0406 短歌


2018年3月に詠んだ短歌、33首。1か月に詠んだ量としては最高かもしれません。以下、順番はあまり考えず放り込みます。


2018.3


「死にたくない」が「生きたい」にならなくてスペースキーをまた連打する

Once upon a timeで始めようきっとever afterで終わらせるから

立ち尽くす頰を伝わる雨粒が煩わしいのに拭えないまま

透過してゼロに近づく雨傘に包まれたまま視界を閉ざす

真っ白な翼を持っていたそれは無垢と言うより臆病のため

(泣かないで/忘れたいだろう僕のこと/泣き枯れる前にどうか忘れて)

君のことなんて忘れた輪郭もやさしい声も忘れた全部、

こんなにも空が広くて飛び回る場所が広いと言うより竦む

夢うつつ扉の開く音がして真白きそれを私はくぐる

吐く息が白く染まった陸橋を越えて河川をどこまでも行け

朝焼けが瞼の裏を染めていく目を開けずとも今日が明るい/お題:朝焼け

一礼の後に鳥居をくぐる時すべて落としてわたしに戻る/お題:神社

繋ぐ手を離さないまま降り立とうはじめましてじゃないはじまりに/お題:ダ・カーポ

背なかへと降らせる花に醒まされて四方の風が会するは春/お題:小フーガ

欄干に左手を添え一段ずつ裾を揺らして階下へ向かう/お題:へ音記号

助手席で視界の端に渓流を見るたびガラスに触ってしまう/お題:渓流

重力がある言いたいも言えないも忘れ飛沫として落ちていける/お題:滝

今に見てろと呟いた胸のうち滝行用の滝増築中/お題:滝

罫線に春色の線引きをして四季ひとつ分新しい僕/お題:ラインマーカー

放課後の原稿用紙が埋まらずに泥む夕陽で染めて出したい/お題:原稿用紙

昨日にも明日にも続かない夜が今だけ全部ぼくらのものだ/お題:サーカス

背中から倒れ込むのを受け止める花の名くらい把握していたい

泣きたいを口に出せずに8帖を満たすばかりの歌の花火だ

脳天を撃ち抜く流れ弾のように一等星よ流れて見せて

セミダブルマットレスにて明けを待つ白いシーツの弓張月に

目を閉じて、耳を塞いでもう何も要らない代わりに宇宙に浮かぶ

白線を片足越えて、春風の与う眩暈を振り払いつつ

ベランダを発てる紫煙がやわらかく正しく夜気に溶けますように

首筋の夜風がやさしくベランダの隔て板越しささめき合った

溢れてく気泡がミズクラゲのようでこのまま溺れても良いや、とか

もう何も聞きたくも言いたくもなく気泡ばかりを吐き回遊魚

手が届く距離で小さな音を出す機械がほんとうの夜空をくれる

君のいない夜にわたしは眠れたし北極星も見つけてしまった



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