みてわかる電子回路「ツェナーレギュレータ」

ここでは、リニアレギュレータのなかで最も基礎的な回路である「ツェナーレギュレータ」について解説します。
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ツェナーレギュレータはシャントレギュレータの一種

ここからはリニアレギュレータについて基礎的な学習をしますが、まずはその中でもシャントレギュレータから考えていきましょう。

シャントレギュレータのなかで最も単純なものは、下のスライド中の右図のような「ツェナーレギュレータ」と呼ばれるものです。
調整素子としては、ツェナーダイオードと呼ばれる特殊なダイオードが用いられ、それが抵抗 $${R_{\rm{z}}}$$ と接続されています。
ここで負荷抵抗 $${R_{\rm{L}}}$$ は調整素子であるツェナーダイオードと並列に接続されているため、シャントレギュレータに分類される回路構成です。
この回路の入力端子に入った直流電圧を整えて、質の良い直流電圧を負荷抵抗の両端に発生させることができるという回路です。

まずツェナーダイオードについて

さて、このツェナーダイオードとは、下のスライド中の左図のような電流電圧特性($${I_2-V_2}$$)を持つ素子です。回路記号はPN接合ダイオードと似ており、デバイス構造もPN接合ダイオードと大差ありませんが、電流が生じる向きが通常のPN接合ダイオードとは逆向きのように見えますね。

どうなっているのでしょうか??

普通のPN接合ダイオードでは、順バイアス・逆バイアス時に下のスライド右下図のような電流電圧特性($${I_1-V_1}$$)を示します。逆バイアス時には、ある電圧 $${–V_{\rm{z}}}$$ [V] において急激に大きな逆方向電流が生じ、この現象は「降伏」と呼ばれます。
普通のPN接合ダイオードは、通常このような降伏電流が生じない動作範囲で使用します。

一方ツェナーダイオードでは、あえてこの逆方向電流が生じる動作範囲で使用し、その電流電圧特性は下スライド中の左図に示された電流電圧特性$${I_2-V_2}$$ のようになります。
通常のPN接合ダイオードでは、順バイアスで電流が生じるために必要な電圧が0.7V程度(シリコンの場合)と小さいですが、ツェナーダイオードでは比較的大きな電圧(5V前後)が閾値電圧となり、レギュレータの調節素子として使用するのにちょうど良い便利な値であるために使用されます。

ツェナーダイオードは、このような比較的大きな閾値電圧をもつ整流素子として使用されているということですね。

負荷が接続されていない時のツェナーレギュレータの動作

ではまず、ツェナーレギュレータに負荷抵抗が接続されていない(無負荷)とき、入力電圧と入力電流の関係を考えましょう。

出力端子の電圧 $${V_{\rm{OUT}}}$$ [V] が仮に自由に変化できるとしたとき、抵抗 $${R_{\rm{z}}}$$ に生じる電流と $${V_{\rm{OUT}}}$$ の関係は下のスライド中の中央の図に示されたような右下がりの直線関係で表されます。一方、ツェナーダイオードに生じる電流と $${V_{\rm{OUT}}}$$ の関係は、右上がりの指数関数的な関係で表されます。
そして、与えられた電圧 $${V_{\rm{IN}}}$$ [V] においてこの回路で実際に実現する電流 $${I_{\rm{IN}}}$$ および $${V_{\rm{OUT}}}$$ は、これら2本の線の交点で表されます。

この図で $${V_{\rm{IN}}}$$ がゼロから上昇していったときの変化は、その交点の移動の様子を追跡することで知ることができ、 $${I_{\rm{IN}}}$$ および $${V_{\rm{OUT}}}$$ は $${V_{\rm{IN}}}$$ の変化に対してスライド中の右図のように変化していきます。
(この考え方についてはこちらも参考ください)

