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士心閉店に対する備忘録

先月末に士心閉店のお知らせを発表させて頂いた後、ゆっくりと自分自身を内省し、この10年間の想いの変遷を含め、備忘録としてこの場に残して置きたいと思います。(長文ですので、ご興味のある方だけご覧ください。)

小学校4年生頃から、戦争の無い世界を創るにはどうすれば良いか?という想いを持ち続け、高校時代には「まずは日本から恒久平和地帯となり、国連を超えて地球が一つになっていく必要がある。」と弁論大会で発表し、その想いを元に、英国ブラッドフォード大学平和学部の大学院で「国連の限界と世界連邦政府の可能性」について研究しました。

戦争は違法であり「人を殺してはいけない」といった世界共通の基本的なルールを下に、宗教や文化の違いによる各地の自治を認め、地球環境や地球益を追求する人類や生命を守るための小さな地球政府を創る事。それが僕の初志であります。

その志を実現するために、国連職員になるべきか、政治家になるべきか、様々な道の中から、国益に左右されない民間からの道を選びました。民間企業を立ち上げ、自分自身で平和活動のための資金を捻出し、世界各地に志ある人々が集う拠点を創り、地球政府を創る礎としたい。そんな想いで士心を立ち上げたのです。

2011年東北大震災の後すぐに士心は産まれました。最初の数年間はお客さんも少なく、家賃が20万なのに売上が20万という月もあり、大学生や若者達が無給で士心を支えてくれました。飲食店としてお客様に喜んでもらうというより、志ある人だけ来たらいい!と今より大分尖っていたと思います。しかし、私自身も無給状態が続き、妻も出産後すぐにアルバイトに行ったり、僕は栄養失調で肝臓を壊す等、起業なんてするべきじゃなかったと何度も思いました。

しかしある時、アメリカ人の友人が民泊をしてみたらどうか?と提案してくれ、実験的に挑戦してみたらすぐに地域で一番人気の場になりました。飲食店の士心はこれだけ苦労しているのに、なぜ民泊の方はこんなにすぐうまくいったのか?自分なりに分析してみると、民泊のサイトにはレビューを書く欄があり、そのレビューを見てお客さんがどんどん増えていったのです。では、飲食店でそんなレビューを書くサイトがあるだろうか?と考えた所、Tripadvisorという世界最大の口コミサイトがある事を思い出し、士心もTripadvisorで良い口コミを書いてもらえるよう努力しようと決めたのです。

創業10か月後に、親友であった料理人が士心で出会った女性と結婚して帰省した事もあって、その後長い間まともな料理がお出しできませんでした。一時期は僕が4000円コース等の料理を創っていましたので、今考えるとお客様にまともな料理をお出し出来ずに大変失礼な事をしていたなと思います。その後、Barになったり、持ち込み可能になったり、色々な事を試みましたが、Tripadvisorに注力した頃も、ちゃんとしたお料理を出せていなかったので、料理だけがレビューの足を引っ張っていた状態でした。

そんな時に仲間のご縁で、素晴らしい料理人の女性が入って下さり、また素晴らしいスタッフによる接客等、全てが揃って2016年に京都1位、全国8位にまでなりました。1位になってからは、予約が取れない程人気になり、来店するお客様を何組も断る状態が続きました。お客様の9割近くが外国人旅行客となり、創業当初の常連様も中々入りづらく、僕も皆様とゆっくりとお話が出来る状態ではありませんでした。

軌道に乗るまで約5年もかかってしまったので、僕は次の段階に行くべく、若き店長へ現場を引き継いでもらいました。英語も中国語も堪能で様々な事にチャレンジする素晴らしい店長でしたが、Tripadvisorで全国1位を目指すという彼が立てた目標に、全力集中して欲しいという僕の願いと彼の思いが食い違い、コミュニケーションがうまくいかず、彼も退職する事になりました。

