みてわかる電子回路「ツェナーレギュレータの実用性向上」

ここでは、ツェナーレギュレータをより実用的な回路に改良する方法について解説します。
(ご利用にあたり免責事項をご一読ください)


ツェナーレギュレータの出力電流を向上させるために

ここまでのツェナーレギュレータでは、一定の出力電圧 $${V_{\rm{Z}}}$$ を保っていられる最大電流量 が
$${ I_{\rm{OUT, 0}} = (V_{\rm{IN}} – V_{\rm{Z}})/R_{\rm{Z}} }$$
で与えられ、この電流量を超えて負荷が電流を欲しがると、ツェナーレギュレータは耐え切れず出力電圧が低下してしまいます。

このような出力電圧低下は $${R_{\rm{Z}}}$$ が小さいほど抑制することができますが、あまりに $${R_{\rm{Z}}}$$ が小さいとツェナーダイオードに許容される電流量(定格電流)を超えて電流が生じ素子破壊してしまいます。
このように $${R_{\rm{Z}}}$$ はツェナーダイオードの定格電流による制約をうけ、それにより最大出力電流量 $${ I_{\rm{OUT, 0}} }$$ も制限されます。

それでもこの制限を超えてさらに大きな出力電流を得るためにはどうしたらいいでしょうか?
これを解決する一つの方法は、下のスライド中の図のように、NPN型バイポーラトランジスタ(BJT)を用いることです。

NPN型BJTには、ベース(B)、エミッタ(E)、コレクタ(C)の三端子があり、ベースエミッタ間に電圧を印加してベース電流を発生させると、コレクタエミッタ間に電流が生じます。
このときコレクタやエミッタに生じる電流は、ベースに生じる電流に比べて非常に大きな(100倍ちかい)ものとなります。

このようなBJTの性質を利用すると、ツェナーレギュレータの出力電流を高めることができます。

下のスライド中の右図のように、いままでのツェナーレギュレータでは負荷に直接供給されていた出力電流を、BJTのベース電流として用いることとしましょう。
そして、コレクタエミッタ間電流として大きく増幅された電流を負荷 $${ R_{\rm{L}} }$$ に供給します。
このようにすることで、ツェナーレギュレータからの出力電流 $${ I_{\rm{B}} }$$ がそれほど大きくなくても、負荷に供給される電流 $${ I_{\rm{C}} }$$ は十分に大きなものとなるため、電流出力を大きく高めることができそうです。

このようにBJTを入れた場合、負荷に対して生じる電流を制御する素子は、ツェナーダイオードではなくBJTであると見なされます。
このため、BJTを入れる前のツェナーレギュレータは「シャントレギュレータ」に分類されるものでしたが、今回のようにBJTを入れた時点で「シリーズレギュレータ」とみなされます。
こちらの記事を参考してください)

出力電圧は大丈夫か?

さて、出力電流が増えるのはわかりましたが、電源回路の本来の目的である「出力電圧を一定に保つこと」は満たされているのでしょうか?

ご心配なく。BJTを付加してもちゃんと出力電圧は保たれています。

実はこの回路では、BJTと負荷が「エミッタフォロワ回路」を構成しており、出力電圧が負帰還によってしっかり規定されています。
厳密な議論は省略しますが、下のスライド中の左側のフローチャートを見ると、この回路構成では出力電圧の変動が巡り巡って抑制されていることがわかります。
この負帰還のため、出力電圧は安定した一定値に保たれており、BJTのベース電圧によってしっかりと規定されます。

ところで、BJTが動作するには、ベース電圧、エミッタ電圧、コレクタ電圧の間で次のような関係式が成り立つ必要があります。
(1)$${ V_{\rm{CE}} > V_{\rm{BE}} }$$: コレクタ電圧がベース電圧より高くなければ、エミッタ→ベースと注入され貫通してきた電子を効率的にコレクタ端子に回収できません。
(2)$${ V_{\rm{BE}} > V_{\rm{T}} }$$: そもそもベースエミッタ間のPN接合に電流を発生させるのに十分な順方向バイアスをかけないとベース電流が生じずBJTは作動しません。

ベースエミッタ間は順方向バイアスされたPN接合ダイオードとみなせるので、その電位差がダイオードのしきい値電圧 $${ V_{\rm{T}} }$$ より少しでも大きくなると指数関数的に電流が生じます。
(くわしくはこちらの記事を参考ください)
その電流が負荷抵抗に生じるために負帰還が生じ、結局のところベースエミッタ間電圧はほぼ $${ V_{\rm{T}} }$$ で固定されることになります。
(こちらの記事の回路と同じ原理です)

