🎭小説家のデッサン : 三島由紀夫 二元物語 23、コメディ・ジャポネーズ　“蜥蜴どもの晩餐”⑦

23、コメディ・ジャポネーズ　“蜥蜴どもの晩餐”⑦

三島：いい飲みっぷりだ！おい！もう一つ持って来い！

戸陰：先生…勘弁して下さい（狼狽）

三島：何？俺の酒が飲めないってのか？（ニヤッと）

戸陰：…頂きます

三島：アッハッハッハッハッハッハッハッハッ！

（男、まず三島にマティーニを。次、戸陰に）

三島：ハッハッハッ、なあ戸陰よ！（マティーニのグラスに口をつけ）

戸陰：はっ？はい！

三島：見てみろ！さっきの若僧を！

戸陰：はぁ

（三島、固まった若者に近づき）

三島：おい！これは、誰かに似てると思わないか⁈

戸陰：誰か？誰か…

戸陰、独白：まずいな、何か答えねば…また先生に不快な思いをさせてしまう。しかし、誰か？誰か…寺山修司？いや…野坂昭如？違うな…誰だろう？丸山明宏？うーん…

三島：ハッハ、考えるな、戸陰よ。そんなに考えるな。パッと思った事言えばいいんだ！

（三島、固まった若者の顔を小さく右、左と動かす）

戸陰：ハハハ、先生！駄目です！降参です！

戸陰、独白：何だろう？俺。初めて笑えたぞ…

（三島、戸陰を見るそして）

三島：ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ！

（三島、グラスを傍らのテーブルに置き、煙草を出す）

三島：戸陰よ、正解はな

（三島、煙草に火を点ける）

三島：これは俺だ

戸陰：は⁈

（三島、フフフと含み笑い）

三島：判らん奴だ！これは俺だと言っている！

ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ

戸陰：先生、仰っている意味が…

三島：馬鹿野郎！判らん奴だ！これは俺だと言っている！ならばこれは俺なんだ！何故それが判らない⁈（口から煙を吐きながら）

戸陰：はあ

戸陰、独白：まるっきり解らん。どういう意味だ？しかし…これが、“大作家”先生なのかもな…何だか出鱈目で奇妙で、そして…

戸陰：先生！出鱈目だ！そして奇妙だ！そして…

（すると三島、口角を右上に少し上げてニヤリ。目も右上に）

戸陰、独白：えっ？お茶目？