抗SARS-CoV-2剤:ゾコーバ(エンシトレルビル)
3番目の経口新型コロナウイルス治療薬
塩野義製薬が開発したSARS-CoV-2 つまり 新型コロナウイルスの3CLプロテアーゼ阻害剤です。作用機序はパキロビッドのニルマトレルビルと同じですね。
今回は、「医薬品医療機器等法第14 条の2の2に基づく緊急承認」です。
この条項が適応されるのは初めてです。
緊急承認と特例承認
新型コロナウイルス感染症に用いられる現行の抗ウイルス薬は「特例承認」の枠組みで運用されています。
これまでは有効性の「確認」が必須でしたが、緊急承認では有効性の「推定」が条件となります。
有効性の「推定」とは何かいいますと、
具体的には、治療薬において「探索的な臨床試験(後期第Ⅱ相試験)で有効性が認められれば承認可能。」とされています。
有効性と安全性
さて、前置きが長くなりそうなので本題に入ります。
この薬の扱い難さは 2つ あります。
それは、医薬品としての背景 と 政治的な背景 です。
医薬品としての背景
まず有効性ですが、臨床試験で明らかになったのは、
SARS-Cov-2の陽性が確定した
重症化リスクのない
有症状で軽症~中等症Ⅰ
が
発症から72時間以内に本剤を服用すると、
「有症状期間を8日間 → 7日間に短縮」
といったものでした。
症状とは下記5つを指します。
倦怠感又は疲労感
熱っぽさ又は発熱
鼻水又は鼻づまり
喉の痛み
咳
ワクチン接種率が高く、オミクロン型が流行の主体となった現時点で、
もともと重症化率や死亡率が相対的に低い層に対して「臨床的」な有意差を出すのは難しいでしょう。
今後、症例数を無駄に大きくすることで、「統計的」な有意差を出すことは可能かもしれません。
加えて安全性です。取り上げるべきは薬物相互作用と催奇形性でしょうか。
薬物相互作用はパキロビッドと類似しており、同様のフレームワークで扱うことになります。現場的には業務負荷が重たく、その結果、ハイリスク層の重症化率と死亡率を低下させる効果が確認されているパキロビッドを、十分使用できない状況に陥っています。先日の審議会では、まずパキロビッドについて、もう少し融通の利いた運用を許可すべきと指摘されていました。
そして、個人的に最も憂慮しているのが催奇形性です。
ゾコーバのメインターゲットは低リスクの若年層です。
この催奇形性に配慮が必要な閉経前の女性が含まれます。
ラゲブリオ(モルヌピラビル)も催奇形性を指摘されていますが、
こちらは、高齢者を主体としたハイリスク層がメインターゲットです。
医療従事者は閉経前の女性に医薬品の適応を考える際、必ず妊娠されている可能性を考慮します。
それは、過去の反省に基づいたものです。
上記は、特に薬学を学ぶ過程で、一度は必ず耳にする歴史です。
催奇形性が問題になる薬が全てダメなのかというと、そういったことではありません。本剤についても妊娠有無の確認や服用終了後、14日間避妊することが服用する際の条件として設けられています。
ただ、リンク先のPDFにも記載されていますが、妊娠初期の妊婦では、妊娠検査で陰性を示す場合があります。つまり、目の前の女性が確実に妊娠してしていないことを確認するのは、意外と難しいのです。
COVID19感染症に対する治療として、妊娠されている可能性がある女性に催奇形性を懸念するゾコーバを用いても、期待される効果が「有症状期間を8日間 → 7日間に短縮」ではリスク・ベネフィットのバランスが非常に悪いと考えます。
政治的な背景
あまり、陰謀論のような過度に傾斜のかかった内容は書きたくないのですが、塩野義製薬、日本感染症学会、行政が足並みを揃えて本剤の使用を推進するような動きを見せています。2022/11/22の審議会で本剤が緊急承認されると同時に、上記3者はそれぞれ情報を開示しました。
日本感染症学会
COVID-19 に対する薬物治療の考え方 第 15 版
厚労省
新型コロナウイルス感染症における経口抗ウイルス薬(ゾコーバ錠 125mg)の 医療機関及び薬局への配分について
その他、ごく一部の政治家さんや報道機関が一般の方々をミスリードさせかねないメッセージを発信するなど、少々看過できない事態になっています。
公人や公的機関がこのようなデリケートな情報を発信するのであれば、もう少し”ニュートラルポジション”を意識すべきと考えますがいかがでしょう?
雑感
思うままに書きましたが、
この薬の適応は
SARS-Cov2陽性確定
有症状で軽症~中等症Ⅰ
重症化リスクなし
発症から72時間以内
閉経前の女性は妊娠の有無確認か、いっそのこと処方対象除外
腎機能 eGFR>30mL/min/1.73m2
肝機能正常
併用薬問題なし
期待される臨床効果が「重症化率、死亡率の低下ではなく、有症状期間を8日間 → 7日間に短縮」であることを理解している
処方に際してハードルが高い割に、有効性は限定的です。
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