静注用 高用量鉄欠乏性貧血治療剤
高用量の静注用鉄剤
フェインジェクト静注500mg:カルボキシマルトース第二鉄
モノヴァー静注500mg , 1000mg:デルイソマルトース第二鉄
鉄欠乏貧血治療の第一選択は、経口鉄剤の内服です。
従って、静注用鉄剤の適応は嚥下機能障害や副作用で経口鉄剤の服用が困難 もしくは緊急対応が必要な症例です。
ひと昔前まで静注鉄剤は 含糖酸化鉄 の フェジン静注40mg のみであったため、必要量の補充には複数回の静注が必要でした。
2020年に 高用量の鉄を含有する フェインジェクト静注500mg が登場したことで、利便性が大きく向上しています。
過敏症
静注鉄剤の歴史はアナフィラキシーの発症リスクとの闘いです。
Risks for Anaphylaxis With Intravenous Iron Formulations : A Retrospective Cohort Study
上記によると、スクロール鉄であるフェジン静注と比較して、デキストラン鉄によるアナフィラキシー発症のオッズ比は 8.3(95%CI, 3.5~19.8 ) です。
現在、デキストラン鉄の製剤は市場から撤退しています。
アナフィラキシーの発症率を高める機序は不明ですが、担体の差異が影響しているのでしょうか。
少なくとも、高用量製剤でも安全性において フェジン静注 と同等以上であることが求められます。
Abstract に明確な数字は記載されていませんが、カルボキシマルトース第二鉄 である フェインジェクト静注 は、スクロール鉄と同等以上の安全性が示唆されたようです。
デルイソマルトース第二鉄 である モノヴァー静注 は 1000 ㎎ の製剤が用意されており、より投与回数の削減を図れる可能性があります。
一方で、安全性は フェジン静注 もしくは フェインジェクト静注 と同等以上である必要があります。
今後、直接比較可能なデータがでることを期待します。
鉄過剰症
生体内の鉄が過剰となる病態であり、肝臓、心臓、膵臓などに鉄(ヘモジデリン)が沈着し、その結果、臓器障害(肝硬変、心不全、糖尿病など)を引き起こします。
総投与量の目安は Hb と 体重 で算出されるので、
計画的な投与スケジュールを立ててから治療を開始する必要があります。
フェインジェクト静注 過量投与防止についての適正使用のお知らせ
低リン血症
鉄剤の投与に伴って、血中の線維芽細胞増殖因子23(FGF23)が一過性に増加します。その結果、近位尿細管でのリン再吸収が抑制され、低リン血症が生じると考えられています。
投与終了後、血中リン減少は速やかに改善されますが、漫然と投与を継続することで血中リン減少が長期化すると、二次性の骨軟化症に至ることが想定されます。
モノヴァー静注 の RMP に面白い記載を見つけました。
これだけ見ると、低リン血症の発症頻度は圧倒的に モノヴァー静注 で少ないようです。これも機序は不明です。
雑感
外来でも短期間で投与を終えられるのはメリットですね。
アナフィラキシー や インフュージョンリアクション に備えて周知と準備は必要です。
あとは、カルボキシマルトース第二鉄 と デルイソマルトース第二鉄 の間で、低リン血症の発症頻度に大きな差がありそうなのは気になるところです。
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