いま考えている回路においてベース電圧はツェナー電圧 $${ V_{\rm{Z}} }$$ に他ならないので、結果的にこの回路の出力電圧は
$${ V_{\rm{OUT}} = V_{\rm{Z}} – V_{\rm{T}} }$$
と表されます。

オペアンプでさらに性能向上させる

さて、確かにBJTをはさみこむことで出力電流は向上しましたが、出力電圧が $${ V_{\rm{T}} }$$ だけ減少してしまいました。
これを回避したいのであれば、下のスライド中の右図のようにオペアンプを付加することにより、出力電圧を $${ V_{\rm{Z}} }$$ へ回復させることができます。

この回路において、仮に $${ V_{\rm{OUT}} }$$ が少し減少すると、オペアンプのマイナス入力端子の入力が減少し、オペアンプ出力端子の電圧が上昇します。
これは $${ V_{\rm{BE}} }$$ が増加することを意味しますが、これにより $${ I_{\rm{E}} }$$ が増加し、$${ R_{\rm{L}} I_{\rm{E}} }$$ が増加するため、結果的に $${ V_{\rm{OUT}} }$$ が増加します。
このように、この回路でも負帰還により巡り巡って $${ V_{\rm{OUT}} }$$ の変化を抑制し安定化させる効果が働いています。
しかもそこにはオペアンプの大きな増幅率が寄与しているため、今まで以上に強力に出力電圧を一定に保つことができますね。
(オペアンプについてはこちらをご参考ください)

この負帰還により、オペアンプのプラス入力端子とマイナス入力端子の間には仮想短絡が成立し、結果的にこれらの電圧は一致します。
つまり、出力電圧が $${ V_{\rm{OUT}} = V_{\rm{Z}} }$$ に固定されるということになります。

このオペアンプの作用は、「出力電圧(マイナス入力端子の電圧)が $${ V_{\rm{Z}} }$$ (プラス入力端子の電圧)と等しくなるように、オペアンプ出力端子(BJTのベース)の電圧が頑張る」と見ることもできますね。

出力電圧を自在に変化させる

さらに、この回路を下のスライド中の回路図のように工夫すると、出力電圧を回路設計者が自在に変化させることができます。
この回路において $${ R_1 }$$ と $${ R_2 }$$は出力電圧を「感じとる」ためのものであり、出力電圧に応じて二つの抵抗の間の端子電圧が変化します。
これをオペアンプのマイナス入力端子に入れて負帰還をかければ、出力電圧を安定化させることができます。

ここで仮想短絡によりオペアンプのマイナス入力端子の電圧が $${ V_{\rm{Z}} }$$ になることを利用すると、出力電圧は
$${ V_{\rm{OUT}} =\left(  1 + \frac{R_2}{R_1} \right) V_{\rm{Z}} }$$
のように表すことができます。
つまり、回路設計者が $${ R_1 }$$ と $${ R_2 }$$ の比を変えることによって、負荷が受け取る出力電圧を自由に調節できるようになります。

トランジスターとしてMOSFETを用いてもOK

ここまで見てきた電源回路ではBJTを用いていましたが、代わりにMOSFETを用いても、ほぼ同様の働きを実現することができます。

ただ一つだけ注意が必要です。
BJTでは「弱い出力電流をベースに入れることで、より強い出力電流をエミッタから出す」という役割が担われていましたが、NMOSではゲートに電流が生じることがないため、少しだけ考え方が異なります。

NMOSではゲートに電流が生じないので、 $${ R_{\rm{Z}} }$$とツェナーダイオードを直列接続した回路からNMOSのほうに電流が生じることはありません。
むしろ、 $${ R_{\rm{Z}} }$$とツェナーダイオードを直列接続した回路は「基準電圧 $${ V_{\rm{Z}} }$$ を発生させる回路」とみなされます。少し電子回路に慣れた人たちは「バイアス回路」などと呼ぶこともありますね。

NMOSはその「基準電圧」をゲートを通して感じ取り、それに応じた電流をソースドレイン間に発生させる、という仕組みになりますね。

そこから先は、オペアンプがないときもあるときも、基本的にはBJTのときと同じように考えることができます。

実際にはこの他にもNMOSではなくPMOSを用いたものや、バイアス回路部分をMOSFETだけで実現したもの、などさまざまな構成が考えられますが、それらについては実践の中で学習していただければと思います。