図1

ku・sa・i・ki・re

ニッポンの短い夏は終わった—。あのサムライブルーの色を見るだけでも、ちょっと切ない気持ちになる。ワールドカップで話題になったものは様々あるけれど、椎名林檎氏の「NIPPON」という曲もそのひとつ。耳にしたことがある方も多いだろう。

椎名林檎自体はとても好きなのだけれど、どうしてもこの曲ばかりは引っ掛かって仕方がない。それは恐らく、ある一単語が原因である。


万歳!万歳!日本晴れ 列島草いきれ天晴

乾杯!乾杯!いざ出陣 我ら時代の風雲児


このサビの歌詞、ざっと見て気になる単語はないだろうか。「風雲児」もちゃんと意味を説明しろと言われるとあまり自信はないけれど、目にとまるのは「草いきれ」ではないだろうか。

「草いきれ」とは、夏の強い日差しをうけて、草むらから立ちのぼる、むっとする熱気のこと。この「いきれ」というのは「熱れ」とも書くほか、「息切れ」が語源だとされる説もあるとか。また、似たような語で、熱気にあふれた人混みのむっとする感じのことを「人いきれ」と言ったりもするらしい。

さて、この「草いきれ」という単語。実は、私が超苦手としている言葉なのだ。言葉の意味も理解しているし、現象として思い当たるものもあるのに、どうしても自分のボキャブラリーとして迎え入れることができない。原因はよく分からない。語呂の悪さが気に食わないのか、それとも過去に強烈な因縁でもあるのか。兎にも角にも、こいつと出くわすたんびにそれはそれは変な空気が流れる。「顔は覚えているけど名前を忘れてしまった人にとりあえず挨拶するときの気まずさ」のようなものがあるのだ。いつまで経っても友達になれず、知り合いのまま。絶対嫌われてるんだよ…。

そもそも使用頻度の高い単語ではないので、別に使いこなせなくても支障はない。意味自体を知らない人も多いだろう。川から桃が流れてきた時にしか使わない「どんぶらこ」よりはいくらか汎用性がありそうだが、使えるシュチュエーションも限られている。いいじゃん別に、使えなくたって。

でも、なんとなく悔しい。引き下がってはいけない気がする。この単語を乗り越えられたら、知的生命体としてのレベルがひとつ上がるような気がしてならないのだ。少なくとも、林檎さんはこの単語がしっくりきているはず。なんとしても一段乗り越えて、すっきりこの曲を聴いてやろうではないか。

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