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13:ダサかわセーター、さよなら髪。北朝鮮女性たちのおしゃれ(4-5話)

 『愛の不時着』の見どころの一つに、セリと舎宅村の奥様軍団たちのやり取りがあります。交わされる会話や脇役たちの演技が非常に魅力的です。
 さて、それらのシーンに登場した北朝鮮の女性たちの美容やファッションについて見てみましょう。
※この記事は4-5話にまつわる話題を紹介しています。視聴中の方は話数表記を見てネタバレに気を付けてご覧ください。

「あなたと私」化粧品とは?韓国に負けない高品質な北朝鮮コスメ(4話)

 舎宅村の奥様たちと市場に出かけたセリ。そこでこっそりと売られている自社製の化粧品「セリズ・チョイス」を発見します。こうした韓国のコスメと比較して奥様たちにはあまり人気のなかったのが北朝鮮のコスメ「あなたと私」でした。「あなたと私(ノアナ)」とはったいどんな化粧品なのでしょうか? 北朝鮮の化粧品事情と化粧品ビジネスについて解説してみます。

 ノアナ化粧品は1987年に在日朝鮮人企業による出資で設立された「ノアナ美容研究会」の企画・輸出・販売のもと新義州(シンウィジュ)化粧品工場(1945-50年ごろ設立、1962年改築)で生産されています。朝鮮半島の名産である高麗ニンジンのほか、蜜ロウ、ステアリ酸、スクワランの天然成分を配合した高級化粧品で、総連系機関紙である朝鮮新報によると日本での1万人テストをしたところ「60代の肌を40代まで若返らせる」という結果が出たそうです。
 2000年代初頭までは日本でも販売されていましたが、2006年対北朝鮮からの外国為替および外国貿易法に基づいた輸入禁止措置に基づき日本への輸出を停止されました。

 現在の北朝鮮で有名なのは「ポムヒャンギ(春の香り)」(新義州化粧品工場)と「ウナス(銀河水)」(平壌化粧品工場)の2大コスメブランドで、観光客のお土産としても人気です。
 化粧水、乳液、アイクリーム、美顔マスク、香水、石鹸、BBクリーム、日焼け止めクリーム、歯磨き粉などを展開しており、近年では男性用基礎化粧品を、世界的な新型コロナ感染症流行以降は手指消毒ジェルやマスク着用によって荒れた肌を治療する薬用化粧品もリリースされました。
 どちらの工場とも金正日氏、金正恩氏の現地指導を受け設備を刷新し、多くの化学技術系従業員を雇用しています。現在は美容の研究や分析のためのポムヒャンギ化粧品研究所を建設中です。ちなみに「ポムヒャンギ」というブランド名は金正日氏の命名で、「ウナス」のロゴは金正恩氏の筆跡をデザイン化しています。北朝鮮が輸出産業として化粧品産業をどれだけ重要視しているか、また人々の政権への満足度を高めるために化粧品産業に投資しているかがうかがい知れます。
 製品はすべてISO9001やISO14001認証、その他国内規格を合格した工場でのみ生産されており、中国、インドネシア、ロシア、スイスなどに輸出をしています。その他にも「ミレ(未来)」「ナリ(百合)」などのブランド化粧品が製造されています。
 北朝鮮でも美白とアンチエイジングは多くの女性の憧れであり、「トウモロコシ粥をすすってでも良い化粧品を買え」と言われているそうです。日本で言うところの「もやし生活をしてでも…」と言ったところでしょうか。筆者は訪朝時に化粧品を北京のホテルに忘れてしまい慌てて「ポムヒャンギ」を購入しましたが保湿性が大変高くアトピー肌でもトラブルなく使えました。このように決して品質が劣っているわけではない北朝鮮コスメですが、奥様たちの評判はいまひとつ。舶来物が良く見えるのはどこの国の人々も似ているのかもしれません。
 「あなたと私」化粧品は韓国語読みでは「ノワナ」となりますが、ここでは日本で販売時の登録商標「ノアナ」と表記しました。

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北朝鮮の化粧品(美顔マスク、乳液、クリーム、石鹸、香水)と、1980年代のレトロなヘアメイク本

ドラマ中のダサかわいい北朝鮮の手編みセーターは、本当にあるの?(4話)

 北朝鮮の舎宅村でセリや奥さんたちが着ていた、野暮ったいのに色使いがかわいらしいセーター、なんとなく気になりますよね。北朝鮮の田舎で実際にあんなセーターが着られているのでしょうか?
 その前に、ちょっと北朝鮮のファッション事情に触れておきましょう。

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