その後僕は再び現場に戻り、料理人やスタッフの数が増えてきた頃に、元アルバイトの子が務めていた金閣寺の近くの町家カフェのオーナーが癌になり、後を引き継いでくれる方を探しているという事で士心に声がかかりました。私自身もいずれ士心を世界各地に創りたいという想いもあり、またオリンピックや大阪万博もあるので、挑戦してみようと思い、引き受ける事に致しました。

金閣寺店と隣接する宿も引き受ける事になり、その年は町内会長や博士論文等を並行していたので、鬱になりそうな程キャパオーバーでした。しかし、金閣寺店も素晴らしい料理と接客のお陰で、トリップアドバイザーで京都市北区1位になり、京都1位も時間の問題という状況でした。ただ、「人に任せる」という事がこれほど難しいと感じた時期はありませんでした。自分自身は「好きにやっていい」と任せられたら凄く嬉しいタイプですが、必ずしも皆がそう思うわけではなく、脳科学的にも多くの日本人は指示された方が脳が好むと言われています。そのため中々スピード感も出せず、開店間もないので資金繰りも大変でしたが、オリンピックまでは何とか踏ん張ろうと思っていました。

一方、この時期に人々の本当の幸せや心の平和とは何かを深く考え、自他を無条件に愛する事が礎であると改めて気づかせて頂けました。夫婦や親子、家族は本来無条件に愛し合える関係を育める場だと思いますが、学校や会社、ビジネスにおいては常に他者との比較と評価に晒されます。私自身も毎日のようにレビューを確認し、スタッフを無意識に評価したり、スタッフから評価されるという条件付きの関係性に違和感を感じ、ビジネスで無条件の愛を育む事はできないかもしれないと限界も感じていました。

幸せとは、本来獲得するものではなく、気づき、感じるものだと思います。自分自身の能力も含め「常に足りない」と思い続ける社会は、幸せを感じにくい社会でもあると思います。自然や健康、家族など、「在る」事が奇跡的に有難いと思える心があれば、人はいつでも幸せを感じられると思います。でも、個人も会社も「もう充分満ち足りている」と思うと中々成長する事は出来ません。そして、成長しても必ずしも幸せになれる訳ではありません。士心自体も、料理・接客・雰囲気全ての面において成長・改善し続けようとしていましたが、士心の元店長が務めていた一流和食店は、誰もが生涯に1度は行きたいと言われるようなお店ですが、内部が人間不信に満ちており、平和とはかけ離れた場であると知った時に、私たちは成長した先に一体何を目指しているのか?分からなくなりました。

もっと美味しく、もっと健康的で、もっと美しく、もっと速く、そういった終わりなき成長ではなく、愚かで、未熟で、醜いものに対しても美を見出し、愛でる心こそが、本当に美しい平和な心のように思います。

改めて「成長」ではなく「調和」を追求するという意識の中、日本人と外国の方々が共生していく環境を整えていきたいと思い、ビーガンやグルテンフリー、ハラルフード等、あらゆる食事制限を超えて共に食卓を囲める和食をベースとした平”和”食という理念を発信していました。

そして、外国人旅行客だらけになった士心を今一度、日本人のお客様と調和・融合し、天変地異が起こったとしても末永く存続できる店にシフトしていこうと思っていた矢先にコロナが発生しました。コロナ発生後は、士心創業当初にお世話になった方々が再び士心を応援して下さり、改めて何よりも大切なのは人のご縁だと痛感しました。応援して下さった皆様、本当にありがとうございました!

