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柴犬系新入社員

「新入社員に求められることって、元気で、明るくて、前向きで、素直で、それでいてちょっと背伸びしてる、この五つなんだって。俺一個もあてはまんないんだけど…」
この春、社会人になったばかりの友人が嘆く。仕事をはじめてまだ2カ月なのに、「この仕事初めて長いんですか」と訊かれたらしい。彼が実年齢よりも上に見られると憂いているのは今に始まったことではないのだが、私もとうてい人のことは言えない。年相応よりも見た目が落ち着き過ぎている人間にとって、この手の話は非常に深刻だ。

「元気・明るさ・前向き・素直・背伸び。この五つの要素を満たしているのってどんな人だろう?そんな人間いる?」
半ばやけくそになってきたところで、こんな話になった。
「例えばさ、犬だったらどの種類だろう?」

「ゴールデンレトリバーは安定感がありすぎて背伸びっぽさがないし、チワワは新入社員にしてはあざとすぎる。土佐犬ではあまりに体育会系すぎるし、コーギー、ビーグル、スピッツ、近いけどちょっと惜しいかな…」さまざまな犬の種類をあげては、ああでもないこうでもない、と首を傾げる。

そうして我々は一つの結論に行き着いた。

柴犬。

利発だけれど、飼い主には忠実。機敏で、愛くるしさもあり、老若男女問わず人気がある。これこそ我々の目指す理想の新入社員像ではないか。柴犬、すごい。

そこで私は柴犬系女子を目指すことに決めた。これで年上に見られてへこむ人生とはおさらばだ!と思ったのである。そこで別の友人にこの話をしてみた。うんうん、それでね、わたし柴犬系女子を目指そうと思うんだ…意気揚々と柴犬トークを繰り広げる私に、友人はこう告げた。

「まずね、犬が無理だと思うよ。みうちゃんはね、どうみても猫だもん」

ははは。そうか、そもそも犬を目指したのが間違っていたのか。どうりで無茶だと思ったよ。こうして柴犬系女子への挑戦はあっさり幕を閉じたのだった。


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