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旅先案内人

私の特技のひとつに、「道案内」がある。やたら道を訊かれるのだ。あまりに訊かれるので、慣れてしまった。意図せずして、道案内スキルがめきめきとアップしている。

最近一番びっくりしたのは、こちらに越して来たばかりだという同年代の女性に、「友人の誕生日プレゼントを探しているのですが、どこ行けば買えますか?そもそもプレゼント何がいいと思いますか?」という旨の超ざっくりした相談をされたこと。わたし、いつからよろず屋はじめたっけ…と思いつつ、ちょっと面白かったので一緒に首をひねって考えた。ただのおひとよしである。

道を尋ねてくるのは、おじさん、おばさん、が多い。若者はグーグルマップで済ましてしまうのだろう。不自然な場所で不自然な聞き方をしてくるなと思ったらナンパだった、というケースもあったけど、基本的に害を被ることもない。どうせならこの街を好きになって帰って欲しいから、できるかぎり丁寧な説明を心がけている。

すらすら説明できる場所ならいいのだけれど、まれに難しい場所を尋ねられる時がある。説明しきれないときは、「この道をまっすぐ行くと、○○があるので、その近くです。このあたりでもう一度誰かに聞いてみてください」とか、「この方角で合ってますよ。だいたい15分くらいでつくと思います」とか、なるべくシンプルに言う。目的地までの複雑な行き方を事細かに説明することより、確実にポイントに近づけるヒントを出す方が大事なのだ。

最近では、こうなったらギブ!アンド!テイクだ!と思って、旅先で道を訊くようにしている。なかばヤケクソである。ただし、道を訊くのは言い訳に過ぎない。「この辺でちょっと面白いところありませんか」とか、現地の人しか知らないことを教えてもらうのが目的。検索には引っ掛からない素敵な場所がこの世にはたくさんある。グーグル先生は偉大だけど、全知全能の神ではない。彼にも死角はたくさんあるのだ。

余談だが、写真撮影を頼まれることも多い。ある年、クリスマスのバイトあがりにカップルに撮影を頼まれた時は、かなりこたえた。イルミネーションが映えるようアングルを変えて数枚シャッターを切り、「よいクリスマスを」なんて思ってもいないことを言いながら渾身の笑顔でカメラを手渡す。やれやれ、私はいったい何をやってるんだろう。情けなくて、ほろほろ泣けてくる。この先のコンビニで肉まんでも買おう。ちょっと高いやつ。

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