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10月の短歌、22首。

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ねえ君が見えてるとでも思ってる?気泡ばかりを伴い遊泳

「来世にはクラゲになりたいって言ったじゃん、(ほんとは何にもなりたくなくて)」

「何か言うことあるだろう?」「ないよ、ただ君が聞きたい言(こと)があるだけ」

展翅した蝶々を移す空棺/もう朝焼けに怯えずおやすみ

答えなら決まっていても遮断桿が煩くて言うきっかけがない

35度3分くらいの熱をもち深夜の底でまどろんでいる

目が覚めて視界の先に君がいて朝の訪れに息を吐くのだ

深夜には言いたいことが多すぎて両手の中の銀河を飲み干す

何もかも忘れてひとり書架の海に沈んでくから探さないでいて

鍵盤がひたすら愛を叫ぶから五線譜だけじゃ足りないみたい

台本にないことなんて分かってるけれど嵐のなか飛び出した

きっとそれだけが真実/泣きながら眠る鏡のアリスに捧ぐ

懐かしい話をしようそこの棚から気に入ったカップを出して

まだそこに夏の残滓があるとしてその総量をgで示せ

君の声が思い出せない春先の嵐に全部上書きされて

繋いでた手と手を離すようにいま秋の終わりを予感している

春が来るまで君のこと忘れるよ悔しかったら夢に出てきて

一人ひとつ、ペーパーナイフを携えて素知らぬ顔で明日へと向かう

目覚ましが鳴らない朝の浮遊感、眼裏の白ばかりを思う

浴槽に銀河をためて漕ぎだせばどんな今までよりも幸福

シロフォンを鳴らすみたいに朝が来てほんの少しで良いから跳ねて

砂時計を返すみたいに三曲のループのなかに囚われていく


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