見出し画像

財布を落とした話

若い頃の話。
上京して半年くらい経った頃。

休みの日、一人で出かけた帰りに財布がないことに気づいた。
千葉から東京に向かう電車の中だった。
落としたのか?スられたのか?自分の記憶を辿ってみるがわからない。
切符は買ってある。券売機までは財布を持っていた。
財布の中には4万円、クレジットカードも入っている。
初めて財布を落としたのでパニックになってしまった。
どうしよう。
とりあえず、東京駅の落とし物センターに行き、財布を落としたことを伝えた。

東京駅から家までの電車の中で私は「どうでもよくなっていた」
どうでもよくなりすぎていて、ホントに品のない話なのだが。
座席に足を組んで座り、右手人差し指を鼻の穴に思い切り突っ込んでいた。
古畑任三郎がおでこに人差し指を当てるポーズを取るように。
私は鼻の穴に指を突っ込んだまま「どうでもよくなっていた」
ロダンの考える人のポーズのように。
私は鼻の穴に指を突っ込んだまま「どうでもよくなっていた」
限りなく奥まで突っ込んでいた。
何も考えていなかった。
私はどうでもよくなると、こんな馬鹿なことをしてしまうんだ。と後になって思った。

家の鍵は財布に入れていなかったのでよかった。家に入れた。
銀行やカード会社に連絡をした。

次の日、バイト先の先輩に財布を落とした話をした。
「やっちゃったね。多分出てこないよ。俺だったら届けないもん。」と言われてドン引きした。仕事を教えてくれる良い人と思っていたが、見る目が変わった。

バイトが終わって夕方、落とし物の問い合わせをしたら。
なんと届いていた!やった!
指定された駅で受け取る。届けてくれた人については教えてくれなかった。
お礼がしたかったのに。
券売機のところに置きっぱなしになっていたのを届けてくれたそうだ。
ありがとうございます。心の中で何度も呟いた。
そして、財布を拾ったら絶対に届ける。と心に決めた。
こんなにありがたい気持ちになるのだから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?