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”何でもできる神ゲー”を初めて遊んだ時の話

「なあなあ、バイス何とかってゲームしっとる?何でもできるんや!!!!」

『何でもって何が?』

「人殺したり、車盗める!」

『え?』

 中学生の自分には”バイス何とか”というタイトルから、何も想像できなかった。後に「Grand Theft Auto:Vice City」というタイトルである事を知るが、それでもどんなゲームか想像はつかないだろう。

 「”何でもできる”とは果たして何なのだろうか?自転車で走る?剣でモンスターを倒す?はたまたロボットを操作して敵を撃つ?それともモンスターを集めて友達とバトルする事か?人を殺すってなんだ、そんなゲーム存在するのか?少なくともおもちゃ屋さんでは見たことも聞いたことも無いが??????」

 頭の中はこんな疑問でいっぱいだった。ポケモンやメダロットでゲームの何たるかを学んできたが、”バイス何とか”はそのどれにも当てはまりそうにはなかった。どのゲームも当たり前の倫理性を説いていて、”ひとのものをとったら どろぼう”だとか、”メダロットで悪事を働くのは良くない”など。他のゲームも色々やったが、盗みや殺しを大っぴらに勧めるような物は無かった。やがて、自分の想像を超えたそれは1つ上の、仲のよかった先輩によって、どんなものなのかすぐに思い知る事となる。

 学校が終わり、先輩の家に行き”バイス何とか”をやる事となった。ここで、ようやくPS2のゲームである事が分かった。つまりは、ゲーム機を持っているので自分も遊ぶ事が出来る。次に電源をオンする。ブラウン管に立ち上がるロード画面は、強烈な違和感の塊だった。スタート画面はアメリカの古いドラマのようだった。ロード画面には銃を持った暑苦しいオッサンたちやビキニのネーチャンの濃い画が次々と流れている。ファンタジー世界でも無く、2Dや3Dの可愛げのあるデフォルメされたキャラクターでも、カッコいい歴戦の戦士でも無く、犯罪者と思しきオッサンたちである。流れる英語は何を意味するのか分からない、Vice Cityというのだけは分かった。シムシティの親戚か?

 セーブデータを読み終わり、部屋らしき所でゲームは始まる。どうも主人公はパッケージのオッサンらしい。ガニ股じみた走りで光るオブジェを抜けると短いロードを挟み、3Dで描かれた異国の風景を映し出した。空は青く、人々や車が行き交っている開放的な、南国風味の町だ。半袖の人、ビキニの人、いかにもなコップやギャングたち・・・

 バーチャル異国情緒に浸っていると突然、先輩が叫んだ。

「オラッ!死ねや!!!!!!」

 ブラウン管の中のオッサンは筒のような物を抱え往来へと狙いを定める。放たれるロケット。爆発炎上する車。阿鼻叫喚。さっきまで行き交っていた人達は死体に変わっていた。

「ウヒャハハハハハハハ!!!!!」

 武器が弾切れしたらしく、次はライフルに持ち変える。画面の隅に星が1つ、2つと増え、警官の群れがやってきた。狙いを定めて撃ちまくると、警察はタダのゴミとなった。異国はもはや戦場だ。

「ヤベえ!逃げるか!」

 その辺を走っていた車から持ち主を引きずり下ろし、車を強奪して逃げる、ひたすら追ってくる警官を、道行く人々を轢き逃げながら撒こうとする。ここで先輩がコントローラーをカチャカチャと動かすと、星が消え、追っていた警察が去っていった。

 「ホラ、やってみ」

 僕はコントローラを受け取ると、慣れない手つきでオッサンを操作する。マップは、自分がやってきたゲームでは世界が階層化されていて一つの場所というよりも沢山の部屋に分かれた家のような感じだったが、このゲームの場合は一つの街を丸ごと再現している。また、街を歩くNPCは重要な事も大して重要な会話をするわけでも無く、歩いたり走ったり、他のNPCと会話したり車を運転していて、徹底的に街の背景の一部となっている。その背景としての人の関係性が、返ってリアリズムを与えている。移動手段を様々な物から選べるのも斬新だった。車、バイク、ヘリ、戦車など、どれに乗ろうが自由。それで行けない場所はマップにはほとんど無い。(この辺に関しては、既にある程度進行している状態でやった為選択できたが、最初からやるとマップはいくつか閉鎖されているし、乗り物も乗れないものがある。)ゲームの目的ともいえるミッションも、選択をしなければ街をぶらつこうが自由。ただ、犯罪行為(盗む、撃つなど)を行うと警察が追ってくる。

 遊んでいるときは夢中になっていた。まるでアリの巣に水を注ぐかの如く、日ごろの鬱憤を弾丸という形で通行人に浴びせていく。手配度が増えて面倒になったら塗装屋に入って車を塗り直したりチートで消せばいい。もちろん、そんな事をしなくても車やバイクやヘリで観光をしたり、駆け出しのギャングになりきってミッションを堪能するのもいい。個人的には、レゴを使ってのごっこ遊びに近いような感覚を感じたが、他にそんなゲームは今まで知らなかった。

 一通り遊んだ後、なんとしてでもこのゲームを手に入れるという意志を固めた僕は、次の日には早速、近所のゲーム屋へ向かっていた。

 

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