同時に、平和学や国際政治学を勉強していた身として、中国で発生したコロナはこれからの世界情勢を一変させ、最悪米中戦争が起きるかもしれないという危機感に襲われました。そして、飲食店、ホテル、アパレル、航空産業、テーマパーク等、ほとんどのサービス業やビジネスが平和でなければ存在できないという事を痛感したのです。士心を守る事も大事だが、それよりも礎である平和を守らないといけない、そう強く感じたのです。

元々世界各地に拠点を創り、地球政府創設のための礎としたい、そして戦争が違法とされる世界を創りたい、そんな想いで士心を立ち上げたのですが、平和でなければ存続できない飲食店である士心を、これからの時代世界各地で作れる状態になるまでに何年もかかるでしょうし、今も世界中の飲食店が閉店の危機に晒されています。

また、コロナが落ち着く頃は各国はかなりの経済的ダメージを受け、世界各国の国民・政府共に反中意識や中国包囲網を創っていく事が予想されます。既にアメリカ、オーストラリア、日本、インドの合同軍事演習が11月に開催されたり、防衛省が次期戦闘機の開発を三菱と正式契約したり、着々と中国を意識した国際的な軍事態勢が整い始めています。

ハーバード大学のグレアムアリソン教授は、過去の覇権国と新興国の戦争を分析し、75%は戦争になると分析しています。イギリスとアメリカの覇権がシフトするときは、英語圏であり同じ文化的土壌である国同士でのパワーシフトでしたが、今回の米中は文化や政治思想等大きな違いがあるため、同氏は今後数十年間の間に米中戦争が起きる可能性は「ある」だけではなく、「非常に高い」と言っています。

私自身は、大学院時代に出会ったエメリーリーブスの「平和の解剖」の中に書いてある「戦争は社会集団、つまり、部族、王朝、教会、都市、民族が無制限の主権を行使した時に常に発生する。これら戦争は、主権的権力が彼らからより大きなより高次の単位に移されたとき終わる。しかし、例え平和がもたらされても、新しい主権国家が更に接触し始めるとまた戦争が始まる。」という言葉に戦争の原因を見出しています。グレアムアリソン教授も平和を維持するヒントとして、「高い権威をもつ存在は、対立解決の助けになる。」「国家より大きな組織に組み込む」事を挙げています。

核爆弾が誕生後、朝鮮戦争、ベトナム戦争、キューバ危機等、核が使われる可能性は何度もありました。キューバ危機の当時の記録を見ると、ワシントンかモスクワに核爆弾が投下されてもおかしくなかった、というエピソードが10個以上は容易に見つかると言われています。

ノーベル平和賞を受賞したICANが進めた核兵器禁止条約が来年1月に発効する予定ですが、大国に対して非力な国際法や条約は有事の際には機能しなくなります。法律は執行力を伴ってやっと意味を成します。ホッブスやカントが言うように「戦争は自然状態」であり、脳科学的にも人間は自分が信じている事や集団を肯定し、内集団バイアスを持って縄張りや対立を産み出してしまいます。それは士心を経営していく中でも沢山見られた現象でした。簡単に「争い」に入ってしまう人間社会においては、平和は創り続けないといけないものだと思います。

実質無法状態である世界が、コロナをきっかけに大きな政治的混乱の時代に入っていく可能性があります。平和だから存続できるビジネスをやり続けるのではなく、平和そのものを守るために今一度初志に立ち還り、地球政府創設のための学びと、行動をしていきたいと思っています。

ただ、人々は中々目の前に脅威や危機感が現れなければ動きません。幕末の志士達は、立ち上がりたくて立ったのではなく、黒船を目の前にし、中国まで分割する欧米諸国による植民地化を恐れ、立たざるを得ない気持ちだったのだと思います。

日本が戦争に巻き込まれ、米中戦争や世界大戦へ至らない事を何よりも願いますが、もしそのような状況になれば、一人の人類として立ち上がざるを得ないと考えています。

それまでは、人間の本当の幸せや豊かさを感じる「自然」と「家族」という原点に寄り添い、無理にビジネスによって人々の必要を増やさず、自他を無条件に愛し、足るを知り、つつましく世界のビジョンや哲学を深めて行こうと思います。二宮尊徳は「経済なき道徳は寝言である」と言いましたが、ガンジーのように経済なき道徳を実践した革命家はいます。

微力で何もできない私ですが、平和への想いを新たに、原点から一歩一歩歩んで参ろうと思います。




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