助けて下さい

昔見た映画の一シーンが不意に頭の中で再生されることがたまにあって、たいていの場合その映画の題名くらいは覚えているし、思い出せなくてもすぐにどうでもよくなるのだが、今回はかなり長いこと気になり続けている。題名はおろか俳優の名前も公開された年も、自分がいつどこで見たかもまったく覚えていない。全体のあらすじも分からない。覚えているのは本当にその場面だけだ。以下になるべく詳しく書こうと思うが、もしこれで何か思い出した方がおられたら、どんなささいな情報でもかまわないのでどうか教えて欲しい。

おそらく西部劇だ。三人くらいのぼろを着た男たちが焚火の前で酒を飲んでいる。みんな相当酔っていて、そのうち通りすがりの若い女をつかまえて脅し始める。女はろれつが回っておらず、酔っているかラリっているか分からないが、男たちが大した武器をもっていないのにすごすごと連れてこられる。女の顔がアップになるが、爬虫類に似ている。痩せすぎていてスタイルも良いようには見えない。

男のひとりが「オッパイをみせろ！」と叫ぶ。女は嫌々従おうとするが、動作が遅いので男がじれて、無理やり彼女の服を胸までまくりあげる。ねずみ色に近い小汚い下着をつけていて何が見えるわけでもなかったと思うのだが、男たちは奇声をあげて喜び、「オッパイ・ダンスをやれ！」と叫ぶ。意味が分からないと思うが字幕には確かにそう書いてあった。女は服の裾を両手で持ち上げた恰好のままヒザを曲げて上半身を左右に振り、ヘニョヘニョ踊り始める。女が泣きだし、男たちが歓声を上げる。このとき女の泣き顔と男たちの満面の笑みのアップがひとりずつ交互に映しだされて悪夢みたいだった。

その直後「何をしている」と言いつつポンチョを着た正義のガンマンが登場し、男たちの前に仁王立ちになる。正義の味方はクリント・イーストウッドに似た表情をつくっているが、どことなく皮膚がたるんでいて別人だと分かる。彼はさっき「オッパイをみせろ！」と叫んだ男にでかい銃を突きつけ、「やれ。オッパイ・ダンスだ。やってみせろ」と命じる。男がぶるぶる震えながら服の裾をまくり、垢じみたシャツの間から乳首をチラチラのぞかせながらヒザを曲げて踊り始め、正義の味方はそれをしばらく見ているが、いきなり彼の乳首を撃って殺す。女がけたたましい悲鳴をあげ、また彼女の顔がアップになる。

記憶はここまでで途切れている。かなりひどい映画だというのはお分かり頂けたことと思う。こんなのを折にふれて思い出してしまう苦しみもいくらかは伝わっただろう。私はただ誰かと地獄を共有したかっただけかもしれない、と書き終えた今は思う。

それでもいちおう情報は待っています。あまり期待はしていません。