遅くなるから

「今日は、帰りが遅くなるっと」
　茜はスマホのメッセージアプリを閉じると顔を上げる。
　すっかり暗くなった空を見ていると家が無性に恋しくなる。
　顔を前に戻し帰路を急ごうとするとメッセージアプリに通知があることを知らせる音がなる。
「なんで？」
　葵からだ……なんでって、仕事が立て込んでいて片付けるのに時間がかかったからだ。文面から無表情の葵が浮かんでくる。
　面倒やなぁ……。こういう文を送ってくる時の葵は構ってちゃんモードであり非常に面倒くさい。
「ごめんて」
　逆効果になるがとりあえず謝っておく、なぜウチが謝罪を？　と思わなくもないが、ここは一旦謝罪を挟み相手の出方を見るのが得策だ。
　茜はついでに謝っているスタンプも送る。畳み掛けるような二連続謝罪は茜の得意技だ。
「もう！」
　どうやら今日は大丈夫な日らしい。家に帰ったら頭を撫でてやれば収まるだろう……。そんなことを思いながら再び家を目指して歩き出す。意味は無いがちょっとだけ早足になる。