一目惚れスピードスター


「小説好きには二種類ある。現実に満足し、空想世界に浸る余裕のある人間と、現実逃避したいだけの人間だ」


「……………えっ?」


「そして、小説嫌いには一種類しかない。現実を無我夢中で生きている人間だ」


「……何を言ってるの?」


「ぼくはね、小説が嫌いなんだよ。小説を読む暇があるなら、新聞に隅々まで目を通し、お気に入りの音楽を聴きながらジムで汗を流し、友人と熱く酒を酌み交わしたあと、愛するきみを抱き締めてゆっくりと眠りたい。そんな生活を死ぬまで続けたいんだ」


「……………………………………………何それ、新手のプロポーズ?」


「そう。電車で隣に座った男からいきなり求愛される小説なんて無いだろ?そういうことさ」


「………へぇ。事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものね。……OK。あたしの負けだわ。役所はちょうど次の駅よ」


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