この中の $${V_{\rm{IN}}-V_{\rm{OUT}}}$$の図を見ると、 $${V_{\rm{IN}}}$$ の変化に対して $${V_{\rm{OUT}}}$$ が一定値($${V_{\rm{Z}}}$$)となる動作領域があります。
このような動作領域では、 $${V_{\rm{IN}}}$$ の変動が生じても $${V_{\rm{OUT}}}$$ が不変ですので、確かに電圧を一定に保つ電源回路としての機能を果たしていますね。

ただし実際にはこの出力電圧を受け取って駆動する回路が負荷として乗ってくるので、このような負荷を含めた解析をしないと、本当のところはまだわかりません。

負荷が接続されている時のツェナーレギュレータの動作

では先ほどの回路に負荷抵抗 $${R_{\rm{L}}}$$が接続されたときの挙動を考察しましょう。
実は、先ほど取り扱った無負荷時のときと同様の考え方をここでも適用することができます。

まず、ツェナーダイオードと負荷抵抗 $${R_{\rm{L}}}$$ が並列接続された回路部分をひとまとまりにして、新たに「素子X」と名付けましょう。

次に、この素子Xの両端に電圧 $${V}$$ が印加されたとき、素子Xに流れる電流 $${I}$$ を考えておきましょう。

ここでツェナーダイオードと負荷抵抗には共通して $${V}$$ が印可され、それぞれには独立した電流が生じます。
これらを $${I_{\rm{Z}}}$$ および $${I_{\rm{L}}}$$ とすると、全体に生じる電流 $${I}$$ はそれぞれの素子に生じる電流の和に等しく、$${I = I_{\rm{z}} + I_{\rm{L}}}$$ となります。
したがって、電圧 $${V}$$ と電流 $${I}$$ の関係は下のスライド中の右図のようになります。つまり、素子Xに印加された電圧が $${V_{\rm{Z}}}$$ に至るまでは抵抗 $${R_{\rm{L}}}$$ のみに電流が生じるため電流は直線的に増加しますが、電圧が $${V_{\rm{Z}}}$$ を超えるとツェナーダイオードに指数関数的に大きな電流が生じるため、素子X 全体に生じる電流量が跳ね上がります。

このような素子Xが抵抗 $${R_{\rm{Z}}}$$ と直列接続されたとき、その間の電圧を $${V_{\rm{OUT}}}$$ とし、回路全体に流れる電流を $${I_{\rm{IN}}}$$ としましょう。
すると、この回路全体において実際に実現する $${V_{\rm{OUT}}}$$ と $${I_{\rm{IN}}}$$ は、無負荷の時と同様の考え方により、下のスライド中の右図の交点で与えられるでしょう。

素子Xの中身を改めて具体的にあらわすと下のスライド中の回路図のようになっています。負荷抵抗に生じる電流を $${I_{\rm{OUT}}}$$ とすると、$${I_{\rm{IN}} = I_{\rm{OUT}} + I_{\rm{Z}}}$$ の関係が成り立ち、これら $${I_{\rm{OUT}}}$$ と $${I_{\rm{Z}}}$$ は、下のスライドの右図中に示された各電流成分に対応しています。

この図をもとにして、$${V_{\rm{IN}}}$$ が変化したときに交点がどのように移動するかを追跡すると、負荷抵抗が受け取る電圧 = ツェナーレギュレータの出力電圧 $${V_{\rm{OUT}}}$$ が、 $${V_{\rm{IN}}}$$ の変化に対してどのように変化するかを追跡することができます。

以上のような考察により、出力電圧 $${V_{\rm{OUT}}}$$ と入力電圧 $${V_{\rm{IN}}}$$ の関係は、下のスライド中の右図のようになります。

この図から、負荷抵抗 $${R_{\rm{L}}}$$ が接続されている時でも、出力電圧 $${V_{\rm{OUT}}}$$ が $${V_{\rm{IN}}}$$ によらず一定となる動作領域があることがわかります。
つまり、このような条件であれば、ツェナーレギュレータが電源回路としてちゃんと機能してくれるということですね。