が図のように静特性の平らなところで交わったらどうなるんでしょうか?こんな平らな線が2本重なったら、交点がどの辺にあるのかよくわからなくなりませんか?
そうなんです。以前学んだ最も理想的な静特性では、交点が定まらないという問題が生じてしまいます。どうすればいいんでしょうか?

実は、MOSFETの静特性のドレインソース間電圧依存性をもっと厳密に記述すると、飽和状態での数式において下図中の数式に示されたような補正項がかかります。これは「チャネル長変調効果」という現象によって生じるもので、$${\lambda}$$ はその度合いを表すパラメータだと思ってください。

この効果により飽和状態での静特性は下図左側グラフのように少し傾いた形となります。この傾きがNMOSでもPMOSでも生じるので、CMOSインバータでの交点が定まらないということが実際には生じることはありません。