不屈のデビルキラー

秀俊は10秒おきに左手の腕時計を睨んでいた。


____まだ着かないのか...


針ノムシロ。
頭に浮かんだ言葉を反芻しながら、秀俊は、自身の置かれた現状を恨んだ


____やはり朝のアレがまずかったか…


ドス黒い悪魔がクリーム色の濁流に乗って、現世の門へ着実に近付いているのがわかる。


____だがオレは負けない

歯を食いしばり、両脚に力を込め、秀俊は自らを奮い立たせた。


彼には負けられない理由がある。


もし悪魔の侵入を許せば……

駅前 顔馴染みのコンビニ店員に不審がられ、社運を賭けた大事な打ち合わせには遅刻し、愛する妻には浮気を疑われる

想像するだけで、全身が粟立つ


____そんな思いはゴメンだ


汗が一筋、背中に流れた。



次の瞬間、

『信号待ちのため、一時停車します』

流れるアナウンス。


____今日に限ってクソ野郎が…!


アナウンス通り、止まる車体。お構い無しに、進む悪魔。
車体の揺れが減った分、少しばかりマシか。


『電車動きます』


油断していた前の学生が、よろめいた。
一体何が入っているんだとばかりに巨大なリュックサックが、秀俊の体前面を直撃する。


_____ウッ…!!!??


一瞬、全てを投げ出しても構わないとすら思えるほどの強烈な衝撃が、全身を駆け巡った。


「あ、さーせん」


軽い、チャラい、「ゆとりの権化」とも言うべき学生の謝罪が、逆に秀俊を冷静にさせた。


「あ…あぁ。こ、これくらい大丈夫だよ…」

腹の底から声を振り絞り、自分自身に言い聞かせた。


悪魔は門を激しくノックしている。

どんどんどん!どんどんどん!どんどんどん………!


____________



『次は、梅田〜。終点梅田〜。』


____やっと着いたか…!!


そこからの秀俊は速かった。
ゆとりんのリュックを躱して颯爽と電車を飛び降り、最短ルートで「教会」へと向かう。そして、全く無駄の無い所作で悪魔を適切に浄化した。

その様は、

まさしくデビルキラー。


____・・・!!ふぅ



こうして今日も朝の闘いは終わった。

さぁ、仕事に取り掛かろう。

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