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Se eu fosse um trapaceiro

   持っていく筆箱は何にしようか。
   多分革製でわざわざ紐で括って閉じるやつ、気に入ってるけど使い難くて普段使ってないけど昔革の財布を部屋に置きっ放しにしていたらカビが生えてしまったことがあったから一年放っておくのも不安だし持っていこうか。
それともやはり普段使ってるスヌーピーのブリキのやつにしようか、物珍しくてウケるかも知れないしウケないかも知れない。

 飛行機に乗ってるだけでリスボンに着いた、すげー!!
一行目は出発当日、離陸五時間前になってもバックパックに荷物を何も入れていなくて、にも拘らず持ってく筆箱の種類やボールペンはできるだけインクの多いものにすべきだなとか考えてた時に余りにも馬鹿馬鹿しくなってリスボンに着いて更新するnoteの一発目はこの書き出しから始めようとわざわざメモしといたものです。ちゃんと書いたぜ。
   リスボン、今リスボンに居るんですよ。
ワーキングホリデーで誕生日を迎える前日に着くようにチケットを買って、
苦手な書類集めも頑張ってビザも下ろしてもらって、
そしてめでたく誕生日をリスボンの地で迎えることができました。
YouTubeで米津玄師聴いててもポルトガル語のCMが挟まる。
当たり前だけどすごい、そして全然わからん。
これが一年経ったらポルトガル語でnote更新できるようになってたいもんですが、どうなるやら。頑張ります。


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 午後九時四〇分成田空港発のターキッシュ・エアラインズの便に乗ると隣席はツアーでトルコに向かう中年女性だった。年の頃は六〇代半ばといったところだろうか。いいわねえ、若いから。彼女を追っ掛けて行くの? だったらロマンチックよねえ。
 遠慮のない口振りは好みの分かれるところだろう。その口調が自分に向けられる分には構わないが、客室乗務員の女性が食事を運びに来た際に「早くワインちょうだいよ、飲み物なくちゃ食べれないわよ。手際が悪いことねえ、顔は綺麗なのに」と、こちらが「ちょっと待ってくださいって言ってますよ、手順があるんでしょう」と何度言っても執拗に催促していたのには辟易してしまった。
 トランジットで着いたイスタンブールのアタテュルク国際空港で、手荷物検査の列に並ぶと「マジンガーZ」の頭部とロゴが全面にプリントされたTシャツを着た白人男性を見掛け、「I'm a Japanese, so your T-shirt is so funny to me. Can I take your photo?」と声を掛けた。
 手荷物検査をパスし、先に検査を終えていた彼に再び声を掛け、乗り換えの飛行機が発つまでの数時間を一緒にベンチで過ごした。
 彼はアルゼンチンから日本にワーキングホリデーで来ていたそうだ。アルゼンチン人はみんなマジンガーZが好きだと言っていた。スーツケースからは永井豪の『デビルマン』が全話一冊に纏まった分厚い漫画本を取り出して見せてくれた。それは僕も一番好きな漫画だよ、と答える。
 暫く話した後、彼はトイレに行くと言うからベンチで荷物を見ていることにした。戻ってきて、「まだ暫くここに居るか」と問われたので居るよ、と答えると「仕事がある」と言って彼は煙草を一本取り出して見せた。それで、またしても彼が戻るまでの間ベンチに座って考えていた。
 もしも俺が詐欺師だったら、彼はどうするつもりなんだろう?
 俺は詐欺師ではない。そのことを俺は知っているけれど、彼は知らない。彼がトイレや煙草を吸いに行っている間に、俺は置き去りにされた彼のスーツケースやハンドバッグもろとも姿を消すことだってできる。俺がそれをしないということを俺は知っているけれど、彼は知らない筈だ。わざわざそんなことを言って警戒させても仕方がないので黙っていたけれど、逆に自分が彼の立場だったらどうしただろう。初めて一人旅に出たベトナムでは空港から市内までガソリン代5ドルでいいと声を掛けられるままに現地人の車に乗ってしまい日本円で一万円ほどをぼったくられた。香港では野宿をしている間にパスポート含む荷物の一式を奪い取られ、領事館と航空会社に泣きついてチケットを変更してもらい渡航許可証で帰ってきた。インドでは鉄道の乗り換えに迷っていると職員らしき男に腕を掴まれ列を無理矢理割り込ませてもらって車内の椅子に座らされた、と思いきや金を要求され、断ると降ろされるかも知れないと思い渋々払った。流石に場数も踏んだし今更騙されないだろうと高を括った六年前のヨーロッパ旅行ではロンドンに着くなり恰幅の良い陽気な白人男性に「道案内をしてやる」と言われるまま鉄道で街まで移動し、案の定「チップ」を要求された。その後に行ったタイでは道を歩いていると「親戚の娘が日本の大学に行ってるのよ」と声を掛けて来た中年女性が話をしたいと言うので部屋まで着いて行くと四人程の男女に囲まれる中で何かの賭け事を強いられそうになったが、「金がない」の一点張りで出されたジュースにも口を付けなかったら向こうが根負けをしたのか特に何事もなく帰された。
 こうして見ると、よくもまあ大事にならずに生きてこれたものだと我ながら感心する。見ての通りカモとしては申し分のない素質をどうやら備えているらしいので、ここまで生きられたのは俺のセンスが良かったということではなく、単に運が良かったということだろう。マジンガーZの彼も俺と出会えて運が良かったのだ。そう思うことにした。

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